直近3年分も約30億円の過少記載か

日産自動車のカルロス・ゴーン会長が「役員報酬」を過少記載した容疑で東京地検特捜部に逮捕された。
2011年3月期からの5年間で、ゴーン容疑者の「役員報酬」は合計約99億9,800万円だったにもかかわらず、有価証券報告書にはその半分の約49億8,700万円と過少記載した金融商品取引法違反の疑いが持たれている。

またゴーン容疑者は、東京をはじめ、ニューヨーク、オランダ、リオデジャネイロ、パリ、レバノンのベイルートの6カ所で、日産が保有する高級住宅を利用。
このうちリオとベイルートの住宅は、日産が約60億円で設立した子会社が購入し、ゴーン容疑者に無償で提供されていたとみられている。

さらに関係者によると、ゴーン容疑者は、ヨットやジェット機をプライベートで使ったときの費用に加え、家族で都内で高級寿司を食べた際の代金や家族旅行費用なども会社側に払わせていたという。
また、ゴーン容疑者は逮捕容疑となった5年分以外に直近の3年分についても約30億円の報酬を少なく記載した疑いがあることも分かった。
特捜部は、会社の金を自らの趣味などにも流用していたとみて直近の3年分についても調べている。

ゴーン容疑者の「役員報酬」、5年で約100億円という額も驚きだが、そもそも「役員報酬」とは何なのか?
我々、庶民がもらう「給与」と何が違うのか?
税理士であり公認会計士であり、大阪市にある「みんなの会計事務所」の主宰・代表である松本佳之さんに聞いてみた。

給与と違い、役員報酬は自ら決められる

――役員報酬とはなにか?

「役員報酬」とは、取締役や監査役といった会社の「役員」に対して支払われる給料のことをいいます。
「役員」とは、会社の経営のために株主(会社)から委任された者のことで、人数は株主総会で決めることができます。

一方、「給与」は、従業員に対して支給される労働の対価です。
「従業員」とは、会社と雇用契約をした人のことです。
ただし、役員報酬か従業員給与かで、基本的に所得税や社会保険料の違いはありません。


――役員報酬は労働の対価ではない?

役員は雇用契約ではなく、その報酬は労働の対価ではありません。
そのため残業代、諸手当といった概念はありません

また、役員は労働者ではないので、雇用保険料の徴収はありません。
そのため退任後も、失業保険の対象とはなりません


――他に役員報酬と給与の違いは?

従業員の給与は、通常は自分自身でいくらにするかを決めることができません。
それに対して、役員報酬は、取締役会等で決定しますので、役員が自らの報酬を決めることができます。
つまり、お手盛りをすることができてしまいます。
そこが大きな違いです。


――好きな時に勝手に上げたり下げたりできるのか?

役員報酬は、役員自ら決めることができ、会社の利益操作に用いられる可能性があるため、法人税法上は、役員報酬を「損金算入(法人が収益を得るために支出した仕入れに要する費用などの経費を必要経費として計上すること)」をするためには毎月定額の報酬(定期同額給与)を支給する、などの要件が設けられています。
定期同額給与は年に一回のみ改定が認められています。


――役員報酬のうち「損金算入」できるものは?

役員報酬も従業員給与も原則として損金算入することができます。
ただし、役員報酬で損金算入できるものについては、先ほどの定期同額給与の他、事前確定届出給与(税務署に支給額、支給時期事前に届出しているもの)、業績連動給与(有価証券報告書で開示される数値に連動して決定する報酬)などに限定されています。


――1年に1回でも自らの報酬を決められるなら、盛り放題になるのでは?

役員が自ら報酬を決めることができるとはいっても、いくらでも自由に決めることはできません
通常は、まず株主総会で役員報酬の総額、つまり役員全員の役員報酬の合計額の上限を決議します。
そして、決議された役員報酬の総額の範囲内で、取締役会等で個人別の報酬を決定する、という流れとなります。

日産自動車の第116回株主総会の招集通知によれば、平成20年6月25日開催の第109回定時株主総会で、金銭報酬については、賞与額を含んで、年29億9千万円以内とすることが承認されていました。
役員報酬(金銭報酬)の総額をその範囲内とすれば、株主総会を問わず、取締役会で決めることができます。

役員は会社の経営に責任を持つ者です。
したがって、通常は、会社の経営が順調で業績が良くなれば役員報酬は上がりますし、逆に業績が悪くなれば役員報酬は下げられることとなります。
通常は年一回取締役会を開催し、そこで個人別の役員報酬を改定しますが、業績が悪化した場合などは臨時に役員報酬を減額することもあります。

過少記載をするメリットは?

――「有価証券報告書に役員報酬を偽って記載をする」メリットは?

まず、有価証券報告書とは、株主等の投資家が、事業の状況や株主の状況、決算の状況など会社の情報を把握するための書類で、年一回作成して内閣総理大臣に提出する必要があり、誰でも閲覧することができます。
会社の経営状況と役員報酬は関係性があるものですので、この有価証券報告書において役員報酬を開示しなければならないとされています。
原則は、取締役・監査役など、それぞれの報酬等の総額を開示すればよいのですが、この報酬等が1億円以上の役員については個別に名前と報酬額を開示しなければなりません。

投資家等が閲覧する有価証券報告書に意図的に虚偽の記載をしたということであれば、それは投資家等を大きく欺く行為であると言えます。
ただし、役員報酬を過少に有価証券報告書に記載したとしても、税金が安くなるなどはありませんので、意図的に虚偽の記載をするメリットはあまりありません


――問題は過少記載だけではない?

日産自動車が11月19日に発表したニュースリリースでは、有価証券報告書の虚偽記載以外にも、その他の重大な不正行為があったと公表されています。
21日の報道(日本経済新聞)によれば、株価連動報酬や海外子会社から受け取った報酬を「不記載」であったとの記事がありました。
もちろん、日本の庶民感覚では高額とされている自らの報酬に対する批判をかわすために意図的に過少記載を行っていたのであれば、投資家を欺く行為で認められるものではありません

19日の会見で日産の西川社長が「1人の個人に権限が集中しすぎた」と語っていたが、様々な疑惑が出てくる中で、ゴーン容疑者が役員報酬も含め、どのように会社を“私物化”していたのか実態の解明を待ちたい。

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