日本小児科医会が「2歳未満のマスク不要」を呼びかけ

緊急事態宣言の解除を受け、さっそく久々の外出を楽しんだ…という人もいるかもしれない。だが感染の再拡大が危険視されるなど、まだまだ油断はできない。

手洗いうがいの徹底やマスクの着用など、基本的な感染予防策は今後も続けられていくことになるが、そんな中、公益社団法人 日本小児科医会が「2歳未満の子どもにマスクの着用は不要であり、むしろ危険」との見解を示したのだ。

(作成:日本小児科医会)
(作成:日本小児科医会)
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幼児には「むしろ危険」 マスクをつけない方がいい理由

日本小児科医会は公式サイト上に掲載したメッセージの中で

・乳児の呼吸器の空気の通り道は狭いので、マスクは呼吸をしにくくさせ、呼吸や心臓への負担になる
・マスクそのものやおう吐物による窒息のリスクが高まる
・マスクによって熱がこもり熱中症のリスクが高まる
・顔色や口唇色、表情の変化など、体調異変への気づきが遅れる


など、幼児がマスクを着用する際のリスクを説明。

また、「子どもの新型コロナウイルス感染症は今のところ心配が少ないようです」として

・新型コロナウイルスに子どもが感染することは少なく、ほとんどが同居する家族からの感染
・子どもの重症例も極めて少ない
・学校、幼稚園や保育所におけるクラスター(集団)発生はほとんどない
・感染した母親の妊娠・分娩でも母子ともに重症化の報告はなく、母子感染はまれ

などの分析結果を挙げ、子どもの感染リスクがもともと少ないこと、熱中症や窒息など、別の危険が伴うことから「2歳未満の子どもにマスクを使用するのはやめましょう」と呼びかけている。

(イメージ)
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確かにメッセージの通り、自分の意思で着脱することが難しい幼児にとっては危険が多いように思えるマスク。

しかし、まだまだ感染予防として、外出の際はマスクを着用しないと落ち着かない…という人も多く、まして親からすれば、大切な子どもを少しでも感染リスクから遠ざけたい、と思うのは当然だ。

では、マスクを着用しない代わりに、2歳未満の子どもたちにしてあげられる感染予防策は、どのようなものがあるのだろうか。マスクが熱中症や窒息の原因となってしまうのだとしたら、顔に密着しないフェイスガードなどを使えばよいのだろうか?

日本小児科医会にお話を伺った。

乳児にマスクのケースが目につくようになってきた

――今回、このようなメッセージを発信した理由は?

・小児科診療所でも乳児にマスクをされているケースが目につくようになってきたこと
・乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクは明らかに増すと予想されること
・アメリカCDC(疾病管理予防センター)、APP(アメリカ小児科学会)ではすでに警告を公表しており、実際の事例報告は国内では届いていないが、事例が発生する前に日本国内で情報を周知することが急務と考えたこと などが理由です。


日本小児科医会によると、実際にマスクの着用が原因となった熱中症や窒息事故などの報告は届いていないというが、診療所を訪れる乳児がマスクをつけていることがあるという。

また、同会がメッセージの中でも触れているように強調しているのは、これまでに分かった子どものコロナウイルス感染症の特徴として、

・国内外において子どもの感染者数は少ない
・子どもは感染しても、無症状か軽症が圧倒的に多く、健康な子どもの重症例は少ない 
・感染の主体は大人から子どもである


といったことに注目していることだ。具体的には、

・2020年5月7日現在の国内の0~19歳の感染者が606人(3.9%、なお人口に占める小児割合は 17%)と、大人の割合に比べて少ない
・職員11人が感染した香川県の保育園での感染は、園児147人中2人だった
・休園・休校中に開いていた国内の保育園・学童保育などでの集団感染の報告がない
・4月の学校再開後も子どもが発端の園・学校のクラスター発生の報告がない

こういったことから、子どもの新型コロナウイルス感染症について「成人とは全く異なる状況であること」への理解が必要だとしている。

フェイスガードには「ケガのリスク」 人混み避ける基本対策を

子どもが大人と比べて感染の心配が少ないということは分かっても、心配が解消されたことにはならないのが親心だろう、そこで、日本小児科医会は「マスクに関する基本的知識の普及啓発」についても呼びかけている。


――やっぱり子どもが心配…マスクを着用させたい親はどうすればいい?

マスクはウイルス粒子をブロックすることはできません。ヒト-ヒト間でのツバ(唾液)による飛沫感染を予防することしかできません。マスクよりもヒト-ヒト間隔を2m以上あける方が有効と米国CDC(疾病管理予防センター)は発表しています。

人混みでは着用してもいいでしょうが、言葉での伝達が未熟な小さい子どもでは熱中症への注意も必要ですし、フェイスガードなどの器具そのものでのケガも心配です。不安が大きい場合には大人の多く集まる人混みは避けることが重要です。

また、マスクをしていない子どもからの感染の不安を訴える方々もおられるようです。呼吸をしているだけの子どもからの感染を心配することは非科学的です。泣いたりおしゃべりしている乳幼児は、保護者向きにだっこしてあげれば周囲へのエチケットとして十分だと考えます。

最後に、科学的根拠のない不安に駆られて、子どもたちへ向けられる大人のまなざしが温かさを失ってしまうことが、今の日本の子どもたちにとって何より恐ろしい事態だと懸念します。

子どもの“咳エチケット”は「保護者向きのだっこ」で(イメージ)
子どもの“咳エチケット”は「保護者向きのだっこ」で(イメージ)

まだ身の回りの管理がうまくできない幼児は、マスクの代わりにフェイスガードなどを使うこともケガのリスクに繋がる。

マスクはあくまでも、本当に心配な場面での着用にとどめて、人ごみを避けたり帰宅時の手洗いやうがいといった、基本的な対策をするのが良いだろう。

また、中には子どもがマスクをしていないことで、周囲が感染してしまうのではないかと心配する声もあるというが、移動する際は保護者が子どもの顔を胸に抱くような形でだっこすることで、そのような心配を与えることもなくなり、また同時に子どもが外気に触れているという心配感も解消されるはずだ。

これから本格的な夏がやってくるが、子どもたちの健康を守りたい気持ちが、別の危険にさらすことに繋がってしまわないよう、十分注意して欲しい。
 

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プライムオンライン編集部
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