2回目の米朝首脳会談は近く、シンガポール以外で

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9月24日、米国のトランプ大統領は、先週南北首脳会談を行った韓国の文在寅大統領との会談の冒頭、「金正恩委員長との2回目の会談を近く開催する」と述べたうえで、開催地について、トランプ大統領は、前回のシンガポール以外だと述べた。

先週、3度目の南北首脳会談を行った文大統領とは、核施設への査察受け入れをめぐる北朝鮮の認識を確認したり、北朝鮮が核施設廃棄の条件として求めた「アメリカによる相応の措置」についても協議したとされる。

「核脅威のない朝鮮半島」日本への影響は?

先週、韓国の文在寅大統領は、北朝鮮の金正恩委員長と一緒に白頭山の山頂に一緒に登り、その映像を公開するなど融和ムードの演出が目立っていた。

南北首脳が、署名して取り交わしたのが、「9月平壌共同宣言」。
軍事的敵対関係の終息」という言葉がうたわれていて、具体的な項目として「板門店宣言軍事分野履行合意書」を平壌共同宣言の付属合意書として採択し、…朝鮮半島を恒久的な平和地帯につくる等。注目の核については「朝鮮半島を核と核脅威のない平和の地盤」につくっていく、となっている。

板門店宣言軍事分野履行合意書

“核のない”朝鮮半島というのは、北朝鮮の非核化につながるかもしれないが“核脅威のない”朝鮮半島という記述は、アメリカの核の傘=核抑止への影響が気になるところだ。「日米防衛協力の指針」では「米国は、核戦力を含むあらゆる種類の能力を通じ、日本に対して拡大抑止を提供する」となっているため、日本の安全保障にとって重要と考えられているからだ。

南北合意は、日本の安全保障にとってプラスか?

さらに、核に関しては「米国が6・12朝米共同声明の精神に従って相応措置を取れば」という条件付きで「寧辺核施設の永久的廃棄のような追加的措置を、引き続き講じていく」としている。

寧辺の核施設というと、原子炉があって、核兵器の材料となるプルトニウムの生産を行っていたが、2008年に原子炉につらなる冷却塔を爆破してみせたことがあった。しかし、2013年には冷却塔が再建されて、原子炉の運転が行われた。

今回、あらためて「永久的な廃棄」との記述があってもどうなるか。しかも、これでは、既にできていると言われる核爆弾やその材料のプルトニウムや濃縮ウランがどうなるのか分からない。

スカッドER

そして、ミサイルの方は、「北側は東倉里エンジン試験場ロケット発射台を関係国専門家の参観の下で、まず永久的に廃棄する」となっているが、日本にとって大問題の、ノドンやスカッドER・火星12型・北極星2型といった移動式発射機や潜水艦発射弾道ミサイル・北極星1型のように、日本が射程になってしまう弾道ミサイルについては、一言もない。

南北の“陸海空における取り決め”

また、「付属合意書」と位置づけられた「板門店宣言軍事分野履行合意書」では、南北は地上と海上、空中をはじめとする全ての空間で軍事的緊張と衝突の根源となる、相手方に対する一切の敵対行為を全面中止することにした」としている。

板門店宣言軍事分野履行合意書より(陸)

具体的には以下の通り。
・2018年11月1日より、軍事境界線一帯で相手方を狙った各種の軍事演習を中止
・地上では軍事境界線より5キロ以内で砲兵射撃訓練および連隊級以上の、野外機動訓練を全面中止
・海上では黄海と日本海のある海域を図示し、砲射撃および海上機動訓練を中止し、海岸砲と艦砲の砲口・砲身のカバー設置および砲門閉鎖措置を採ることにした

板門店宣言軍事分野履行合意書より(海)

