20歳の女が、マッチングアプリで知り合った男性を、自分が働くバーに連れて行き、法外な飲食代を要求する事件が起きた。この店は、いわゆる「ぼったくりバー」で、警視庁新宿署に摘発された。
被害男性に接触してきた「マイ」
専門学校生の畠叶夢(はた・かなめ)容疑者・20歳は、先月11日、自らが、東京・歌舞伎町の無許可営業のバーで働いているにもかかわらず、それを隠して、マッチンアプリで知り合った20代の男性Aさんを店に連れて行ったという。

そして、酒類などを提供する、接客行為に及んだ疑いが持たれている。逮捕容疑は、風営法違反。この店は、接待行為の営業許可を得ていなかった。畠容疑者については、自らも客のフリをして、Aさんの横で酒食をともにしたことが、違法な接待行為に当たると認定された。
事件前日の先月10日、Aさんが、「彼女募集」の意図で、マッチングアプリに登録。すると、「マイ」を名乗る人物が接触してきた。この「マイ」は、畠容疑者のことではない。店の男性店員が、「マイ」という偽名を使って、Aさんに接触していたという。
「いつものダーツバーに行こう」
そう、この店は、マッチングアプリを悪用して、ぼったくる相手の男性を探していたのだ。「マイ」から、「あす新宿で飲もう」と誘われたAさん。11日午後7時ごろ、新宿駅西口の待ち合わせ場所に現れたのが畠容疑者だった。

すると畠容疑者が、「いつも行っているダーツバーに行こう」と誘ったそうだ。そこが事件の舞台となる歌舞伎町のバー「GRAND H」だった。当然、畠容疑者は、自らが「GRAND H」で働いていることを隠していた。男性客を店に連れ込む役割を担っていたのだ。
畠容疑者は、この日、カモとなるAさんを、まんまと店に連れ込むことに成功したのだった。店で待ち受けていたのは、男性店員4人。
「初めての利用ですか?」と聞かれて、Aさんは「そうです」と答えたという。そして、料金システムの説明を受けた。1時間飲み放題1人5000円で、単品を2つオーダーするのが決まりとなっていた。
「101」ゲーム 罰ゲーム100杯
料理などの単品の値段は明らかにされていないが、1人1時間で7000円~8000円が相場ではないだろうか。店のソファーに腰掛けた2人。10分間ほど自己紹介をしたところで、男性店員が「もし良かったから、これで遊んでください」とトランプとサイコロを持って来たという。

畠容疑者が「トランプで遊ぼう」と提案。お互いがカードを引き合い、数字の合計が101を超えた方が負けという、いわゆる「101(ワンオーワン)」ゲームに興じることになった。負けた方が、アルコールを1ショット飲むという罰ゲームも採用された。
その後、2人は、およそ1時間、「101」ゲームを楽しんだという。罰ゲームのショットも100杯程度にのぼっていた。すると、男性店員が現れ、「このショットは飲み放題に含まれていません」と告げた上で、合わせておよそ40万円の飲食代を請求したという。
請求額40万円 逃げ出した男性
明確な料金説明がない時点で、ぼったくり防止条例違反に抵触するだろう。しかし、”彼女候補”の畠容疑者が、よもや、店側と”グル”になっていることを知らないAさんに、「ぼったくりバー」を疑う余裕はなかったのではないか。

Aさんは、近くのコンビニに向かい、現金7万5000円を引き出した。そして、手持ちの1万5000円と合わせて、9万円を払おうとしたという。ところが、コンビニまで同行していた男性店員が「キャッシュカードを使って、ATMでキャッシングをしろ」と要求。
Aさんは、仕方なく、さらに18万円をキャッシングして、男性店員に渡し、コンビニから逃げ出したそうだ。ところが、店の外には、見張り役の別の店員2人が待ち受けていた。Aさんは、あっさりと捕まり、3人に暴行を受けて、持っていたスマホと財布を奪われたという。
別の”被害者”がコンビニから
まさに、歌舞伎町のコンビニで”修羅場”が繰り広げられたことになる。それから、Aさんは、JR新宿駅に隣接する東口交番に駆け込んだ。時刻は午後9時半ごろになっていた。その後、Aさんが、警察官とともに「GRAND H」に向かったところ、驚きの場面に遭遇したという。

別の男性客Bさんと畠容疑者が、件のコンビニから出てきたのだった。警察官が事情を聴くと、Bさんは「私も、今、ぼったくり被害に遭った」「14万5000円の高額請求をされた。今、ATMでお金を引き出して支払った」と打ち明けたという。
この時点で、すでに、畠容疑者が店側と”グル”になっていることが明らかになっていたのだろう。警察官が、新宿署に、畠容疑者を任意同行。自らの素性を明さなかった畠容疑者だったが、携帯電話の番号などから身元が特定され、今月3日、逮捕された。
新たな「ぼったくり」各地で横行
Aさんに暴行した店員のうち1人は未成年で、事件翌日に、強盗容疑で逮捕された。他の2人についても捜査が進められている。マッチングアプリを使った、新手の「ぼったくり」被害は、歌舞伎町に限らず、各地で多発している。逮捕者も相次いでいると聞く。

畠容疑者の逮捕容疑は、ぼったくり防止条例違反ではなく、無許可で接待行為をした風営法違反だった。ぼったくり防止条例を適用するには、明確な料金説明の有無などを立証する必要がある。適用のハードルが比較的高いとされている。
新宿署は、ぼったくり被害を防ぐため、まずは、風営法違反を適用して、「GRAND H」の摘発に乗り出したのだろう。この店をめぐる高額請求の相談は、これまでに4件寄せられていたという。新宿署は今後、店の経営実態などについても捜査する方針だ。
成功報酬は客が払った25%
調べに対して畠容疑者は「私は『GRAND H』の従業員です。男性店員からマッチングアプリで知り合ったAさんと従業員であることを隠して店に連れていき、一緒に飲食をしろと指示を受けていました」と容疑を認めている。

ところで、この類いの事件では、女性従業員の立件が見送られるケースは少なくない。主犯は、あくまでも、ぼったくり店側だからだ。では、なぜ、畠容疑者は逮捕されたのか。実は、かなりの成功報酬を受け取るシステムになっていたのだ。
畠容疑者は、自らが連れ込んだ男性客が支払った額の25%を、現金で受け取っていたという。仮に、AさんとBさんが、満額を支払ったとすれば、畠容疑者は、ひと晩だけで、13万円余りを手にしていた計算になる。