地震大国・日本の建築現場で起きたKYBによる免震・制振装置の性能検査データ改ざん問題。
マンション住民、全国の役所、観光施設などに出入りする多くの人たちの不安をあおり、マンションの大手デベロッパーは、販売を一時休止する事態にまで追い込まれた。
さらに先週、KYBは外部調査の結果、新たな不正が発覚して不適切な製品が増える可能性があることを明らかにし、いまだ収束の兆しは見えない。
強度が低いマンションが全国に・・・耐震偽装事件との共通点は
このニュースを聞いて、あの事件を思い返す人も多いのではないか。
2005年、世間を騒がせた「耐震偽装事件」である。
一級建築士が、構造計算を偽装。結果、強度が低いマンションやホテルが全国に建てられた。
当時、連日マスコミに取り上げられたのが、マンションデベロッパー「ヒューザー」元社長の小嶋進氏だ。
押しかけたテレビカメラを前に「オジャマモンと呼んでください」と話すなど、雄弁さと独特のキャラクターで連日取材攻勢を浴びた。

2005年、警視庁は「強度不足を認識しながら顧客にマンションを販売した」詐欺の容疑で小嶋氏を逮捕、懲役3年執行猶予5年の有罪が確定した。
「耐震偽装事件」と「免震データ改ざん」。社会を揺るがした2つのケースには、共通する構造的問題があるのか?
2005年当時、耐震偽装事件の取材を担当していた筆者は、事件から13年たった小嶋進氏(65)を改めて訪ねた。
「“ムリです”と言えない世の中が偽装を生みだす」
晩秋の茨城県に広がる田園風景の中、小嶋氏は1人で太陽光発電の設備を補修していた。
事件後、一代で築いた会社と職を失い、離婚も経験。
現在、東京・大田区の小さな不動産会社で働いている。
事件後に取得した電気工事士などの資格で住宅のリフォーム工事を行う他、手作りの施設で太陽光発電を行っている。

今回の免震データ改ざん問題について尋ねると、「期日や予算にしばられ、上からの圧力を受けて、“ムリです”と言えなくなっている世の中だ。
そんな中からウソや偽装でその場をすり抜ける人が出てくる。根が深い問題だ」という答えが返ってきた。
また、マンションの性能アップに対して、第三者による検査が追い付かない問題も指摘する。
「優秀な技術者やデベロッパーの人材は新規開発の分野に集まり、安全を守るはずの検査員の能力向上が追い付かない。いたちごっこの状況ではないか。」
「まさかプロの建築士が数値を偽装するとは思いもよらなかった」
そう当時を振り返る小嶋氏は、自身も「偽装とずさんな検査の被害者」と話す。
何人もの逮捕者を出した耐震偽装事件は、同時に、確認検査の“ザル”ぶりを白日の下に晒し、建築基準法等の法改正にもつながった。
現金払いでプライベートジェット 偽装事件で生活が一変
ヒューザーの社長時代は、とにかく“日本一広い”100平方メートル超のマンションを作って売るのが楽しかった。
趣味は飛行機操縦で、億単位の金を現金払いし、プライベートジェットを買い国内外を飛び回った。
「山やゴルフ場なんて上空から見下ろすものだと思っていた(笑)。こんなに泥だらけになって、地面にはいつくばる作業をするとは思わなかった。」
「生き様は失敗、だから死に様で見せたい」

そんな小嶋氏が太陽光発電を始めるきっかけとなったのが、東日本大震災の原発事故より被害を受けた東北の姿だ。
多くの被災者が理不尽な苦労を強いられる様子を見て、太陽光発電を次世代に残したいと考えるようになったという。
「事件によって全てを奪われ、恥もかいた。生き様には失敗したが、死に様で見せたい。その為にはただ寝ているだけじゃダメだ。」
高層マンションが建てられ、社会が快適さや利便性を追求する程、その一方で免震データ改ざんのような新手のリスクが生まれる。ある意味、堂々めぐりだ。
第三者による検査体制や法改正の努力は当然必要だ。
しかし同時に、どこまでも便利さを追求し続ける社会の「業」ともいうべきリスクを、私たちは直視し、覚悟する必要があるのかもしれない。
安心に「絶対」や「万全」はないのだ、と。
(PRIME online編集部:標あかね)