庭で「片膝立ち」を続ける親子も 抗議デモはキング牧師暗殺以来の規模に

「I can't breathe.(息ができない)」

この言葉に今、アメリカ中が突き動かされている。平和的な抗議デモに参加する市民や警察官、クラクションを鳴らしデモ隊を応援するタクシー運転手、自宅の庭でひっそりと非暴力での抗議を示す「片膝立ち」を続ける親子、社会変革を訴える指導者…抗議の形は様々だ。

全米に拡大する抗議デモ

白人警察官による黒人の暴行死は、これまでにも何度も繰り返され、その度にアメリカ社会にはびこる“闇”として、大きく取り上げられてきた。再三にわたって問題視されているのに、なぜこうも、同じ過ちが繰り返されるのか。

アメリカの人種差別問題を語る上で、欠く事ができないのが「キング牧師」こと、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアの存在だろう。1950年代半ばから1960年代半ばにアメリカで展開された、差別の撤廃と法の下の平等などを求める公民権運動の指導者で、非暴力主義を貫き、公民権運動の父と呼ばれた。彼の「I have a dream.(私には夢がある)」の演説は、日本でも広く知られている。1964年にはノーベル平和賞を授与されるも、今から52年前の1968年4月4日、テネシー州で遊説中に人種差別主義者の凶弾に倒れた。この暗殺を受けて、全米各地に暴動が拡大した。

キング牧師暗殺後、暴動が始まった首都ワシントンの黒人街 暴動の歴史を説明する看板も

今回の抗議デモは、このキング牧師の暗殺以来の規模と言われている。

なぜ今回、抗議デモがここまで拡大したのか。民衆が真に求めていることは何か。暴動は必要悪と言えるのか。今、アメリカ社会で起きている大きなうねりの正体は一体何なのか、故キング牧師の長男で人権活動家のマーティン・ルーサー・キング3世に聞いた。

オンラインでインタビューに応じるキング牧師の長男マーティン・ルーサー・キング3世

キング牧師の長男が訴える 暴動拡大に至ったアメリカの闇

ーージョージ・フロイドさん暴行死事件と今回の抗議デモをどのように見るか?

マーティン・ルーサー・​キング3世:
フロイドさんは警察官の手によって、冷徹に殺害された。助けを求めていたのに、警察官は人間性を示さなかった。私が知る中で最も非人道的な事件だった。これほど悲しく、屈辱的な出来事を見たことがない。しかし、平和的な抗議活動はアメリカ全土に広がっている。デモ隊とともに片膝をつく警察官もいれば、行進に参加する保安官もいる。白人たちが黒人に対する長年の差別を謝罪している。このような姿は見たことがない。事件に関与したすべての警察官が司法の場で裁かれるべきだ。時間はかかるが、良い方向に向かっている。

暴動で窓ガラスを割られた店舗 防護のため街中のガラスが板で覆われている

ーー抗議デモはキング牧師暗殺以来の規模といわれている。なぜこれほどまでに拡大したのか?

マーティン・ルーサー・​キング3世:
フロイドさんが非人道的に殺されたのを見て、人々の心が揺れ動いたのだと思う。この警察官は、通りで判事、陪審員、死刑執行人のすべての役割を勝手に担った。
私の父は1968年に殺害されたが、殺害前、清掃作業員とともにテネシー州で抗議活動をしていた。彼らが掲げていたプラカードには「私は人間だ」と書かれていた。尊厳をもって、人間として接してほしいと訴えていた。52年後の今、黒人、白人、ラテン系がともに「black lives matter.(黒人の命は大切だ)」というプラカードを掲げている。何故ならば私たちはいまだに人間として扱われていないからだ。
「the straw that breaks the camel's back(ラクダの背中を折る1本のわら)」という言い回しがある。これまでに何度も繰り返し、このような事件が起きてきた。長年、人種差別に耐えてきたものの、今回の事件がついに引き金になったということだ。

至る所に警察官への侮蔑を意味する豚のマークが

ーーキング牧師が見ていたら、今回の出来事をどう考えると思うか?

