「国家安全教育の日」に“重要案件”を公表

中国では、2015年に「国家安全法」が制定されて以降、毎年4月15日は「国家安全教育の日」とされ、この日に合わせ国営テレビなどは中国の防諜機関である国家安全局が摘発した重要案件を詳しく報じてきた。中国は日本人を含む外国人のみならず、多くの自国民もスパイ容疑などで摘発しているが、裁判は非公開で行われるため、その具体的な容疑や起訴内容が明らかになることはほとんどない。公表されるのはごく一部のケースのみだが、何を公表するかによって中国政府の狙いも垣間見える。新型コロナウイルスの対応をめぐり、国際社会から批判を受けている中国だが、以下に紹介する公表された事件からは“某西洋の国”による関与などに神経を尖らせていることが窺い知れる。

ケース1:「決死隊による国家転覆」未遂事件

中国中央テレビでは「粛某」と姓のみ公表された

粛という姓の男は、2016年ネットを通じて海外の「某敵対組織の中核メンバー」と知り合い、共に「国家転覆によって、中国の政治制度を変えようともくろんだ」2人はまず海外から武器を購入してから、国内で「決死隊」を組織し、翌2017年の春節に雲南省昆明市の警察署の襲撃、軍の弾薬庫から弾薬を強奪、断水、停電、放火などの破壊活動を計画。もし成功すれば、ネットメディアを通じて政治的な訴えを行い、失敗すれば海外に逃げることにしていた。男は中国版ラインWeChatで複数のグループを作り、人を派遣し国境のルートを調べるなど準備を重ねていたが、この動きは早くから当局に察知されており、あえなく全員が逮捕された。2019年4月、四川省成都の裁判所は男に対し、「国家政権転覆罪」の有罪判決を言い渡したが、量刑などは明らかにされていない。

「拘留証」に母印を押す男
「国家政権転覆罪」で有罪判決

ケース2:「反逆逃亡罪」のケースを初公開 “某西洋の国“とは‥

拘束された夫
拘束された妻

共に中国の航空研究所の技術者で、国家機密に関わるプロジェクトにも参加したことのある夫婦は“某西洋の国”に移民しようと計画。研究所に詳しい目的を隠し、資料を偽造してパスポートを申請し、仲介会社を通じて移民手続きを終えた。2002年の春節期間中、2人は陝西省に帰省する機会を利用して、子供を連れて密かにこの“西洋の国”に出国し、2005年にその国の国籍を取得。夫婦が消えた後、中国の国家安全機関が調べたところによると、夫の方はその国で航空分野の仕事に就いていることが判明。中国の機密流出が疑われる状態であることがわかったという。
その後夫婦は、陝西省の実家に帰省しようと、2017年に外国籍のまま16年ぶりに中国に入国したところ、陝西省西安の空港で拘束された。2019年11月、河南省洛陽市の裁判所は「反逆逃亡罪」で夫に懲役3年、妻に懲役2年を言い渡した。

夫婦が移民したのは“某西洋の国“としか発表されていない。しかし中国中央テレビの放送では、夫婦がアメリカ連邦議会にそっくりな建物の前で写っている写真や、壁にアメリカの地図が掛かった部屋で、妻が手を叩いておどける映像が使われるなど、アメリカであることが強く示唆されている。

アメリカ連邦議会とみられる建物前で写真に写る夫婦
壁にはアメリカ本土の地図

また、夫婦のほかにも軍の研究院の技術者だった男が、「反逆逃亡罪」で国家安全機関に摘発された。2003年妻を連れて職場に断りなく出国し、“某西洋の国”から帰らず、2007年にはその国の国籍も取得していたが、2018年に国家安全機関に拘束され、2019年11月に懲役2年の判決を受けた。

中国軍研究院技術者だった男も「反逆逃亡罪」で摘発された

反逆逃亡罪(中国語:叛逃罪)とは、中国の刑法にある、国家機関の職員が公務期間中、勝手に自分の持ち場を離れて出国したり、国家の秘密を知る職員が国外に逃亡し中国の国家安全に危害を与える行為をした場合、五年以下の懲役刑が科せられる。具体的なケースが公表されたのは上記2件が初めてだという。

ケース3:出国直前の逮捕劇…“ジャック”名乗るスパイに軍事機密を「何から何まで」提供

出国直前空港で当局者に肩を掴まれた男

「張建革だな。国家安全局の者だ」男が拘束されたのは、中国を出国する直前の空港だった。男は軍の科学研究院の高級研究員で、男の荷物からは機密の資料が出てきたとされる。

押収された証拠物件

男は科学研究院に就職後、2011年“西洋の某国”で客員研究の機会を得た。その際、ある学術シンポジウムで、ジャックと名乗る男と知り合った。親しくなるとジャックは男を高級車での旅行や、高級レストランに連れて行くようになり、さらには時給200ドルの高給アルバイトを紹介し、ついには娘の留学や居住資格の取得を援助するとまで約束した。金銭的な誘惑から抜け出せなくなると、ジャックは自らがスパイ機関で働いていることを明かした上で、情報提供を求めてきたという。捜査関係者によると、男は配備前の兵器の情報や、先端兵器の開発状況、研究の現状や方向性など「何から何まで」スパイ情報機関に提供してしまったという。調べに対し、男は「最初は3000ドルで、その後海外で1度“コンサルティング”するたびに口座に5000ドルが入金された」と供述した。その後、男にはスパイ罪で懲役15年の刑が言い渡された。

取り調べを受ける男

このケースでも“某西洋の国”がどの国かは明かされていないが、中国中央テレビが放送した映像の中には、スタジアムの客席で撮られた男の写真があり、よく見るとアメリカンフットボールのグラウンドであることがわかる。アメリカンフットボールはアメリカ以外ではマイナースポーツで、観客の多さなどから見ても、男が留学し工作を受けた場所がアメリカであることが示唆されている。

グラウンドにはヤード数を示す数字が見え、アメフト場であることがわかる

公表の狙いは…

これらの案件を公表した背景には、新型コロナウイルスをめぐり、米中の対立が激しくなる中、名指しは避けつつも関与を示唆することで、アメリカをけん制する意図があるとみられる。一方で、国営メディアは「国の安全を守るのは、専門機関の役割だけではなく、一人一人の公民や組織の義務だ」と締めくくっている。「国家安全教育の日」だけに、中国としてはいわば”利敵“行為を行わないよう国内の引き締めを図る狙いの方が強いのかもしれない。

【執筆:FNN北京支局 高橋宏朋】