「象徴天皇としてのお務め」

終戦の日から73年を迎えた8月15日。平成最後となる全国戦没者追悼式が行われ、天皇皇后両陛下が出席された。

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天皇陛下は、お言葉で「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ、ここに過去を顧み、深い反省とともに、今後、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い、全国民と共に、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、心から追悼の意を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります」と述べられた。

これまで、式典や誕生日の会見だけでなく、多くの機会で平和への思いを込めたメッセージを伝えられてきた陛下。そのお言葉のひとつひとつは、日本人が「象徴天皇としてのお務め」について深く考えるきっかけになっている。それでも、ほとんどの日本人にとって、天皇や皇室について考える機会はそれほど多くないのが現実だろう。

2019年4月30日に今上天皇は退位され、平成の時代が終わる。天皇や皇室のあり方は今後、どのようになっていくのだろうか?

著書『池上彰の「天皇とは何ですか?」』の中で、「天皇や皇室について考えることは、私たちが暮らしている日本という国がどういう国なのかということを考えることにほかなりません」と説いているジャーナリストの池上彰さんに、退位の意味や今後の皇室などについて話を聞いた。

池上彰さん(撮影:宮下マキ)
池上彰さん(撮影:宮下マキ)

「退位を受け入れるのは当然のこと」

――池上さんが宮内庁を取材していたのは昭和の頃だと思いますが、一番印象に残っているのはどんなことでしょうか。

連日、皇居の中にいて、「ウサギを目撃した」という記者の話を聞き、大都会の中に大自然が残されていることを知りました。昭和天皇が、「雑草という名前の草はない」とおっしゃったように自然をありのままに残そうとする態度に感銘を受けました。


――2019年4月末、天皇陛下が退位されますが、日本人は、天皇や皇室を語ることについて消極的に見えます。タブー視される部分はあると思いますか。


雑誌『中央公論』が1960年12月号で作家の深沢七郎の『風流夢譚』を掲載したところ、天皇一家を侮辱していると右翼団体が激しく抗議しました。中央公論社の社長宅を少年が襲撃し、応対に出た家政婦が殺害されたことをきっかけに、天皇や皇室を語ること自体がタブー視されてきた経緯があります。

『風流夢譚』
小説。主人公が夢の中で「革命」に遭遇し、天皇や皇族が殺害されるのを目撃する場面が描かれている。

――そんな中、今回、天皇の歴史を振り返り、解説する書籍を発売しようと思われたのはなぜでしょうか。

今上天皇は、「国民統合の象徴」とは何かを常に考えてこられました。そのご努力に尊敬の念を持ってきました。象徴としての務めが困難になったから退位したいとの思いの背景には何があったのかを多くの人に知ってほしくて書籍にまとめました。


――元侍従長の渡邉さんのお話では、今上天皇は「生前退位」について五〜六年前から考えていらっしゃったということですが、今回の退位について、池上さんのお考えはいかがでしょうか。

象徴の務めが果たせなくなってきたから退位されたいとお考えになったとのこと。象徴とは何かを私たちに伝えてくれたのです。退位を受け入れるのは当然のことだと思います。

五、六年前から退位についてお考えに
五、六年前から退位についてお考えに

――渡邉さんからお聞きした今上天皇のお人柄やご性格について、どのように感じましたか。

今上天皇のお人柄やご性格は、ただひたすら感銘を受けるしかありません。そのことを、これまで私たちはどこまで知っていたのか、忸怩たる思いがあります。
 

――女性天皇や女性宮家を認めるかどうかの議論について、愛子さまや悠仁さまが成長するまで波風を立てるべきでないとの声もあります。池上さんのお考えはいかがでしょうか。 

日本国憲法第1条に、「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」とあります。その地位について国民が議論するのは当然のことだと思います。


――今回の著書を読むと、今上天皇が、被災地のご訪問や慰霊の旅など、「象徴天皇としてのお務め」を意識していらっしゃることを改めて強く感じられます。今上天皇が退位された後、「象徴天皇」の意味、これからの天皇制度、皇室はどのようになっていくのでしょうか。

いまの憲法のもとで初めて即位された今上天皇は、「国民統合の象徴」とはどういうものか、常にお考えになり、歩むべき道筋をおつくりになったのだと思います。次の天皇陛下は、欧州の王室のあり方もよく見てこられたと思います。常に時代に即して新しいものを受け入れることで伝統を守るという道を進まれることと思っています。

記事 64 清水俊宏

世の中には「伝えたい」と思っている人がたくさんいて、「知りたい」と思っている人がたくさんいる。その間にいるメディアは何をすべきか。現場に足を運んで声を聴く。そして、自分の頭で考える。その内容が一人でも多くの人に届けられるなら、テレビでもネットでも構わない。メディアのあり方そのものも変えていきたい。
2002年フジテレビ入社。政治部で小泉首相番など担当。新報道2001ディレクター、選挙特番の総合演出(13年参院選、14年衆院選)、ニュースJAPANプロデューサーなどを経て、2016年から「ニュースコンテンツプロジェクトリーダー」。『ホウドウキョク』などニュースメディア戦略の構築を手掛けている。