「これやっておいて」なんて、上司から言われることは日々あるだろう。
そのあとに、仕事の説明や指示があるのであれば、納得した上で仕事を引き受けられる。
だが、「これやっておいて」と言った上司が、丸投げした仕事も把握せず、そのうえ暇そうにしている姿を見た時の憤りは計り知れない。
それが毎日続くとなおさらだ。
理想のリーダーとはほど遠い“逃げハラ上司”

世の中には「セクハラ」や「パワハラ」など相手に対して精神的・肉体的な苦痛を与えることを指す言葉が多く存在している。
そこで、仕事から逃げっぱなしで周囲がストレスを抱えることを、逃げるハラスメント「逃げハラ」と表現してみた。
本来であれば、仕事を適切に割り振ったり、問題が発生した場合に責任を取るのは上司の役目である。
が、そういった行動を一切しないのが「逃げハラ上司」。
自分に回ってきた仕事はすべて部下に丸投げ。具体的な指示はなし。問題が発生した場合にも矢面には立たない。
そして、手柄だけはきちんとものにするのである。
取材してみると、ある金融関係の会社の上司はややこしい仕事は基本丸投げし、忙しくても「それは自分の仕事じゃない」と手を差し伸べない。
さらに、あるとき、仕事を振られて得意先に電話してみると、先方が怒っていた。
実は、その上司が前日に怒らせていたのだが、電話しづらい状況を伏せて部下に振っていたのだ。
あなたの会社でも思い当たる人がいるかもしれない。
そして、こういうタイプは得てして、自分に降りかかる仕事や責任を察知してかわす“危機回避能力”に長けている。
もしこうした上司のもとで働くことになったら…考えただけで背筋がゾッとするわけだが、そもそもなぜこうした逃げハラ上司が生まれてしまうのだろうか?
世代間のズレが丸投げ現象に表れている!?
「仕事の丸投げが生まれる原因は、大きく3つ考えられます」
そう話すのは、同志社大学政策学部で組織論を研究している太田肇教授だ。
「1つは単純に忙しい場合。自分のことで手一杯のため、指示が適切に下されないことが多くなります。次に考えられるのは、上司が若い頃に仕事を丸投げにされていた場合。つまり、仕事を丸投げにする方法しか知らないことが考えられます。
そして最後が、職場のIT化に追いつけない場合。特に最近は仕事の方法が急速に変化しています。その流れに追いつけない結果、仕事を丸投げにしてしまうケースがあります」
どれも聞いてみると、確かに頷けるものばかりだ。
特に近年は、団塊世代や団塊ジュニア世代が現役バリバリだった頃と働き方が大きく変化している。
やりとりはビジネスチャット、データはクラウドで管理と効率的になればなるほど、アナログ人間は置いてけぼりになるわけだ。
ある意味では、世代間のズレが仕事丸投げという現象に表れているのかもしれない。
原因は上司の資質だけの問題ではない
だが、「仕事の丸投げは個人だけの問題ではない」と太田教授は続ける。
「日本は、制度的にも文化的にも集団主義の強い国です。その結果“集団無責任体制”に陥ってしまうケースがあります。その結果、責任を取らない上司が生まれてしまうのです」
この集団無責任体制とは、誰が責任を取るのかの所在がはっきりしない組織の状態を指す。
この場合、全員が当事者意識を持って働く状況を生み出せれば大きな力になるが、それができないと責任の所在がどこにあるのかわからなくなる。
上司が責任を取ってくれるものだと部下は思っているのに、上司は部下に責任があると考えているとなると、結果として“誰も責任を取らない組織”になってしまうわけだ。そのツケが部下にまわってくる。

"ピンチはチャンス”上司をマネジメントしよう
では、もし逃げハラ上司のもとで働くことになった場合、どのように対応していくのがいいのだろうか?
「組織的な仕組みを変えていかなければ、根本的な丸投げ体質は改善しません。しかし、これは個人の力ではどうすることもできないことでもあります。ですから、まずは上司をマネジメントすることを心がけてください」
太田教授によれば、仕事の丸投げは場合によってはチャンスだという。
「仕事を丸投げにされるということは、自分の裁量で働ける機会でもあります。その際に上司からきちんと権限をもらうことはもちろんですが、数値目標や最低限の情報を共有してもらうように心がけてください。
もし上司が何も把握していなかった場合には、さらにその先の担当者と直接やり取りできるようにお願いするのも手。それで結果を出し続ければ、自分が仕事をしやすい環境をつくり出せるようになるはずです」
ここで重要なのは、(好む好まずに関わらず)逃げハラ上司を自分の側に取り込むことだという。
「神輿を担ぐというと大げさかもしれませんが、上司を煽ってその気にさせることが大切です。どんな人であっても、自分のメリットになることに消極的なことはまずないでしょう。
仕事をするうえで、どんな良い影響があるのか、逆にその障害になるものが何なのかを伝えると、上司が動いてくれる確率は上がると思います」
残念ながら逃げハラ上司はこれからも存在し続けるだろう。
だが、昨今は働き方が流動的になっており、組織よりも個の力が重要になりつつある。
ただ逃げハラ上司の言いなりになるのではなく、先ほどの太田教授の助言のように、どうやったら逃げハラ上司をコントロールできるかを考えてみると一気に視界が開けてくるはずだ。
そして、自分に部下ができたときに逃げハラ上司にならないこと。その心がけがいちばん大切なことだ。
文=村上広大(EditReal)