マーティン・ルーサー・​キング3世:
父と母は生涯を通じて、貧困、人種差別、暴力を社会から根絶するために働いた。もし父が生きていたなら、我々を応援しただろう。そして、今のアメリカに大いに失望したに違いない。なぜなら、父は人間性というものを信じていた。だから、公約を優先して人間性や思いやりを示さず、人々を分断させる大統領が選ばれたことに、失望するだろう。父は大統領に、より崇高な目的のために行動するよう挑むだろう。大統領は自分の判断でそうすることができるのに、今は最低の行動をしている。大統領は、人々を結束させる真のリーダーでなければいけない。暴動や略奪に銃弾で対峙しても、ただ激情をあおるだけだ。それは根本的な問題の解決にはつながらない。

「暴動は声なき者の言葉だ」人種差別が根付く社会制度の改革を

ーー社会変革のためには、暴動も必要悪だと考えるか?

マーティン・ルーサー・​キング3世:
暴力を容認する事は断じてできない。しかし、「暴動は声なき者の言葉だ」という父の言葉を私は信じている。繰り返すが、暴動とはそれまで誰にも声を聞いてもらえなかった者の言葉だ。誰にも聞いてもらえず、隅に追いやれば、狂った動物のようになって反抗する。人間も追い詰められれば、必ずしも良い部分だけが出てくるわけではなく、目にしたくない別の面も見えてくる。この状況は、既存の制度によって作られたものだ。警察官があのようなことをしなければこんなことは起きなかったからだ。だが、彼らは何度も繰り返し過ちを犯し続けた。

首都ワシントンの国立公園に建てられた高さ約9メートルのキング牧師記念碑
像の足下には「black lives matter.(黒人の命は大切だ)」のTシャツが置かれていた

ーー平和的な抗議デモとどちらが効果的なのか?

マーティン・ルーサー・​キング3世:
「不当な苦しみは救済される」という言葉がある。それは平和的な抗議活動の意義を指している。非暴力の活動は弱々しく映るかもしれないが、長期的で持続可能な勝利を手に入れられる。だから、私は平和的な手段を尊重する。それこそが父が示したことだ。

ーー今回の事態はどうすれば収拾できるのか?今、アメリカに必要なことは?

マーティン・ルーサー・​キング3世:
「闇のあるところに犯罪が起きる」という表現がある。罪は、単に犯罪者にあるというだけでなく、それを取り巻く闇を作り出した側にもあるということだ。今、人々は救済を求めているのだと思う。従って、国が打開策や救済案を打ち出せば、暴力は自ずとなくなるだろう。根本から人々を平等に扱う社会システムや制度を作り出さなければならない。今の社会は明らかに違うからだ。

板張りの代わりに「black lives matter.(黒人の命は大切だ)」のサインを掲げる店舗も

キング牧師暗殺から52年 「夢」の実現に向けて

暴動は決して許されるものではない。
破壊や略奪の犠牲者の多くは、一般の市民だからだ。
今回の暴動を見て、多くの日本人がそう考えているだろう。

しかし、暴動を起こす人々を切り捨てるだけでは何も解決しない、その状況を生み出した社会のゆがみそのものにアプローチしなければならない、というのがキングさんの訴えだ。キングさんが語る社会の変革は、父であるキング牧師の「夢」でもあった。もちろん、その実現は容易ではない。なぜなら、人種差別は人間の心に根ざす意識の問題で、偏見を無くし新たな価値観を定着させるのには時間がかかるからだ。

それでも、アメリカの警察官は黒人に対し不適切な振る舞いをしていないか、自らの行動を正さなければならないし、国民にも教育を通じて、人種に関係なく多様性と人権を尊重するという意識を根付かせなければならない。短期間で達成できることではない。しかし、理想論に聞こえても取り組まなければ、アメリカの闇は永遠に改善しない。そんな強い思いが今、人々を突き動かしているのを感じる。今回の件を機に、アメリカの人種差別問題が改善に向けて大きく進展することを祈りたい。

黒人の著名人を称える壁画 ワシントン市内

【執筆:FNNワシントン支局 瀬島隆太郎】