対馬から韓国までの直線距離よりも長い

中国に誕生した大橋はあまりに長く、その行き先を目で辿ってみたのだが、白く霞んだ空の中に消えてしまった。

世界最長の海上橋「港珠澳大橋」。10月24日に開通した。

海底トンネルやバイパスも含めた全長55キロ
この記事の画像(14枚)

「港」は香港、「珠」は広東省の珠海、「澳」はマカオ(中国語で澳門)のことで、この3つの都市を結ぶ橋の全長は、海底トンネル部分なども含めて約55キロメートルに及ぶ。

長崎県の対馬から韓国までの直線距離が49.5キロなので、それよりもさらに5キロ長い。橋の先が見えなくなるのも当然だ。

中国本土側の珠海のターミナルには、平日昼間にもかかわらず、香港を訪れようという観光客が列をなしていた。週末はバスを乗るのに2時間待ちの混雑になったという。

中国本土・珠海のターミナル

これまで、珠海と香港国際空港の間は、陸路で約4時間かかっていたが、橋を利用すれば45分程度で移動できる。

橋を見るためターミナルに来ていた珠海在住の王さんは「これからたくさんの人が珠海に来てくれるかもしれないね」と嬉しそうに話していた。

橋を使ってバスで珠海へ

中国政府は、広東省・香港・マカオの連携を深めて、この地域を一大経済圏とする国家戦略「グレーターベイエリア構想」を掲げている。港珠澳大橋はまさにそれを象徴するような存在で、開通式には習近平国家主席も出席した。

ただ、「一国二制度」をとる中国では、それぞれの行政区をバスで通過するには身分証提示などの手続きが必要で時間がかかる。車の通行も珠海は右側、香港とマカオは左側と異なる。

ほとんどのバスが市内に行くのに乗り換えが必要なため、日本から観光で行く人にとっては、慣れないと利用が難しいかもしれない。

マカオ名物のエッグタルトが1日に2万個も売れる老舗で、市内に8店舗を展開する「ロード・ストウズ・ベーカリー」のキャシーさんも、まだ観光客の増加といった実感はないようだった。

今後、橋ができたことによる売り上げの変化はありそうか聞いてみたところ「2~3か月したら結果がわかるかな」と語った。

1日2万個が売れるエッグタルト。さらなる売り上げ増に?

それでも、香港とマカオの間にはこれまでフェリーしか交通手段がなかったことなどを考えると、天候や時間帯に左右されない大橋は魅力的な存在だ。計画では、マカオ市内からは空港直通バスを1日40本走らせることなどが予定されていて、フル稼働が実現すれば観光やビジネスの客の増加が見込まれる。

マカオ政府観光局も「本格的なフル運行が開始されると、マカオは新しい飛躍の時代を迎えることになる」と期待を寄せる。

マカオの観光名所「聖ポール天主堂跡」

多額の税収と投資で、最先端の施設が次々と…

ポルトガルから中国に返還されて20年の節目を2019年に迎えるマカオ。香港の陰に隠れがちだったが、近年は開発が進み、急激に発展を遂げている。

カジノを含むIR(統合型リゾート)施設が多額の税収や投資を呼び込んでいるため、最先端のテクノロジーを導入している施設も多い。

2018年2月にオープンしたIR「MGMコタイ」では、ホテルの各部屋に小型端末を配備。ルームサービスを呼んだり、電気をつけたりするのもすべて、この端末ひとつでできる。外出時の持ち運びも可能なので、部屋に戻る直前に冷房のスイッチを入れたりすることも可能だ。

端末ひとつで部屋の様々な操作が可能

4Kビジョンの大型パネル25枚が張り巡らされた巨大なロビーは圧巻。24時間、音楽とともに趣向を凝らした映像を映し出している。サッカーワールドカップの決勝戦を映したところ、迫力のある映像で訪れた客からは大好評だったそうだ。

そもそも、サッカー場ほどの広さのロビーには、柱が一本も使われていない。屋根はガラスを組み合わせているのだが、カーブで力を分散させるよう計算されているのだという。

4Kビジョンの大型パネルがロビーに25枚
柱を一本も使っていないロビー

マカオのIR施設では、連日多くの文化的なショーが行なわれている。そのひとつ、「ザ・ハウス・オブ・ダンシング・ウォーター」は、特に最先端のテクノロジーを肌で感じられる。

シルク・ドゥ・ソレイユの舞台美術監督フランコ・ドラゴーヌ氏が制作・演出を手掛けたもので、劇場の総工費は230億円。プールの中から突然10数メートルの巨大な船が現れたり、噴水が幻想的な水の動きを見せていたかと思うと一瞬でプールの水がすべて消えたり、まるで手品のような演出が続く。

これだけ大掛かりな舞台装置は、海外に持っていくことがほぼ不可能なため、マカオでしか見られない演出だ。

水の中から巨大な船のマストが登場。その他、様々な仕掛けが満載。

また、7月には、大規模なeスポーツ専用スタジアムが誕生。複数プレイヤーが同時に参加するゲームトーナメントや世界各地域からのライブストリーミングにも対応した高度なテクノロジーを備えているという。

提供:メルコリゾーツ&エンターテインメントジャパン

日本でもIR法が成立し、マカオのように観光客や投資を呼び込むことへの期待の声が上がっている。

マカオでIR施設を展開するMGMリゾーツ・インターナショナル会長兼CEOのジム・ムーレン氏は、11月に東京で開催された世界経営者会議に出席し、「日本でも1兆円ほど投資する予定」としたうえで、次のように語っている。

「20年前、ラスベガスのIRの売り上げの内訳は7割ほどがカジノだった。現在はホテルなどカジノ以外が7割となっている。日本でもカジノ以外の売り上げが大きくなる可能性は十分にある。劇場などを併設し、日本の伝統芸能や人気アーティストのライブなどを積極的に開きたい」

インフラや文化的施設など、カジノ以外の部分でいかに魅力的な場所を作り上げるか。マカオに学べるところは多いかもしれない。

(取材協力:マカオ政府観光局 http://en.macaotourism.gov.mo /キャセイパシフィック航空)