お笑いコンビ「インパルス」の堤下敦さん(45)が、睡眠導入剤を服用した後、車を運転したとして、11月2日に道交法違反の疑いで書類送検された。

目撃者が撮影した画像には、堤下さんとみられる姿が(「イット!」6月17日放送分)
目撃者が撮影した画像には、堤下さんとみられる姿が(「イット!」6月17日放送分)
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当初は「原因は当日に飲んだ睡眠薬等の影響で、眠気を催したから」と説明していたにもかかわらず、その後は一転して「てんかんが原因」と主張し、容疑を否認しているという。

堤下さんは睡眠導入剤の服用を医師に告げず…

堤下さんは、6月下旬に倒れた際に、医師から「てんかんの疑い」があると診断されたという。
しかし、警察が当該の病院に聴いたところ、睡眠導入剤を服用していること医師に告げていなかったことが判明した。
医師は「薬を服用していると分かっていれば、てんかん疑いの診断は出さなかった」と話したという。

インパルス堤下さん書類送検で「厳重処分」 “懲りない男”の「てんかんが原因」主張に警視庁が“断固”対応か

彼の“言い訳”の真偽等は私の専門ではないが、こうした言説が「てんかん」についての誤解を生まないかということを危惧している。

「てんかん」は、誰でもなる可能性がある病気だ。
子どもから大人まで、どんな年齢にも見られるが、多くは小児期と高齢期に発病する。
てんかん発作のために薬を飲んでいる患者さんは、人口1000人あたり8~10人程度。つまり、日本には約100万人の患者さんがいることになる。

児童6人死亡事故をきっかけに新たな法律施行

「てんかん」患者さんであっても、条件がそろえば運転免許の取得はもちろん可能だ。
しかし、多くの「てんかん」患者さんや、我々医師にとっても忘れられない事故がある。

2011年4月に栃木・鹿沼市で、クレーン車が突っ込み、登校中の児童6人が死亡する事故があった。
運転手していた男は、持病の「てんかん」を隠して運転免許を取得し、それまでに何度も交通事故を起こしていた。

2011年4月18日 クレーン車が通学の列に突っ込んだ現場(栃木・鹿沼市)
2011年4月18日 クレーン車が通学の列に突っ込んだ現場(栃木・鹿沼市)

この悲惨な事故は、男がてんかん治療薬の服薬を怠ったことによる発作が原因だった。
お子さんを失った遺族の方の心情を思うと、今も胸が苦しくなるほどだ。

2011年4月18日 クレーン車が通学の列に突っ込んだ現場(栃木・鹿沼市)
2011年4月18日 クレーン車が通学の列に突っ込んだ現場(栃木・鹿沼市)

事故は、当時 日本てんかん協会がコメントを出したように、「社会的責任が欠如している」人間が引き起こしたものであった
しかし、「てんかん患者の運転を禁じるべき」という声も広がった。

2014年には、てんかん発作等で意識を失うなど、病気が原因で人身事故を起こした場合に刑を引き上げる法律が施行された。

もちろん、多くのてんかん患者さんは、医師の指導・治療を受け、きちんと自己管理している。
しかし、未だ「てんかん」に関する誤解が消えていない面も否めない。

2年間の服薬治療で患者さん“80%”の発作抑制

てんかんは、一生治らない「不治の病」と言う誤解も一部にあるようだが、てんかんは治療可能な病気だ。

「てんかん」は、脳の神経細胞(ニューロン)に突然発生する激しい電気的な興奮によって発作を繰り返す脳の病気だ。
発病年齢は3歳以下が最も多く、成人になると減る。一方、60歳を超えた高齢者になると脳血管障害などを原因とする発病が増加する。

てんかん発作には以下のようなものがある。

意識を失う発作
・突然意識を失い、全身が硬直、手足がけいれん
・一点を見たまま、数秒~数十秒間 動作が停止
・口をべちゃべちゃ動かしたり、手をもぞもぞする

意識がある発作
・体の一部がけいれん
・チクチクする感じやしびれ
・頭痛や吐き気、不快な匂いを感じる

治療には「抗てんかん薬」を使用する。そして、思春期以降であれば抗てんかん薬の服薬を2年間継続すれば、80%の患者の発作を抑制できるというデータもある(日本神経学会)

一部の小児てんかんは、一定の年齢になると発作が消失する場合があり、そうしたケースでは服薬をやめることができる。
しかし、基本的には服薬治療を継続していくことがほとんどと言って良いだろう。

薬ではコントロールが難しい「難治性てんかん」も、2割程度存在する。このうちには、外科手術が有効なこともあるが、開頭手術となるため、後遺症を残すリスクが少ないことなど極めて慎重な対応が求められる。

二次疾患防ぐためにも周囲が正しい知識を

医師としても、てんかん患者さんに積極的にクルマの運転をすすめることはない。
しかし、地域によっては、クルマなしに仕事や生活が難しいエリアもあるであろう。
また、多くの場合、「てんかん」は治療継続することでコントロールできる疾患となっていることも事実である。

てんかん患者さんは誤解や偏見などから心理的な負担を抱えている場合も多く、うつ病などの二次疾患を引き起こす可能性もある。
てんかん患者さんが不当な差別等を受けないためにも、多くの方に正しい知識を持って頂くことが望まれる。

そして、患者さんには、以下の3点を守り、充実した生活を送っていただきたいと期待する。

1.医師の指示通りに服薬する
2.睡眠を十分にとる
3.飲酒は控える

(小林晶子 医学博士・神経内科専門医)