航空機・気球に関しては、さらに細かく規定されている。
・2018年11月1日より、軍事境界線飛行禁止区域を設定
固定翼航空機(ジェット機やプロペラ機)は軍事境界線から東の地域は40km幅、西の地域は20km幅で、飛行禁止区域を設定する
ヘリコプターのような回転翼機は軍事境界線から10kmドローン東部地域15km、西部地域10km、気球は25kmが飛行禁止となる
・山火事の鎮火、遭難救助、患者の運搬などで飛行機運用が必要な場合には、相手方に事前に通報し飛行できるようにする
・民間機に対しては上記の飛行禁止区域を適用しない

板門店宣言軍事分野履行合意書より(空)

気がかりなのは韓国軍の“RC-800電子偵察機”

航空軍事評論家・石川潤一氏:
南北首脳会談でDMZに幅10-40kmずつの飛行禁止区域を設定するという合意で、影響を受けるかもしれないのは、韓国空軍のソウル、ソンナム基地のRC-800ではないか。

韓国軍RC-800(画像提供:ナカムラさん)

4機しかないと言われる「RC-800」だが、韓国軍にとっては、38度線近辺と以北の情報をとる、いわば“虎の子”の存在。いわゆる低空から通信を傍受したり、細かな部隊の動きを見張る偵察機で、際どい情報もとっていたかもしれない。だが、今回の飛行禁止区域設定で、RC-800の動きが制限されれば、北朝鮮軍の情報を収集する活動に影響は出ないのか、というわけだ。

NATOと旧ワルシャワ条約諸国は、オープンスカイ条約と言うのを結んでいて、時折、その履行にあたって、ギクシャクはしてきたが、相手の軍隊の動きを相互に空から査察することをルール化している。
それに比べると、とにかく、相手を覗き見するようなことはしないと言わんばかりの「板門店宣言軍事分野履行合意書」は、異質な感じだ。

北朝鮮メディアが非難「韓国海軍新型潜水艦」

「北朝鮮の対韓国宣伝メディア」(韓国・中央日報紙)と言われる「わが民族同士」は、南北首脳会談の成果を強調する一方、南北首脳会談後の9月24日付けで「民族和解と平和繁栄の雰囲気に逆行する軍事的動き」という論評記事を掲載し「今全同胞は朝鮮半島に造成された民族の和解と平和繁栄の雰囲気について積極的な支持声援を送っている。

しかし、南朝鮮の好戦狂は同胞の志向と大勢の流れを無視して軍事的な動きを続けている」として、その具体的な一例として「好戦狂は3000トン級潜水艦の進水式劇を広げておいて、『力を通じた平和は、政府の揺るぎない安保戦略』などを騒いで…」と記述している。

KSSIII島山安昌浩(トサン・アン・チャンホ)の進水式に出席した文在寅大統領

この「3000トン級潜水艦」とは、韓国海軍のKSSIII「島山安昌浩(トサン・アン・チャンホ)」だろう。この潜水艦は、南北の当局者が常駐する北朝鮮の開城にて、南北共同連絡事務所の開所式が開かれた9月14日に進水式が行われ、文大統領もわざわざソウルを離れ、韓国南部の巨済での進水式に出席した。

2020年頃に就役するこの潜水艦は、ミサイルの垂直発射基を6基もち、巡航ミサイルの他、射程距離500キロ以上の玄武-2B弾道ミサイルの搭載も検討していると言われる。原子力ではない潜水艦が弾道ミサイルを装備するのは、近年では珍しいが不可能ではない。

玄武2弾道ミサイル

海上自衛隊の潜水艦には、弾道ミサイルを装備できるものはない。進水式は、南北首脳会談より前だったが、南北首脳会談の終了を待っていたかのように出た「わが民族同士」のこの潜水艦への反発は、融和ムードの中でも、その底流には軍事的緊張があることを示している。

南北首脳会談が実施され、2回目の米朝首脳会談が視野に入ってきても、このような軍事的緊張が、その底流にあることは、見過ごせないことだろう。

(執筆:フジテレビ 解説委員 能勢伸之)