ロボットといえば、店頭やホテルでの接客から工場での作業まで、その開発は多岐に渡っているが、この11月、西武新宿駅に“日本初”となる警備ロボットが登場するというのだ。
それがこちら。

その名は「Perseusbot(ペルセウスボット)」。
大きさは、高さ167.5cm×幅61cm×奥行90.5cmで意外と背が高く、重さはなんと172kgもある。
人ごみの中で、堂々たる体格のロボットが動くさまを想像するだけでも、お好きな方はワクワクしてくるのではないだろうか。
ただし、これはあくまで実験段階。
まずは11月7日~9日と19~22日を準備期間としてロボットを稼働。11月26日~30日の10:00~16:00に、実証実験を行うとしている。
日本初の「自律移動型AI監視カメラ搭載警備ロボット」
このロボットは、東京都立産業技術研究センター(以下、都産技研)の公募型共同研究開発事業に、アースアイズ、日本ユニシス、西武鉄道の3社の共同提案が採択されて開発したもの。
これまでにも様々な監視ロボットはあったが都産技研によれば、「AI監視カメラを搭載した自律移動型警備ロボット」は“日本初”だという。
実験を行う背景には、2020年に向けて訪日観光客の増加に伴う公共交通機関の乗客増加が予想されることがあり、安全性の向上や駅係員の負荷を軽減する解決策の一つとして警備ロボットに注目したという。
そこで今回の実証実験では次の3点を確認する。
・不審者/不審物の検知精度の確認
・駅環境における自律移動の安定性確認
・駅係員/警備員の負荷軽減度合いの確認

実験が行われるのは西武新宿駅 正面口改札の外にあるコンコース。
ご存知の方もいるだろうが、このコンコースは高さが違う床を階段とスロープがつないでいる。
さらに売店やATM、トイレ、コインロッカーなどが点在し、たくさんの人がひっきりなしに行きかう場所だ。
なぜこんな、実験しにくそうな場所を選んだのか?
都産技研の担当者に聞いてみた。
――このロボットは階段が使えないのではないか?
そうですね。
階段に落ちないようにしています。
――ではスロープを上り下りするのか?
このロボットは、頭の中には西武新宿駅の地図が入っていて、コンコースと同じようなスロープや点字ブロックを通る性能を備えています。
ただ出来上がったばかりなので、頭の中の地図と実際の駅で動かしたときの位置がちゃんと合うか、点字ブロックなどを通れるかといった確認が必要です。
そこで11月前半の準備期間で位置合わせなどを行い、その段階でスロープも含めてどう動かすかを決めます。
172kgもあるのには理由があった
「Perseusbot」は、都産技研が開発中の自律移動型案内ロボット「Libra(リブラ)」と、屋外用大型ロボットベース「Taurus(トーラス)」を組み合わせ、AI 監視カメラ搭載しているという。
2つのロボットと「Perseusbot」は全く形が違うように見えるが、なぜ組み合わせる必要があったのだろうか?


――2つのロボットを組み合わせたのはなぜ?
シンプルに言うと、脳はリブラ、足回りはトーラスを使っているという感じです。
リブラには、地図を把握して行動する機能や、障害物をセンサーで検知する機能などを備えています。
しかし今回は重さが172kgとかなり重くなったため、リブラの足回りでは動作が難しいということになりました。
そこで、重いものを載せて点字ブロックなどの段差を乗り越えることができるトーラスを、足回りのベースにしてロボットを開発しました。
――なぜそんなに重いのか?
ロボットが簡単に転んだりしないようにするためと、持ち上げられることないようにするため、重くしています。
あと長時間使える重いバッテリーを積み込む必要もありました。
――駅で動くにしてはかなり大きいが安全なのか?
確かに大きいですが、今回はどうしても高い位置につけたいセンサーがありました。
安全性については共同研究者全員で、こういう状態だと怪我をするかもしれないという危険性や有害性を洗い出してリスト化し、一つ一つ対策しています。
不審者を見つけたら…「駅員さんを呼びます」
――AIがどうやって不審者を検知するのか?
この仕組みはアースアイズ社の技術が使われています。
アースアイズ社はもともと、万引きをする人などを検出するAI機能がある監視カメラを作っています。
万引きの場合では、商品を盗ろうとしているときと、そうでないときでは、目線の位置や動き方が違うそうで、それをAIに学習させて判断できるようにします。
実験に使うロボットは、今一生懸命アースアイズ社で人の動きなどを勉強しているところです。
それを実証実験することによって、さらに精度を上げようということです。
今回は監視ロボットなので、いきなり網を投げるようなことはありません。
――どのぐらいの速さで動くのか?
実験では最大でも時速2km、基本的には時速1km程度で動かします。
リブラやトーラスはもっと早く動かすことができるんですが、人にぶつかると確実に怪我をさせてしまいます。
そうならないようにスピードを出ないようにしています。
――それだと不審者を見つけても簡単に逃げられてしまうのでは?
もちろん防犯も大切ですが、実験では「異状」を検知することが目的の一つにあります。
「異状」という言葉は、あまり一般的ではないのですが、普段と異なる状態の意味です。駅の中で、普段とは違う何かが起きていないかを見て回るということです。
例えば、車いすに乗って困った様子の人がいるとか、倒れている人がいるとか、喧嘩が起きているとか、そういう状態を検知して別の業務をしている駅員さんにお知らせします。
駅員さんが、構内の見回りをする負担を減らし、乗降客からの通知よりも早い段階で異状に気づくよう、サポートします。
――監視カメラとどう違うのか?
確かに「動かなくていいんじゃない?」という意見もありますが、ATMと壁の隙間や狭い場所など、カメラに映らない「死角」は結構あります。
ロボットは、動かすことでいろんなところを見られることが大きなポイントだと思います。
鉄道会社からは、駅員さんの代わりに何かあった場所に駆けつけるという機能が必要だというご意見をいただいています。
あえて難しい西武新宿駅を選んだ

――乗降客も多いし、売店やスロープもあるのに、西武新宿駅を選んだのはなぜか?
このロボットには一緒に共同研究をしてきた西武鉄道の要望が入っていて、その要望にうまく応えているのか、効果を計測するのに適しているということです。
また東京都のこのプロジェクトは、いずれ事業化を見据えているので、あえて難易度が高いところで検証しようという狙いもあり、西武新宿駅に決定しました。
――警備ロボットのニーズは高まっているのか?
私ども東京都としては、2020年のオリンピック・パラリンピックで訪日観光客など多くの方が東京に集中するとみられますので、警備強化やそれに伴う人手不足の懸念があり、警備ロボットを公募のテーマにしました。
鉄道会社の方でも、今後乗客が増加していくと警備や業務員の負担が増えるのでサポートする事業が必要だという声が上がっていると伺っております。
いま日本では、工場にあるような産業用ロボットはたくさん使われていますが、普段の日常生活で人を支援したりするサービスロボットは広まっていません。
「ペッパー」はいろんなところにありますが、他のロボットはまだまだという状況です。
そこで、オリンピックに向けて技術が向上するのに合わせ、サービスロボットの事業化を進めようというプロジェクトに取り組んでいるのです。
犯罪を未然に防ぐための“不審者・不審物”の検知だけでなく、困っている人や倒れている人にも対応するというこのロボットだが、雑踏の中でAIロボットが働く未来の姿を一足早く見たい人は、期間中に西武新宿駅へ行ってみてはいかがだろうか。
ただし、怪しい態度でうろうろしているとロボットに不審者と間違われてしまうかもしれない。