玄関ドアやガスメーターなどに、謎のマークがつけられているのを見たことがあるだろうか。
非常に困った話だが、「一人暮らし」や「日中不在」などの情報が"暗号"でマーキングされていることがあるのだという。

普段見慣れないマークを発見したら、消してしまうのが一番だが…Twitterにもそんな"謎のマーク"を発見したという投稿があった。



玄関のドアにバッテンついてる! 調べたところコガタコガネグモの仕業らしいです。クモよ、きみ凄いね。」

島根県に住むazukKi(@azukki_)さんが玄関のドアに発見した、チョークで書かれたような大きな白い×マーク。
訪問販売のためのマーキングか?とよーく見てみると、その上にはうす茶色のクモが一匹……なんと、クモの巣の模様だったのだ。

マーキングではなかったことにひと安心しつつ、この投稿には驚きの声とともに「白帯ですね!」「これは隠れ帯といって、姿を隠している」など、クモ知識が続々寄せられた。

確かに、×マークの上にちょうど隠れるように乗っているクモは、姿を隠しているようにも見えるが…
こんなに目立つ模様のクモの巣だと、天敵である鳥に自分の居場所を知らせてしまうし、エサの昆虫には、巣を避けて通られてしまうのではないか。

なぜこんな形のクモの巣をつくるのか?日本蜘蛛学会、東海大学・農学部の村田浩平教授にお話を聞くことができた。

謎のマークは「むしろ目立って正解」

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――この「×マーク」は一体何?

以前は「隠れ帯(かくれおび)」と呼ばれていました。まさに、隠れていると想像されたからでしょう。
現在は「白帯(はくたい)」と呼ぶことが多くなりました。この理由は、機能が十分解明されていないためです。


――何のために作られる?

有力な説は、「天敵に対する防衛」と「餌の誘引」です。
天敵に対する防衛の中で特に有力なのは、網を目立つようにして、鳥などが網を破るのを防ぐ、というものです。
私たちと同じように、鳥でも、網があることを知らずに通過すると、網が顔に付いて不快なのでしょう。実験的に白帯を取り除くと、鳥によって網が破られる率が増したことを示した研究があります。

また、白帯は他の糸に比べて、紫外線をよく反射するという性質があります。ハエなどの昆虫は、紫外線を反射するものに誘引される性質があります。
そのため、同種のクモで白帯がある網の方が、餌が多く捕れたことを示した研究があります。

2つの説は、どちらが正しいかというより、「クモの種によって白帯の機能が違う」、あるいは「複数の機能をもつ」と言えそうです。
しかし、はっきり結論が出たわけではありません。

×マークの上にキチンと乗っているのは、どこかカワイイ?

この×マークの正体は「白帯」というものだという。
確かによく見ると、我々がイメージする細い糸の「クモの巣」もしっかり張られていて、その上に×マークがのっている。
もともとは「隠れ帯」と呼ばれていたものの、クモが隠れるためだけのものではないため、混乱しないように呼び方も変わってきたのだという。

一番の謎の「なぜ作られるか」ついては、現在も論争中で徐々に解き明かされてきている最中だというが、現在は「鳥が巣を壊すのを防ぐため」「昆虫を寄せ付けるため」という2つの説が有力だそうだ。

この白帯、あまり目立ってはマズいのでは…と思ったのだが、実は「目立って正解」のようで、「ここに触るとベタベタするよ」と鳥にアピールすることで、巣を壊されるリスクを減らしているのだという。
また、昆虫の目は紫外線の反射を頼りに花を探しているが、クモはその仕組みを利用して、紫外線をよく反射する白帯で昆虫を呼び込んでいるのだ。

他にも「ジグザグ模様」や「らせん状」の白帯も

――白帯をつくるクモは珍しい?

白帯を作るクモの種は、クモ全体からみるとごく一部に限られます。
しかし、これらの種は、よく見かけますし、全く異なるグループ(分類群)の クモが作ることから、クモの中では決して珍しい現象とは言えません。

白帯を作る主要なグループは2つあります。
(1)コガネグモ類:分類学的にはコガネグモ属(学名はArgiope、コガネグモ科に属す)
コガネグモ、チュウガタコガネグモ、コガタコガネグモ、ナガコガネグモなど…X字型が基本。ナガコガネグモは、直線状(棒状)でジグザグ模様

(2)ウズグモ類:ウズグモ属(学名はOctonoba、ウズグモ科に属す)
ウズグモ、カタハリウズグモ、トウキョウウズグモなど…網の中心部に、らせん状の白帯(そのためウズグモと言う)。直線状の白帯も作る。

左:ナガコガネグモの白帯 右:ウズグモの白帯

――いろいろな模様があるが、それぞれ機能は違う?

白帯の基本形はクモの種によって決まっています。白帯の模様によって機能が違うかは、よく分かっていません。
クモの種によって機能が違う可能性がありますが、模様の違いによるものではないようです。

基本形は決まっていますが、同種でも基本形からの変化が見られます。X字型を基本とするコガネグモ属では、ハの字型もあります。これは4本の白帯のうち、2本が欠けているとみなせますが、これだけではなく、1本欠けたもの、3本欠けたものがあり、さらに白帯がない網まであります。

同種内の違いは、個体差の可能性もありますが、同じ個体でも違うことがあるようです。また、ウズグモでは、クモが空腹であるかどうかで違うという例が示されています。このように、同種内の違いについては、不明な点が多く残されています。


クモの巣は縦糸や横糸、クモがぶらさがる部分の糸など、様々な糸で編まれているものの、すべての糸はわずかに成分比率が違うだけで基本的には同じものなのだという。
白帯を作っている糸も特別なものではなく、エサを捕らえてぐるぐる巻きにするための糸と同じ成分で、その糸をたくさん束ねているので、白く太く目立って見えるのだそうだ。

クモの種類によって白帯の模様には違いがあるものの、機能に差があるかはわかっていないそうだ。

また、同じ種類のクモなら同じ模様を描くか、というとそうとも言えず、個体差があったり、さらには一匹のクモが違う模様の白帯を作ったり、空腹か満腹かでも違いが出ることがあるのだという。

試しに、投稿された写真と、別のコガタコガネグモの写真を並べてみると、一目瞭然。

左:投稿された写真 右:別のコガタコガネグモ

投稿された写真の白帯がキッチリ定規で引かれたような線なのに対して、もう一方はフニャフニャ曲がって、端っこの処理が雑なような…
azukKiさんが見つけたクモは几帳面なタイプだったに違いない。

ちなみにこの見事な×マーク、残念なことに先日の台風の影響か、撮影から5日後の24日にはきれいに消えてしまったという。


日本蜘蛛学会は「白帯には多くの謎が残されており、これからクモや生物の研究を志す人には、是非ともこの謎解きに挑戦していただきたいと思います」と語っている。