世界194カ国 1億3000万人に愛されている空手

2020年、東京五輪の追加種目として採用された空手。
9月14日から16日まで国際大会「プレミアリーグ」がドイツ・ベルリンで開催された。これは年に7回、世界各国で開催されるシリーズ大会で、世界ランキング100位までの選手しか出場できない。非常にハイレベルな大会だ。

と、ここまで述べてはみたが、これまで空手について触れてこられなかった方には、そもそも世界でそれほど競技に取り組んでいる人がいるのか、と思われるに違いない。そこでまずは、「空手」とその国際的な広がりについて簡単に説明しておきたい。ちなみに筆者は学生時代から10年以上空手を経験してきた。

「形(かた)」と「組手(くみて)」

空手には「形(かた)」と「組手(くみて)」の2種目がある。
「形」は四方八方の敵を想定して構成された一連の技を1人で演武し、その正確さや力強さなどを競う。「組手」は1対1で実際に突きや蹴りを出し合って攻防を繰り広げる。このとき強力な技が相手を傷つけないよう、当たる寸前で止めるようにコントロールしなければならない。

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組手

空手は琉球王国時代の沖縄で、中国から伝えられた武術と地元の武術とが合わさって誕生した。よって、当初は「唐手」と書いた。大正時代に入ると、日本本土へと伝えられた。大学に空手部が相次いでつくられ、そこで学んだ人たちが世界に広めたのだ。
また、沖縄県によると、沖縄の空手家たちの中には、第二次世界大戦の前からハワイなど海外で指導していた人もいたという。

イスラムのヒジャブ着用も認める

近年は文化や宗教の多様性を尊重するとして、イスラム教の女性選手や審判に試合中に髪を覆い隠すヒジャブ(「Karate Hijab」という商品がある)の着用を認めるルールも制定された。こうして国際化を進めた結果、現在では194の国と地域に空手の連盟があり、1億3000万人以上がこの競技に取り組んでいる(全日本空手道連盟調べ)。最近では空手をする人のことを、英語でも「Karateka(=空手家)」と表記するようになってきた。

ヒジャブをつけた選手

今回のベルリン大会に出場したのは、世界72の国と地域から延べ763人。この「プレミアリーグ」シリーズで上位に入り、世界ランキングを上げることが東京五輪出場につながるため、白熱した戦いが繰り広げられた。

日本代表は男女の形、性別・体重別の組手であわせて12のカテゴリーに出場。5つで金メダルを獲得した。これは参加国の中で最多の数だが、逆に言えば半分以上のカテゴリーで勝てなかったということだ。ほかに優勝者を輩出したのはイラン、トルコ、ウクライナ、イタリアなど。3位まで広げると、ブラジルやアメリカ、エジプトにアゼルバイジャンなども加わり、20ヵ国の選手がメダルを獲得したことになる。世界中に空手が普及し、各国の選手たちのレベルが高まっていることがわかっていただけると思う。

空手から「礼節」を学ぶ

このように空手が世界中で愛されている理由の1つに、武道が持つ礼節を学びたいということが挙げられる。あるフランス代表選手は自分も周りの同級生たちとサッカーをやりたかったが、父親に「お互いに尊敬しあうスポーツ」に取り組んでほしいと希望され、空手を選んだという。
空手では試合前後にもちろん礼をする。さらに近年は、反則を犯した際に、相手に謝罪の気持ちを込めて礼をする選手が多い。また筆者はフランス・パリで空手道場の稽古に参加したが、練習の前後に指導者だけでなく、ともに練習する仲間に深々と礼をする姿がとても印象的だった。

こうして空手に打ち込んでいる世界中の「Karateka」たちは、初めての五輪となる東京を目指している。空手発祥の国である日本で、東京の日本武道館で競いあうことを夢見ている。五輪までに解決されるべき課題も多々あるが、日本の武道に尊敬の念を向ける世界中の人々をぜひ温かく迎え入れていただきたいと思う。

空手を観戦しに詰めかけた観客

「初の五輪」へ 注目の選手たち

ダミアン・キンテロ選手(左) サンドラ・サンチェス選手(中央) ビビアナ・ボッタロ選手(右)

今後、東京五輪の代表争いはさらに激しくなっていく。最後に今後ぜひ注目していただきたい選手たちを紹介する。

・男女形
形競技は跳び蹴りや鋭い突きなどの華麗な技はもちろん、激しい動作にもかかわらず、全く姿勢がぶれない一流選手たちの美しい演武が見どころだ。
日本にはともに世界選手権2連覇中の男子の喜友名諒選手、女子の清水希容選手がいて、空手母国としての存在感を示している。
この2人を追いかける選手たちが世界各国にいる。男子では喜友名選手に5年ぶりに国際大会で勝利し、ヨーロッパでは敵なしのスペインのダミアン・キンテロ選手に注目。かなりのイケメンだ。女子はベルリン大会で銀メダルを獲得したスペインのサンドラ・サンチェス選手、同じく銅メダルのイタリアのビビアナ・ボッタロ選手たちが清水選手から女王の座を奪おうと狙っている。

喜友名諒選手(左) 清水希容選手(右)

・組手(くみて)
組手は階級が多いので、筆者が注目する男子75キロ級について紹介したい。この階級は今年に入って、アゼルバイジャンのラファエル・アガイエフ選手と日本の西村拳選手を中心に回ってきた。この2人が「プレミアリーグ」のベルリンまでの5大会でそれぞれ2勝を挙げていた。

アガイエフ選手は、これまでに5回世界選手権を制していて、「生きる伝説」と呼ばれている。身長165㎝程度とこの階級では小柄だが、素早いステップワークを武器に相手を翻弄するスタイルが持ち味だ。

西村挙選手(左) ラファエル・アガイエフ選手(中央) 崎山優成(右)

この選手におととし以来、4連勝していたのが22歳の西村選手。世界王者を父に持ち、物心ついたときには空手着を着ていたという。取材に対し、「東京五輪で何がなんでも金メダルを獲ります」と宣言してくれた。長い手足を使いこなし、多彩な蹴りを得意とする。蹴りは脚を上げるため、突きに比べて動作が大きくなり相手に読まれやすいのだが、西村選手の蹴りは隙がなく、スピードがあるので相手が全く反応できないまま決まることが多い。

しかし、ベルリン大会では思わぬ波乱が起きた。西村選手を破って決勝に進んだアガイエフ選手が、まだ19歳の崎山優成選手に敗れたのだ。一方の西村選手も敗者復活戦を勝ち上がり、銅メダルを獲得していて、今後この3人の戦いがさらに注目される。

ここまで書いてきてあらためて思うのだが、この競技の魅力は写真や文章では伝えきれない。次の「プレミアリーグ」は東京武道館で10月12日から14日まで開催される。興味を持った方はぜひ足を運んでいただきたい。そして、東京五輪で空手初のメダルを狙うKaratekaたちの熱く、美しい姿を見てほしい。

(執筆:FNNパリ支局 藤田裕介)