コロナによって「試合」という最強コンテンツが消えたことで、多くの競技団体やチーム、アスリートが苦境に立たされている。一方ファンやサポーターが、草の根的にチームを応援する動きも出てきた

こうしたファンの想いをDX(デジタルトランスフォーメーション)によって、チームやアスリートに届ける取り組みが広がっている。その一つが「投げ銭」「ギフティング」と呼ばれるシステムだ。

ミクシィが始めたアスリート支援「ギフティング」

ミクシィとアスリートフラッグ財団は、スポーツギフティングサービス「unlim」を開始
ミクシィとアスリートフラッグ財団は、スポーツギフティングサービス「unlim」を開始
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株式会社ミクシィと一般財団法人アスリートフラッグ財団は、プロスポーツクラブやアスリートを支援するスポーツギフティングサービス「unlim(以下アンリム)」を2月に開始した。

ファンは、アンリムの公式サイト上で、好きなスポーツクラブやアスリートを選び、「ギフティングする」=寄付を行うことが出来る。

「私はスポーツほど多くの人を元気にできるものはないと考えています。しかし、スポーツの現場ではスポーツクラブやアスリートの活動資金が大きな問題となっています。そんな状況を少しでも改善したいという思いで立ち上げました」

このサービスの狙いを語るのは、株式会社ミクシィの代表取締役社長木村弘毅氏だ。

「今年は特にスポーツにおいて新型コロナウイルスによる影響を大きく受けており、そうした環境であるからこそ、『Unlim(アンリム)』を通じてアスリート支援の輪を作っていきたいと考えています」

ミクシィ木村社長は「アスリート支援の輪を作っていきたい」と語る
ミクシィ木村社長は「アスリート支援の輪を作っていきたい」と語る

スポーツ界でも始まった「投げ銭」サービス

6月には、「Player!(以下プレイヤー)サポート」という、チームをファンが直接応援できる新たな「投げ銭」サービスが始まった。

このサービスを運営する「ookami(以下オオカミ)」は、スポーツエンタテインメントアプリ「プレイヤー」を開発したスタートアップだ。プレイヤーではこれまでアマチュアスポーツを中心に、年間約2万試合の速報データを配信してきた。オオカミの代表・尾形太陽氏はこう語る。

「マスメディアはプロのサッカーと野球を中心に盛り上げてきましたが、一方でマスに乗れなかったスポーツはマイナースポーツと呼ばれるようになりました。インターネットはこのギャップを埋めるもので、理論上は無限にスポーツコンテンツを扱えます。試合映像の配信はコストがかかるので、私たちは主に情報の配信を行っています」 

プレイヤーには情報配信以外に、学校の運動部のOB・OG会費の集金機能がある。オオカミはこの機能を今回、試合の中止や無観客試合によってチケット収入の減少に苦しんでいるスポーツチームの課金システムに応用した。

「3月から4月は弊社にとっても向かい風でした。試合というコンテンツが無くなり、ユーザーも減りました。しかし、試合の再開を心待ちにしているファンは、応援したいという想いがあり、チームや選手との接点を求めていました。そこで試合が無くてもファンのコミュニティを作ろうと動画配信機能を開発して、まず選手の座談会みたいなミニ番組を作りました」(尾形氏)

ookamiの尾形代表は、試合が無くてもファンのコミュニティを作ろうと考えた
ookamiの尾形代表は、試合が無くてもファンのコミュニティを作ろうと考えた

地下アイドルにあったがスポーツには無い文化

さらにオオカミは、「チケットやグッズに代わる収入を、オンラインで上げられないか」という要望をうけ、鹿島アントラーズと選手の映像配信を実施した。

「サポーターからチームに金銭的な支援をしたいという声があり、スポーツ観戦のデジタル化の可能性に気づいて、風が変わったのを感じました。試合を観に行くことができなくても、ファンが自分の好きなチームをオンライン上でサポートできる。そんな新しいスポーツ観戦方法、収益モデルとして考えたのがプレイヤーサポートです」

オンライン上で感動の対価として払われる投げ銭は、「日本では地下アイドルにはあったが、スポーツではほとんど文化が無かった」と尾形氏はいう。

「海外ではアメリカでチッピング、ヨーロッパでギフティングと呼ばれていました。鹿島アントラーズは実験的に試合の再放送にこのシステムを導入しましたが、過去のコンテンツでもいけることを発見しました。また浦和レッズとは、練習試合の解説動画配信をファンに楽しんでもらいました」

声援が無くてもDXでサポーターの声を共有

投げ銭システムの導入について、Jリーガーの長澤和輝選手はこう語る。

「僕達は本来、サポーターの方々の存在がスタジアムで見え、声援を感じられるのですが、投げ銭システムだとサポーターの声援が感じ取れないという点は少し残念です。しかしリアルタイムでのチャットなど、本来スタジアムでは感じ取れないサポーターそれぞれの声をみんなで共有できるという点は面白いと思います」

Jリーガーの長澤和輝選手は「サポーターの声を共有できて面白い」と語る
Jリーガーの長澤和輝選手は「サポーターの声を共有できて面白い」と語る

投げ銭とはいえ、ファンには対価として、アントラーズならジーコのサイン付き壁紙などのデジタル画像や、抽選で数名にサイン本が提供される。さらにオオカミでは、投げ銭をエンタメにするスタンプ購入機能を開発中だ。尾形氏は「コロナによってスポーツ界の環境が大きく変わった」と強調する。

「これまでプロチームはスポーツ観戦のデジタル化をあまり考えてきませんでした。しかしチケットやグッズ収入が無くなるという危機が来て、スポーツのDXは強制的に加速しています」

プレイヤーの投げ銭システムは、Jリーグの他のチームでも導入が決まっているという。

尾形氏は語る。
「スポーツ界ではなかば強制的にDXが進み、ビジネス会議のオンライン化みたいにコロナ前にはもう戻らないのではないかと思います。観戦領域以外にも選手のトレーニングなどでDXは進んでいます。これは世界的な流れで、アメリカではライブ映像の配信が進んでいたので、チームのマネタイズ手法もチケットやグッズ収入以外に多様化・分散化しています。日本もそうなる日が近いと思います」 

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。