1979年『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載が開始され、日本中の少年少女を熱狂させたプロレスマンガ『キン肉マン』。

 そのすべてを網羅した図鑑が2019年発売の『学研の図鑑 キン肉マン「超人」』(以下超人図鑑)である。この出版社の壁を越えた一冊は予約段階で3万部を突破。累計発行部数は図鑑としては異例の10万部以上の大ヒットになった。


 これを企画から編集まで手がけたクリエイターの名は、芳賀靖彦。

 小学生時代に『キン肉マン』に熱狂し、応募した超人が採用されたこともあるほど、キン肉マン愛にあふれている。そんな芳賀が超人図鑑の次に手がけたのが、2022年9月15日発売の『学研の図鑑 キン肉マン「技」』(以下技図鑑)だ。

 3年の歳月をかけて完成したこの1冊は、芳賀の編集者人生で培った「技」と熱き思いから生まれた。

○「技」こそが、超人が“超人”たる証


 前作の超人図鑑は『キン肉マン』と続編『キン肉マンII世』に登場する名前と姿が一致する700以上もの超人を収録。“生物としての超人”にフォーカスし35種類に分類、図鑑のフォーマットに落とし込んだ。それまでモノクロだった超人がカラーで登場し、作者のゆでたまご先生(嶋田隆司先生と中井義則先生の合同ペンネーム)のみが知っていた超人の身長や体重、出身地、そして、超人たちの強さを表す「超人強度」が初公開されたことも話題になった。


 少年の日から憧れ続けた壮大な夢が形になった瞬間だった。だがそのいっぽうで、芳賀の心の中では、ある諦めきれない想いが日を追うごとに膨らんでいた。

「超人図鑑の制作過程で省かざるを得なかったのが、技の要素です。超人には多種多様な必殺技があるのに、文字の解説に留めてしまった。ビジュアルで紹介したかったのですが、それでは図鑑としての焦点がブレてしまう。本の軸を据えるためとはいえ、技を省くのは断腸の思いでした。

 超人図鑑が完成してまだ日も浅い頃でしたが、技をビジュアルで魅せたいという思いは大きく、会社側に次の企画として技図鑑を提案しました。企画会議の結果は“GO”。その足で嶋田隆司先生に“続編で技の図鑑を作りませんか?”とご提案したら、その場で“やりましょう!”と。あのときはうれしかったですね」


 しかし企画が通ることは、膨大な作業が始まるということでもある。図鑑の制作は情報の収集が重要だ。芳賀は再び130冊以上もあるキン肉マンシリーズを読み、技をリストアップした。超人たちが放った技と超人を紐づけてデータ化するという、気の遠くなるような作業を続けた。これまでの仕事で培った情報整理力、忍耐力、深い知識をフル稼働した。

「1000話に及ぶ作品を読み直し、技は6600ほどありました。うち、名前がついている技は1400ほど、すでに超人図鑑の2倍の量です(苦笑)。


 これを全部収録するのはさすがに無理じゃないかと、はじめは数を減らすために、人間のプロレスにはない超人ならではの技のみを抜粋しようと思いました。しかし、超人は人間が使う技も繰り出している。例えばテリーマンは『スピニング・トゥ・ホールド』という人間のプロレス技が得意なのですが、それが掲載されていなかったらきっとファンは悲しむ。情報を網羅するからこそ図鑑だ、と腹を括り、約1400種の技すべてを掲載する方法を探りました」

 実現に向け、資材担当者にも相談し、なるべく軽くて薄い紙を採用した。これにより、ページ数は多いものの、厚みは超人図鑑の1.6 倍におさえることに成功。『学研の図鑑』シリーズの中でも最もページ数が多い図鑑が生まれようとしていた。

○前代未聞!? プロレス専門ライターとタッグを組んだ図鑑づくり


 キン肉マンへの愛、キン肉マンを愛するファンへの想いで約1400技、全掲載へと踏み切った。技は打撃技、浴びせ技、外傷技、関節技、投げ技、打ち付け技、衝撃技、封じ技、超人技の全9項目に分類している。技を分類するために、芳賀はプロレス専門ライターの堀江ガンツさんに教えを請うた。

「プロレスの歴史は180年以上と長いのですが、技を網羅し解説した専門書はないんですよ。つまり、よりどころとする資料がないんです。最初はずっと手探りでした。技の世界は奥深く、見た目は似ていても、体の使い方やどこにダメージを与えるかで、分類が異なるからです。そこで、チームにプロレス専門の堀江さんに加わっていただき、さまざまなことを教えていただきました」

