休日の副業 準備は朝夜の隙間時間に
ツリーやイルミネーションが街を彩る12月。
クリスマスのお楽しみに欠かせないケーキをワンランクアップさせる、そんな技を伝授してくれる講座がある。
講師の木村俊亮さん(37歳)は、東京都在住の会社員。
ファミリーレストランや商業施設などに設置されているコーヒーマシンのメンテナンスをする「コーヒーマシンエンジニア」として働きながら、会社の許可を得て副業をしている。
木村さんが教えている「アニバーサリープレート」は、デザートを盛り付けたプレート(皿)にチョコレートのペンで文字や模様を描いてデコレーションするというもの。
デザートがより華やかになり、お祝いや感謝の気持ちを伝えられるとして特別な日の食卓で披露したい技だ。
パティシエの経験を活かして今年春にスタートした講座の運営には、Webデザイン・料理・語学など、あらゆるジャンルでの知識・スキルを持つ人と教わりたい人とをつなぐサービス「ストアカ」を利用している。
1週間のスケジュールを見てみると、勤務日や時間が変動するシフト制の本業の傍ら、副業の準備もこなすという中々ハードな生活をしていることがわかった。

本業はシフト制のため、土日のどちらかと平日に1日取得できる休日を利用して副業を行っている。
そのため、週によって開講日は異なるが、土日と水曜日に開催することが多いという。
本業勤務の日は、出勤前の7時~8時の1時間と、帰宅後の21時~23時の2時間を副業の準備に充てている。
プレートに描く新しいデザインの考案や練習、配布する資料の見直し、作品と講座風景を紹介しているSNSの更新など、朝夜の隙間時間を上手く使っているのだ。

講座はレンタルスペースで午後に開かれ、チョコペン作りから始まり、基礎のデコレーション練習を経てその日の課題に挑戦し、完成したプレートを囲んで実食という流れだ。
約2時間半で、初心者でも簡単に美しくデザートプレートをデザインすることができるという。
現在は月2回ほどの開催で平均約1万円の収入があるというが、来年からは自宅での開催も予定していて、講座数に伴い副業収入も増える見込みだ。
パティシエのほかにフードコーディネーター、イタリアンレストラン、ネルドリップコーヒー専門店などで経験を積んできた木村さん。
なぜ本業ではなく、副業として技術を教える講座を始めたのか? そのやりがいと、デコレーションのポイントを聞いた。
以前はカフェを出すことを目標にしていた

ーーチョコペンデコレーションの副業を始めたきっかけは?
パティシエやフードコーディネーターとして働いていた当時は、カフェを出すことを目標にしていました。
しかし、次第に成功は難しいと考えるようになりました。
カフェは飲食店の中でも利益率が低い部類であり、集客のためには他の店にはない“武器”が必要だからです。
私は修行で培ったアニバーサリープレートが得意でした。
それは武器ではありますが、アニバーサリープレートはあくまでサプライズのアイテムですし、それを売りにしてしまったら、お客さんへのサプライズにはなりません。
それならばいっそ、アニバーサリープレートだけを切り離して仕事にしたらどうかと思い付きました。
いい機会だと転職をして、しっかり地に足をつけた今の「昼はサラリーマン、夜はアニバーサリークリエイター」が誕生しました。
ーー今も技術を磨き続けている?
飲食店にいた頃は、今ほど描けませんでした。やろうと決めてからはすべて独学です。
チョコの温度を調節したり、種類を変えたり、いろいろ試して1年ほどかけて自分なりの描き方を見つけていきました。
形になった今でも、新しいデザインを考えて日々練習しています。
ネット情報を参考にするのはもちろん、意識して街を歩いていると、至るところにデザイン素材は散らばっています。
アパレルショップの内装であったり、トイレのタイルやドラッグストアの外壁、トラックの荷台に書かれた社名ロゴにも素敵なものがありました。
講座は飲食業界で働く人にも人気

