上野の森美術館では『フェルメール展』、東京都美術館では『ムンク展』、国立西洋美術館では『ルーベンス展』が開催中の上野。これらの施設以外にも多くの美術館や博物館が存在している。

また、恩賜上野動物園や歴史的な建物である寛永寺など、幅広い年齢層や観光客が集まる場所でもある。そもそも、なぜ上野に美術館や博物館など文化・芸術施設が集まっているのか。

上野を知る人ならではの楽しみ方や豆知識、そして、社会包摂をテーマにした「UENOYES」プロジェクトを通して目指す未来などを上野文化の杜新構想実行委員会の北郷悟会長に聞いた。

(聞き手・戸部洋子アナウンサー)

世界でも類を見ない、文化芸術の集積地「上野」

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――なぜ上野にはたくさんの美術館や博物館が集まっているのでしょうか?

きっかけはオランダ人軍医にあります。現在の上野公園一帯は江戸時代、寛永寺の境内でしたが、戊辰戦争によって焼け野原になりました。明治に入り、この地域に医学校と病院を建てる構想が立ち上がりますが、視察に来ていたオランダ人軍医のアントニウス・ボードウィンが「公園にすべき」と発案し、1867年に日本初の公園が誕生しました。

ボードウィン博士像

1877年には日本で最初の博覧会である内国勧業博覧会を開催し、それをきっかけに日本の国家的な文化行事の場となりました。その流れを汲み、1882年に恩賜上野動物園、東京国立博物館が創設、1887年に美術学校や音楽学校(現在の東京藝術大学)が移築。

続いて、国立科学博物館、東京都美術館、国立西洋美術館、などが集中して建設され、それらを囲むように日本学士院、日本芸術院、国際子ども図書館、東京文化会館、上野の森美術館などを設置し、今では9施設が集まる日本有数の文化・芸術の中心となりました。


――美術館や博物館、動物園、大学などが集積した上野のような場所は世界でも珍しいのでしょうか。

東京大学本郷キャンパスから東京国立博物館までの上野公園一帯と同じ面積比率で、ロンドン・大英博物館周辺、パリ・ルーブル博物館周辺、ワシントンDC・スミソニアン博物館周辺と文化・芸術施設の数を比べても、施設数は上野の方が多いんです。そう考えると「珍しい」と言えるかもしれません。

――上野にはこれだけの数の美術館や博物館が集まり、動物園や大学といったアカデミックな施設もあるのは世界に誇るべき点ですが、大英博物館やスミソニアン、ルーブル美術館に匹敵するほど有名かと言われると、たしかにまだまだだと感じます。

それもあって2015年に、上野文化の杜新構想実行委員会をスタートさせました。

上野の文化施設、行政、民間企業が連携し、上野の潜在能力を発展させるための新しい構想です。施設には国宝や重要文化財をたくさん所蔵している施設もあります。芸術文化機関が連携し、価値ある文化・芸術資産を発信していくことを目標に活動しています。


――現在、上野にはフェルメールやムンク、ルーベンスなど世界的に有名な作品が集まっていますが、それも世界に誇るべきことなのでしょうか。

これだけの世界的な名画が一か所に集まっているのは非常に珍しいと思います。大英博物館やルーブル美術館は名作をたくさん持っていますが、あちらは常設です。

現在開催中の展示はいずれも人気が高く、『フェルメール展』は午前中は混雑することもありますが、夕方は意外と並ばずに入れることもあるんですよ。夜間開館を推奨している館もあるので、ぜひ活用してほしいですね。

――『フェルメール展』も平日の夕方以降は比較的空いているようです。上野公園一帯の施設でナイトエンターテインメントに対応していく予定はありますか?

『フェルメール展』では日時指定入場制を取り入れてますし、金曜、土曜に開館時間を延長する施設は増えています。仕事帰りでも鑑賞できますし、その後、アメ横や谷中など周辺地域へ繰り出すなどこのエリアならではの楽しみもあります。

――東京都美術館、国立西洋美術館、上野の森美術館は、それぞれ東京都、国立、私立と運営が違いますが、何か良い化学反応はあるのでしょうか。

運営は違いますが、各施設には収蔵品の研究を目的とした館もあります。企画展を開催して興行成績を上げることも大事ですが、研究そのものに大きな役割があります。各施設の研究員は研究や修復を軸としてコミュニケーションをはかって連携していますし、東京藝術大学もそこに加わっています。

