PCR検査を自動化する装置に対応した試薬を開発

新型コロナウイルスのPCR検査は、煩雑な工程での正確な試薬の取り扱いが求められるため、4時間から6時間ほどの時間がかかることとなり、検査員にとって大きな負担となっている。

こうした中、富士フイルムの子会社「富士フイルム和光純薬」は、PCR検査にかかる時間を大幅に短縮できる新たな“試薬”を開発し、5月8日から発売を開始した。

この試薬は、富士フイルム和光純薬がすでに販売している“全自動遺伝子解析装置”に対応したもの。

患者から採取した検体と一緒に装置にセットすれば、検体に含まれるウイルスの遺伝子の「抽出」「精製」「増幅」「検出」などの一連の工程を、全て自動で行うことができる。

PCR検査には4時間から6時間ほどの時間がかかっているが、この“装置”と“試薬”を使うことで、およそ75分に短縮できるという。

また、熟練した検査員でなくてもPCR検査が行えるため、 検査員の負担軽減と幅広い医療機関での迅速な検査につながると期待されている。

かかる時間を大幅に短縮し、検査員の負担を減らす、この試薬と装置。一体、どのような仕組みなのか?

富士フイルム和光純薬の担当者に話を聞いた。

試薬と装置の仕組み

――開発したのはどんな試薬?

当社が2016年に発売した全自動遺伝子解析装置「ミュータスワコーg1」を用いて、簡便・迅速な新型コロナウイルスの検出を可能にする試薬です。

――“遺伝子解析装置”はどんな装置?

検体に含まれるウイルスの遺伝子であるRNAの「抽出」「精製」から、RNAをDNAに転換する「逆転写反応」、DNAの「増幅」「検出」までの工程を全自動で行う遺伝子解析装置です。

遺伝子解析装置(提供:富士フイルム和光純薬)
遺伝子解析装置(提供:富士フイルム和光純薬)
この記事の画像(4枚)

「逆転写反応」とは、逆転写酵素を用いて、RNAからDNAへ転換(=逆転写)する手法。
RNA自体を増幅する手法が確立されていないため、検出を進めるためにはRNAからDNAへの転換が必要となります。

検査員が行うのは、採取した検体を「専用の前処理チューブ」に入れ、「酵素溶液」、「試薬カートリッジ」、「マイクロ流路チップ」を装置にセットする数分の作業のみ。

検査員の手を煩わせることなく、遺伝子検出に必要な煩雑な工程を全自動で行うことを可能にし、これまで4~6時間かかっていた検査時間を約75分と大幅に短縮できます。

試薬セット(提供:富士フイルム和光純薬)
試薬セット(提供:富士フイルム和光純薬)

この装置は、結核、非結核性抗酸菌遺伝子検査装置として、2016年12月に販売開始し、規模の大きな病院を中心に数十施設の医療機関でご利用いただいております。

今回、この装置を用いて、新型コロナウイルス用の試薬を開発しました。

――試薬は、この装置においてどんな役割を果たす?

新型コロナウイルスの検出のために必要な、RNAの「抽出」「精製」からRNAをDNAに転換する「逆転写反応」、および、その後の工程(DNAの「増幅」「検出」)を実施するために必要なものになります。

検査員が行うのは「検体の採取」「前処理チューブに入れる」「装置へのセット」のみ

――「PCR検査を自動化」というのはどういうこと?

PCR検査の大まかな流れは、「RNAの抽出」「精製」「DNAの増幅」「検出」です。

この流れの中の「RNAの抽出」および「精製(抽出したRNAから不要な物質を除く工程)」は、通常は手作業で行われています。

当社の装置を使えば、この「RNAの抽出」および「精製」の過程を含めて、PCR検査を自社の装置内で、全自動で行うことができるため、PCR検査が自動化できております。

ただし、「検体の採取」、「検体を前処理チューブに挿入する」などの前処理は、手作業で行う必要があります。

測定フローの画像(提供:富士フイルム和光純薬)
測定フローの画像(提供:富士フイルム和光純薬)

――なぜ、全自動化が可能になった?

当社の“全自動遺伝子解析装置”に対応した“試薬”を開発できたからです。

この全自動遺伝子解析装置でのPCR検査には、独自のミュータス技術が活用されています。

ミュータスとは「Micro Total Analysis System」の略称で、半導体の製造技術を用いて、プラスチックなどの基板上にマイクロ流路を作成し、混合、反応、分離、検出など、すべての工程を、マイクロ流路のチップ上で行うシステムを意味します。

装置の小型化、温度コントロールや反応の迅速化など、多くのメリットがある分析手法です。

熟練した検査員でなくても簡単に検査できる

――この試薬と装置を使うと、熟練した検査員でなくてもPCR検査を行える?

当社の装置による測定の全自動化により、熟練した検査員でなくても簡単に検査を行うことができます。

――この試薬と装置を使用できる場所は?

装置をご購入いただけましたら、検査センターや病院で使用可能です。
なお、当社の装置は体外診断用の機器として開発された中型装置のため、より病院内の検査に適しています。

PCR検査にかかる時間を大幅に短縮できる新たな“試薬”について、富士フイルム和光純薬の担当者に問い合わせの有無を聞いたところ、「すでに“全自動遺伝子解析装置”を導入済みの医療機関、公的機関を含めて、問い合わせを頂いております」とのことだった。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。