受講料は3500円で定員は4人。参加者の年齢層は、20代前半から50代までと幅広い。
男性1割・女性9割の職種はさまざまで、主婦やホテル勤務のパティシエ、焼肉屋の店長など。
「自分でお店のようなデコレーションができたらカッコイイ」「子どもの誕生日会のために」「恋人にサプライズをしたい」「スキルアップして飲食店で活用したい」という理由で参加する人が多いそうだ。
講座は、デザインの難易度によって初級・中級・上級の3コースを展開している。それぞれの特徴は、次の通りだ。
【初級】レース模様
楽しく簡単にできて、達成感も味わえるような課題。
【中級】ボタニカル模様、アクセサリー模様
初級に比べ、細かい表現力や正確さを必要とされる。文字の書体もよりシャープになる。
【上級】流線模様、シャンデリア模様
チョコペンの性質や扱い方の理解、さらに高い正確性や集中力が必要。
文字は立体感のあるメリハリある書体になり、かっこいい印象。
しかし、チョコペンで複雑な文字や模様を描いたことがある参加者は少ない。
初心者に教える上で、木村さんはどのようなことを心掛けているのか。

ーー指導時に大切にしていることは?
講座では、これまでの作品をまとめた自作のプリントを配布して、ワンポイントアドバイスを交えながら、最初に私がお皿にデコレーションをします。
それらを見本に、皆さんにも実践していただきます。
全くの未経験者には、器用な人もいればそうでない人もいます。
できるだけ皆さんに満足していただきたいので、「失敗してもいいから楽しんで、思い切ってやってみてください」と声を掛けています。
描き始めると止まらなくなり、コツをつかめばどんどん上達します。
ーー上手に描くためのポイントは? 間違えてしまった時はどうすればいい?
きれいな線を描くためには、チョコペンの温度管理はとても大事です。
冬場は特に、あっという間にチョコペンが冷えてくるので、チョコペンは複数本用意してローテーションで使ったり、レンジで軽く温めて使っています。
失敗した線を何度も消すのはストレスですから、クッキングシートやラップの上で練習してから本番に移るのがおすすめです。
線を消す時は、ティッシュかクッキングペーパーを使用すると簡単に拭うことができますよ。
「副業の時間の作り方を見つけるのが大変でした」
ーー副業をしていて楽しいこと、反対に大変なことは?
街のイベントでチョコペン教室を開いた時、小学生の女の子が参加してくれたのですが、終始笑って聞いてくれました。
帰り際に「楽しかったです!」と大きな声で言われ、子供の純粋な気持ちに感激しました。
他にも、「参加後にお母さんに誕生日プレートを作ってあげた」と後日に報告を受けた時はうれしかったです。
また、「次はどんなデザインを描こうかな」と考えてお皿と向き合う時間は楽しいです。
副業を始めた当初は、仕事で疲れた状態で集中力がもたなかったり、急な仕事で練習がはかどらなかったり、副業の時間の作り方を見つけるのが大変でした。
運営で大変なことは、やはり集客ですね。
SNSでの発信だけでなく、チラシを作成してお世話になってるお店に置いていただいたり、自分でポスティングもしています。
ーー今後の目標は?
「誰かを喜ばせたい」という参加者の思いを形にするアニバーサリープレートで、私もみなさんの思い出をより素敵なものにしたい。
チョコペンを通じて、夢と感動を伝えるお手伝いが出来ればという気持ちで活動しています。
来年には今よりも講座の回数を増やしていく予定なので、ちょっとしたデザートにもひと手間加えることで、「何でもないもの」が「特別なもの」に変わるということをもっと多くの人に伝えていきたいです。

数ある作品の中で、木村さんの一番のお気に入りは新作のクリスマスプレート。
繊細な線でクリスマスの楽しさを表現することを意識し、見た瞬間に歓声があがるような「うれしい気持ちになるプレート」を目指したそうだ。
あなたもクリスマスや記念日を盛り上げるプレートのデコレーションに挑戦してみてはいかが?