 専門家の知見は、図鑑の精度を高めた。例えば、ロビンマスクを葬った技として悪名高い“アトランティスドライバー”。頭部をリングに叩きつけており名前に“ドライバー”とついているので、素人目には有名なプロレス技のパイルドライバーと同系統だと思ってしまう。しかし、専門家からすると別物なのだという。



「前者は首の後ろから肩の上の部分にダメージを与えるので“ボム”という技に種別されます。脳天を攻撃するのがドライバーなんです。堀江さんによる最新の情報でアップデートされて、プロレスの技図鑑としてもこれまでにない精度を持った資料として読んでいただけるものになっていると思っています」

○悪戦苦闘の日々。力をくれたのは、ジャンプを買いに走った少年の日の記憶だった


 技図鑑には約1600点のイラストと、それぞれの解説文が収録されている。イラストはページから飛び出るのではないかと思うほど躍動感にあふれ「エモい」。それをクリエイターたちに発注し、取りまとめる指揮官としての役割、芳賀はこれをたったひとりで行なった。

「イラストを原作から一点ずつ手作業でスキャンし、描画担当者に渡します。それぞれに“この超人は図鑑の〇ページの超人です”と指示を入れて送るという根気のいる作業の連続です。重視したのは“原作のタッチはそのままに、図鑑としてリアルに彩色する”ということ。超人図鑑から続けて参画している方も多く、チームとしての信頼関係はありました。ただ、1400点と数が多い。毎週月曜日の朝にイラストが大体10点ずつ上がってくるのですが、それを1日かけてチェックしていました。会議や打ち合わせもありますから、10が限界です」

 先の見えない、一歩一歩地を這うような日々。その歩みに力をもたらしたのは、芳賀の少年時代の記憶だった。『キン肉マン』最新話を読むために息を弾ませて書店に駆けつけたあの頃。少年ジャンプの発売日、それがほかならぬ毎週月曜日だった。いつしか芳賀は、少年の頃のように月曜日を心待ちにするようになっていった。

○超人の動きに命を吹き込んだ、ある書物との出会い


 学研の図鑑は1969年に創刊された。以降、53年の長きにわたり、子供達に未知なる世界の扉を開き、その広さと深さを伝えてきた。芳賀も少年時代、『学研の図鑑 昆虫』をぼろぼろになるまで読み込み、昆虫の広く深い世界に胸を躍らせた。そこで感じた「図鑑」というフォーマットの持つ力が、芳賀の編集者としての原点のひとつとなっている。

「図鑑の魅力とは、膨大な事象を集めて、分類して、ビジュアル化することによって、その世界の成り立ちを明らかにすること、だと考えています。技図鑑を、図鑑として成立させることも当初からの課題でした。技が決まった瞬間のイラストを収録しただけなら、単なる資料本であり、学研が作る意味がない。技は“流れるような動き”があるのに、1枚のイラストで紹介するだけではその全貌が描かれません。


 この未知な部分を妥協せずに解説すべきだと思ったのです。その表現方法を模索していた時に、中学校の保健体育の教科書を参考にしてみようと思い立った。そこには、陸上のスタートや球技の動きを連続写真のような展開図で解説してあり、“これだ”と確信したのです」

 芳賀はコミックを読み込み、技のシーンの前後のコマから「このように動いているのではないか」と想像しながら展開図のラフを描いていった。集め、分類し、ひとつひとつをビジュアル化していく。これもまた、気の遠くなるような作業だった。

「展開図で紹介した技は250種以上。“このようにぶつかって、空中を飛んで右手がこうなって……”と一人で想像しながらラフを起こし、イラストレーターさんに作画をお願いする。ある程度まとまるとゆでたまご先生に確認をしていただくんですが、人体のパーツ、動き方、筋肉に関する先生の造詣の深さには本当に感服しました。


 キン肉マンの技は、体勢こそ人間離れしていますが、明らかに無理な動きや、手足が変に折れ曲がっていることもなく、生き物の体の動きとして成立している。超人図鑑のときは、先生方にご指摘をいただくことは少なかったのですが、技図鑑に関しては細かい部分まで見ていただきました」

○「学研の図鑑」に脈々と流れるスピリッツが「技図鑑」を生んだ


 図鑑の老舗・学研は、同時にイノベーターであり続けている。図鑑はかつてイラスト解説が主流だったが、1999年の『ニューワイド学研の図鑑シリーズ』シリーズでは写真を掲載し、図鑑の常識を塗り替えた。2022年の『学研の図鑑 LIVE 昆虫 新版』は、昆虫を全種 ”生きたまま”撮影した。不可能だと思われていることを実現し続けているのだ。

