2トップ提携のインパクト

もう秋を感じさせる10月のパリ。
多くの新型EV(電気自動車)で賑わうモーターショーを取材しているとき、「トヨタとソフトバンクが提携」というニュースを知った。正直に言うと、今回の提携はあまり驚かなった。多くのメディアはIT業界と自動車業界の巨人が手を組んだことがサプライズ・ニュースとなって伝わっていた。なにせ株式の時価総額の2トップの提携なので、多くの経済メディアは飛びついたが、今回の記者会見では二社の共同事業会社「モネ テクノロジーズ株式会社」(MONET Technologies)が誕生し、モビリティのサービスを目指すというのが、発表の骨子だったが、具体的にどんな仕事をするのかについてはあまり報道されていなかった。経済メディアは事業の中身よりも豊田章男社長と孫正義社長という個性的な2トップの一言一句が話題となっていた。

今回の提携はトヨタ自動車の豊田章男社長からのラブコールがきっかけだったが、ソフトバンクの孫正義さんもこのラブコールを喜んで受け入れた。両社は自動車と通信ITという異なる世界で成長してきた企業だが、最近は自動車とITは急接近している。自動運転でもIT企業のサポートは必要だからだ。果たして今回誕生した「モネ テクノロジーズ会社はどんな事業を行うのか」色々と考察してみたいと思う。

メルセデス会長が放った「CASE」

真相を読み解くカギはここ数年の豊田章男社長の動向にありそうだ。
豊田社長の最近の関心事はモビリティをサービスとして提供する企業への転換なのである。これを「100年に一度の大変革」と強い信念を持って社内外でプレゼンテーションしている。

今回の発表会ではCASEという言葉を使って、モビリティの一大イノベーションを説明していた。実はこの「CASE」という言葉は、二年前のパリ・モーターショーでメルセデス・ベンツのディエター・チェッチェ会長(ダイムラーAG・CEO)が放った言葉だった。C=コネクト、A=自動運転、S=シェア・サービス、E=電動化を意味する。文字通り、CASEで示した4つのコンテンツが同時多発的に起きているので、従来の常識が通じなくなってきている。

トヨタ社長の父が提唱した「ITS」の思想

ここではC=コネクトとS=サービスについてもう少し詳しく述べる。
「C」のコネクトについては、狭義の意味では日本は先進国だ。というのは日本はITS(インテリジェント・トランポテーション・システム=高度交通システム)が普及し、道路交通情報や料金自動徴収のためのETCが普及している。こうしたサービスは通信なくして実用できないので、日本ではコネクトは当たり前になっている。私は『ITSの思想』という本を2005年に上梓したが、その本の中でこれからのクルマは「走る・止まる・曲がる」+「繋がる」と予言していた。実はこのITSを強く提唱してきたのは、豊田章男社長の父である豊田章一郎氏だったのだ。

息子の章男社長としては父親が切り拓いたITSをさらに広く利用できる価値にアップデートしようとしている。

2016年、トヨタはコネクトを推進する「コネクティッドカンパニー」を設立した。トヨタの副社長である友山氏がプレジデントに就任したが、2018年5月にはさらに組織が改正され、従来のコネクティッド統括部とITS企画部が統合された。さらにMaaS(Mobility-as-as-Service)部門もアップデートされたことからも、豊田章男社長の強い意志を感じることができる。モノ作りだけでなく、サービスへの転換なのだ。
つまりCASEというツールを使ってMaaSを実現するのが狙いだ。

e-Palet

トヨタは今年1月のラスベガスで開催されたCES(家電ショー)で「e-Palet」というコンセプトカーを発表し、無人でも走れるモビリティの可能性を提案した。無人車なのでロボットカーとも呼ばれるが、街の中で場所や速度を限定すればロボットカーも実現可能だ。CASEという言葉を最初に使ったディエター・チェッチェ会長も2015年のフランクフルトショーで「モビリティ・プロバイダーとなる」とコミットメントしている。

発表会で示された移動型オフィスのイメージ

自動車産業の大転換期

ここ数年のメルセデス・ベンツとトヨタのトップの言葉を読み解くと、いよいよ自動車産業の大転換期が近づいたとヒシヒシ伝わってくる。言葉こそ異なるが、販売台数では世界最大級の企業であるドイツのVWやアメリカのもGMも同様のメッセージを発信している。

それではコネクトがこれからどんな価値を提供するのか少し考えてみると、可能性としてはクルマ同士、クルマとインフラ、クルマとクラウド、クルマと歩行者など、コネクトは無限に広がるが、スマートフォンもコネクトの主役になるかもしれない。その一方でコネクトするとハッキングというリスクもつきまとうので、自動車の場合は慎重に取り組むべきかもしれない。通信システムとしては近い内に実用化する5Gへの期待も大きいだろうが、日本は米中に比べて遅れ気味だ。気になるのはこの高速大容量通信の5Gを自動車メーカーがどう使うのか。チャンスがあったらモネ テクノロジーズ社に聞いてみたいと思う。

世界首位への布石

先程、モビリティサービスを意味するMaaSという言葉を使ったが、この言葉も最近のトレンドワードだ。MaaSはフィンランドの首都・ヘルシンキで行われているモビリティサービスが生んだ言葉だ。ヘルシンキに本拠地を構えるモビリティーのベンチャーであるMaaSGlobal社に、トヨタは金融会社を通じて出資している。MaaSGlobal社はタクシー、レンタカー、シェアカーと公共交通を一つのWHIMというアプリでカバーできる。トヨタグループはライドシェアの米ウーバー社にも出資しており、モビリティのイノベーションに布石を打っていたのだ。

同社はこれから各都市でもMaaS事業を始める考えだ。トヨタとしては出資することでMaaSの重要なデータ収集や処理のノウハウをマスターするのが狙いだろう。ダイムラー社も自前の金融会社を通じてMaaSの一つのコンテンツであるシェアカーのCar2Goに出資している。

ソフトバンクは通信会社というよりもベンチャービジネスに投資する会社というイメージが強い。すでに多くのMaaS関連の会社や英国の半導体を開発製造するARM社を買収したり、IT業界の台風の目になっている。孫正義氏はモビリティの多様性と自由を訴えているので、豊田章男社長とビジョンは同じだ。電話通信事業ではトヨタにはKDDI(AU)が存在するが、今回の提携はもっと大きなスケールの協調ビジネスなのだ。両社ともアントレプレナー精神に富んだ若者が自由に活躍できる組織を作ったのではないだろうか。

何をするのか?という問いに対して、社会は何を求めているのか?というニーズをしっかりと考えることが大切なのかもしれない。ソフトバンクと自動車の関係ではSBドライブという会社が2016年に起業され、すでに自動運転の社会実験に参入している。自動運転やモビリティーサービスのコンサルティングを行っている。

今回の提携がきっかけとなり、これからのモビリティーはもっとワクワクする魅力を増すのではないだろうか。

(執筆:国際自動車ジャーナリスト 清水和夫)