混雑していても優先席に座らない

多くの人が利用する電車やバスなどの公共交通機関。
その車内には、高齢者や体の不自由な人などが優先的に使用できる「優先席」が設置されている。

この優先席をめぐって、いまネット上である議論がおきている。
それは、「優先席が空いていた場合、座るか、座らないか」というもの。

発端となったのは、7月28日、京都市営バスに乗車したあるツイッターユーザーが遭遇した混雑するバス車内での出来事だ。
投稿者が撮影した写真を見ると、乗客がひしめき合うようにして立っている中、不自然に空いている席があった。

京都市営バスの車内(投稿者撮影)
京都市営バスの車内(投稿者撮影)
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よく見ると、その席の背後の窓に貼られたステッカーには、「おゆずりください」という文言が見える。
空席になっている場所は、優先席だったのだ。

投稿者は、「とても混んでいるのだから、優先席だろうと誰かが座れば、その分 立っている人に余裕ができて息苦しくならなくなるのに、なぜ座らないんだろう」と疑問を投げかけ、さらに、「電車でも同じ。優先席も座席なのだから、臨機応変に座ったらいいのに」と訴えた。

この投稿に、多くのユーザーから賛同の声や優先席に対するさまざまな意見が寄せられ、注目を集めている。

「座らない」と「ときどき座る」がほぼ同率

優先席が空いていた場合、あなたならどうするだろうか。座席に座るのか、それとも座らないのか?

マイナビニュースが、通勤で列車を利用する812人を対象に昨年行ったアンケートでは、「座らない」と答えた人は43.7%、「ときどき座る」は42.7%、「よく座る」は13.5%という結果に。
(出典:マイナビニュース 「優先席には座る? 座らない? 『後から譲るのが面倒』という声も」

「座らない」と回答した人がわずかに多いが、「ときどき座る」と回答した人とほぼ同率となった。
それぞれの意見を聞くと、以下のような理由が挙げられた。

【座らない】
「必要な人が来た時に、その人がすぐに座れるようにあけておきたいから」
「なんとなく座ってはいけない感じがするので」
「以前、優先席に座って寝ていた時に、お年寄りに無言でかばんを押し付けられたことがあるから」
「後から高齢者や障がい者がいらっしゃった場合に、席を譲るのが恥ずかしいから」

【ときどき座る】
「本当に疲れていて、しんどかったりしたら、周りを見てお年寄りや体の不自由な人がいなかったら座ります」
「混雑がひどい場合に、立ち客のスペースを少しでも広げるため、時々座ることがある」
「短距離の時は座らないが、長距離の時はずっと立つのもしんどいので」

【よく座る】
「座れたらどこでもいいから」
「優先席は、あくまで必要とする人がいた場合に優先して座ることができる席だと考えているからです」
「空いているので、座ってもいいと思うから。優先されるべき人がその後乗車してきたら、席を譲れば済むことなので」


優先席をめぐっては、座った時の周りの目や、譲るときの気恥ずかしさなどがよく話題になるが、今回の投稿画像やアンケートでも、世代を問わず優先席を敬遠しがちであるという傾向が見られた。
それでは、混雑時の利用について、事業者側はどう思っているのだろうか? 京都市交通局の広報担当者に話を聞いた。

「必ず空けておかなければならない席」ではない

バスの車内(資料画像)
バスの車内(資料画像)

ーー京都市営バス(市交通局)では、どのような人を優先席の対象としている?

車内放送では、「お年寄り、体の不自由な方、赤ちゃんのおられる方に席をお譲りください」とアナウンスしています。
また、座席近くに貼っているステッカーでは、プレママと呼ばれる妊娠されている方にもお譲りいただくように案内しています。
その他、内部疾患を抱えている方や体調、気分が優れない方にもご利用いただければと考えています。


ーー混雑時には健常者が座っても問題ない?

「優先席=必ず空けておかなければならない席」という認識でなく、京都市交通局では、ポスター等でそのように謳ってもいません。
優先席は、座席が埋まっている時に、必要とされる方に対して積極的に譲るべき席であり、空いている時はどなたが座っても問題ありません。


ーーそれでも優先席には座りにくいという声も多いですが?

目的地が近いと座らないという方や、優先席が必要な方が来たらすぐに対応できるように座らないという方もいらっしゃると思います。
バックミラー越しに優先席のある場所の状況を把握することは難しく、「優先席もご利用ください」といった声掛けなどはしていませんが、混雑時には「車内、中の方にお詰めください」というアナウンスをしています。
周囲の状況に応じて、多くのお客様にご利用いただければと思います。

札幌では「優先席」でなく「専用席」

札幌市営地下鉄の車内(資料画像)
札幌市営地下鉄の車内(資料画像)

京都市営バスの車内で見られた「混雑時でも優先席が空席なまま」の光景に対して、一部のユーザーからは「札幌市民は空いていても絶対に座らない」というコメントが寄せられていた。
札幌市では、「優先席」の名称は「専用席」となっているというのだ。

札幌市交通局のホームページを確認すると、問い合わせページに「札幌市の地下鉄は、なぜ『優先席』ではなく『専用席』なのですか?」という質問とその回答が記載されていた。

回答によると、札幌市営地下鉄では、1974年4月に高齢者や体の不自由な人の利用を想定した「優先席」を試行的に設置。
しかし、当時は若い健常者が座席を占領することがあり、本来の優先利用の対象者が座れないとの声が多く寄せられた。
市議会での審議等を踏まえ、1975年4月に「専用席」に名称を変更したという。

この専用席、「優先」よりも強い言葉を使っているが、利用対象者以外が座ってはいけないものなのだろうか?
札幌市交通局の担当者に聞いた。


ーー「専用席」は優先席と同じ意味合い?

専用席の利用対象者は、名称変更当時の高齢者や体の不自由な人に限らず、現在は、乳幼児を連れている人、妊娠している人、内部障がいを持つ人も対象としています。
ステッカーや車内放送で案内をしており、専用席は、1975年からの歴史の中で、札幌市民のみなさまに定着しています。


ーー混雑時は誰でも利用していい?

基本的には、先に挙げた方々のための「専用席」ということでお客さまに理解を得ていますが、広い意味で多くの方に譲り合ってご利用いただきたいという座席です。



今回の取材で、2つの市交通局からは「状況に応じて譲り合って利用してほしい」という回答を得た。
電車もバスも乗客の安全が第一で、今回の投稿画像のように座ることで混雑が緩和されるケースなど、優先席については周囲も含めてもう少し理解が必要なのかもしれない。

記事 4806 プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。