「学研の図鑑に脈々と流れ続けているスピリッツ、それはいままでにないものを作りたい、そして子どもたちに新しい世界の見えかたを伝えたい、というチャレンジングスピリッツだと思います。

 先輩方が作った当時の出版物を見ても、イラストのオリジナリティ、情報の新鮮さなどへのこだわりと、そこにかけている手間暇がものすごく濃密なんです」

 駆け出しの新人編集者の頃にその背中を追っていた、職人肌の先輩たちの魂に背中を押されるかのように、芳賀は「技図鑑」を根気強く泥臭く、作り上げていった。

○キン肉マンとの出会いから始まった壮大な旅。その終わりと、新たな夢


 芳賀は小学5年から中学1年にかけて、キン肉マンの雑誌連載時に行われた超人募集に投稿している。そこでジャンクマン、ハンマーヘッドなどの超人が採用された。スピンオフ作品の『闘将!! 拉麺男』での必殺技コーナーでは、「人輪血水車」という技で最優秀賞に選ばれている。

「子どもの頃、週刊少年ジャンプ編集部も見学させてもらい、編集者という職業を知ったから今があります。私の世界を開いてくれたといっても過言ではない『キン肉マン』にこうして関われることは編集者冥利に尽きるのですが、さすがに今回の分量は先が見えず、キツい闘いでもありました。イラストも毎週10点ずつですから、1400点の原稿が上がるのに、計画通りに進んだとしても140週かかる(笑)。来週は20点、再来週で30点…、ようやく700点まできたときはゆでたまご先生の世界という巨大な山脈の山頂に立った気分で、「峠を越した」というのはこういうことかと感じました。


 でも、作っているときは、苦しいのにいちばん楽しい。いわば、目的地まで歩いていく旅のようなものですね。その過程で感じたことは、魅力的な超人と技を毎週生み出し続け、この広大な世界を作り出したゆでたまご先生の“超人”っぷり。いつかその制作背景を伺いたいと思っています」


 技図鑑初回限定版の表紙のイラストは、描き下ろしだ。4人の超人たちが登場し、技を決めている。図鑑サイズならではの迫力に圧倒される。

「これは、先生に“この図鑑にふさわしい表紙を描いてください”とお伝えした絵なんです。少年時代に夢中になった作品のワンシーンが、現在のタッチとカラーで迫って来る。最初に拝見したときは、ダイナミックさ、圧倒的な力に言葉も出ませんでした。全てが報われたような、そして次の挑戦をしたくなるような。今もこれを見ると、胸が熱くなります」

『キン肉マン』の「超人」と「技」の世界を踏破した今、次なる旅はもう始まっているという。


「図鑑を作る旅は苦しいんですが、帰ってきちゃうと、すぐに旅立ちたくなるんです(笑)」


 そういって、芳賀は少し困ったような、しかし喜びを隠しきれないような笑顔を見せた。

 図鑑、そして書物というフォーマットが持つ無限大の可能性。次作ではどんな新しい世界を見せてくれるのか楽しみだが、一番楽しみにしているのは、もしかすると芳賀本人なのかもしれない。


(取材・文=前川亜紀 撮影=多田 悟 編集=学研プラス広報宣伝課)

クリエーター・プロフィール

芳賀靖彦(はが・やすひこ)


 アメリカ・テキサス州ヒューストンで幼年期を過ごす。1994年学習研究社(現・学研ホールディングス)に入社。辞典編集者としてキャリアを重ね、現在は、学研プラス内のヒットメーカーが集結する、コンテンツ戦略室の室長を務める。これまでの主な担当作品は、『ジュニア・アンカー』英語辞典シリーズ、『スター・ウォーズ英和辞典』シリーズ、『スター・ウォーズ/ジェダイの哲学』『学研の図鑑 キン肉マン「超人」』『学研の図鑑 スーパー戦隊』など。

担当作品紹介『学研の図鑑 キン肉マン「技」』

 キン肉マン「超人」に続く究極図鑑第2弾!超人たちの強さの象徴である技を「打撃技」「投げ技」「激突技」「超人技」など9項目に分類し、約1400種を図解とともに紹介!「学研の図鑑」と「キン肉マン」で育ったかつての良い子へ贈るノスタルジック図鑑。



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