「カショギ氏を殺せという命令がサウジ政府の最高レベルから出されたことを我々は知っている。”問題” が遠からず忘れ去られることを願う人達が居るようだが、我々は追及し続ける」

“We know that the order to kill Khashoggi came from the highest levels of the Saudi government. Some seem to hope this “problem”
will go away in time. But we will keep asking those questions.”


先月2日にサウジアラビア人記者のジャマル・カショギ氏がトルコのイスタンブールにあるサウジの総領事館で殺害されたから1ヶ月が経った。

これを期して、トルコのエルドアン大統領が、アメリカのワシントン・ポスト紙に寄稿し、上記の見方と決意を明らかにした。

この記事の画像(4枚)

ワシントン・ポスト紙はカショギ氏が寄稿していた新聞でもある。

エルドアン大統領は次のような考えも示した。

「1秒たりとも私はサルマン国王がカショギ氏暗殺を指示したと考えた事は無い。それ故、カショギ氏殺害がサウジ政府の公式な政策を反映したものとは思っていない」

“I do not believe for a second that King Salman,the custodian of the holy mosques, ordered the hit on Khashoggi. Therefore, I have no reason to believe that his murder reflected Saudi Arabia’s official policy.”

「カショギ氏殺害の背後にいる黒幕達の正体を暴く必要がある」

“We must reveal the identities of the puppetmasters behind Khashoggi’s killing”


名指しこそしていないが、エルドアン大統領は ”MBS”
を追及する構えを明確にしている。

MBSはMohammed
bin Salmanの頭文字で、サウジアラビア政府を牛耳るムハンマド皇太子のニック・ネームである。

カショギ氏との関係が深いワシントン・ポスト社は同じ日の社説で「カショギ氏殺害事件で最も重要なことはサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子に対し、今や彼の政権でさえ認定する計画殺人の責任を問えるかどうかである。多くの証拠は皇太子の関与を示している」と更にはっきりと要求している。

しかし、事件そのものの発生を当初否定したサウジ政府はトカゲの尻尾切りと時間稼ぎで皇太子への追及の矛先をかわそうとしているようにしかみえない。

このような計画的殺人事件に自分のボディーガードやアドヴァイザーが関わったのならば、たとえ指示がなかったとしても、ボスの責任は免れない。

アメリカ政府の反応も鈍い。

トランプ政権は事件を非難する声明こそ何度も出しているし、トルコ等と協力して事件の真相解明にも乗り出しているが、具体的な対抗措置は、これまでのところ、事件の関係者のアメリカ・ビザを取り消した程度だ。

日本外交の対応もお世辞にも良いとは評価できない。

自分に批判的な記事を書いたからという理由だけで、他国領土内にある総領事館に現れたジャーナリストを国家機関の要員を使って殺害し、遺体を溶かして証拠を隠滅する。

このような非道極まりない残虐行為が仮にワシントンや東京にあるサウジ領事館で行われたとしても同様の対応をするのか? とエルドアン大統領やポスト紙は問うている。


確かにサウジは重要な産油国である。

アメリカにとっては “憎っくきイラン” に対抗する重要な同盟国でもある。

アメリカ製兵器の超お得意様でもある。

たとえばムスリム同砲団を敵視する点で共通するエジプトやイスラエルもMBSとの関係は重視しているらしい。

しかし、だからと言って事件をうやむやにしても構わないということにはならない。

イギリスのBBCによれば、サルマン国王の弟に当たるアーメド王子が、長期滞在先のロンドンからサウジに緊急帰国するなど、サウジの王室内部でも慌しい動きが見られるらしい。

そして、BBCはその記事で以下のような見方を示している。

「ワシントンやロンドン、パリの外交官や政策担当者にとって、明らかになされるべき事はMBSを排除すること、最低でも抑制することである。しかし、それはサウジのように保守的でリスクを嫌がる王室には到底なしえないことのようにも思える。MBSはもう終ったのだろうか? 現時点ではなんとも言い難い」

だが、思い出してもらいたい。

やはり、かつてイランに対抗した産油国・イラクに君臨した暴君、サダム・フセインの悪行の数々に国際社会が目をつぶり続けた結果、何が起き、どうなったかを。

カショギ記者殺害事件はレッド・ラインを越えている。
サルマン国王はMBSの責任を問い廃嫡できるか?
サウジアラビアの国家としての将来と地域の安定はこれに掛かっている。

(執筆:フジテレビ 解説委員 二関 吉郎)

記事 139 二関吉郎

生涯一記者""がモットー
フジテレビ報道局解説委員。1989年?ロンドン特派員としてベルリンの壁崩壊・湾岸戦争・ソビエト崩壊・中東和平合意等を取材。1999年?ワシントン支局長として911テロ、アフガン戦争・イラク戦争に遭遇し取材にあたった。その後、フジテレビ報道局外信部長・社会部長などを歴任。東日本大震災では、取材部門を指揮した。
ヨーロッパ統括担当局長を経て現職。