学生たちは展示の作品解説や修復作業のボランティアに参加することで、本物の芸術を間近に学べる機会を得られます。上野はトップアーティスト育成の場としても素晴らしい環境だと思います。

一方で、上野は歴史的なものを中心に展示しています。さらに、東京藝術大学では現代のさらにその先の、新しいものを生み出す役割を担っています。

そういった時代を超えた芸術作品が同時に見られるのも上野の特徴だと思います。六本木に比べて若年層の来場者数が少ないので、今後はもっと多くの人に来てもらえると嬉しいですね。

2020年、さらにその後の展望

――北郷さんが会長を務める上野文化の杜新構想実行委員会では今年から新たに社会包摂をテーマにした「UENOYES」というプロジェクトがスタートしました。どのようなことを行っているのでしょうか?

上野に位置する文化・文教施設、行政、民間企業で連携して組織された上野文化の杜新構想実行委員会では、さまざまな取り組みを通して上野から日本文化の魅力を世界に発信しています。

4年目の今年は、文化・教育・学術機関のさらなる連携強化や街のにぎわいを促進するために「UENOYES」と掲げ、子供から大人まで、人種や国、障害の有無にかかわらず、さまざまな人々とともに公共空間の可能性を拡張する、さまざまな文化・芸術事業を展開しています。

実際、これまでの芸術は誰でも楽しめるものではなかったと思います。私たちが目指す芸術はインクルーシブ面にもきちんと対応し、アクセスビリティもあること。それらが整っていることが上野の杜であると発信していきたいです。


――
先ほど案内していただいた新たな文化シンボル「旧博物館動物園駅駅舎」は、先月から毎週金土日と一般公開されていますね。事前予約制で募集していたガイド付鑑賞ツアーはすでに全日程が定員に達するほどの人気と伺いました。

旧博物館動物園駅駅舎

1933年に開業した「旧博物館動物園駅」は、東京国立博物館や恩賜上野動物園の最寄り駅として利用されてきました。利用者数減少により、2004年に廃止になりましたが、今回、東京藝術大学と京成電鉄が協働し、駅舎公開につながりました。

日比野克彦さんが「上野動物園」や「国立科学博物館」など上野にある9つの文化施設をモチーフにしてデザインした扉

――駅舎内で期間限定のインスタレーション「アナウサギを追いかけて」は、どのような展示でしょうか?

今回の展示は、「旧博物館動物園駅」の一般公開に合わせて、上野文化の杜新構想実行委員会とアーツカウンシル東京の共催で行っており、アーティストが上野で行なったリサーチを基にした物語を読み解きながら鑑賞するインスタレーションです。

造形作家のサカタアキコさんが空間を構成、国立科学博物館研究員の森健人さんは3Dプリンターで作成した動物の骨格標本のレプリカを複数点、展示しています。

それに合わせて、1980年〜1997年に亡くなるまで恩賜上野動物園で飼育されていたジャイアントパンダ、ホアンホアンの実物の頭骨を国立科学博物館よりお借りして展示されているんですよ。

実物の標本はなかなか触ることができませんが、ここではリアルな3Dプリントレプリカを自由に見て、触ることができます。目の不自由な方も作品に触れることで鑑賞できます。

――2020
年の東京オリンピックに向けて観光客が増加する中で、「上野」は今後、どのように世界に向けてアピールをしていく予定でしょうか。

各施設がお互いに機能しあう環境を作り、お客さんをスムーズに誘導できたらと思います。

上野地区の美術館や博物館、動物園を総合的に楽しめるパスポート型の共通入場券を発行しているんです。3000円で各館の常設展と指定の特別展のうちどれか一つが鑑賞でき、割引料金で見られるパスポートです。今後はこの共通入場券をスイカのようなICカードにして、スムーズに入場できるようにしたいと考えています。

そして、日本の文化芸術をもっと発信していきたい。また、行政や民間の垣根を越えた連携、文化施設の利活用と価値の向上を目指し、知の拠点を作りたいと思っています。

さらに大事なのはスペシャリストの育成。アートマネジメントができる人材を育てることも視野に入れていきたいです。


――環境面についてはいかがでしょうか。

障害の有無にかかわらず、どんな人でも来やすい環境を作りたいと思っています。誰もが気軽に訪れて、芸術に触れ合えること。たとえば「旧博物館動物園駅」の前の道路がありますが、歩道がかなり狭いので、歩行者優先の道路を作れないかと考えています。

公園内のデジタルサイネージの設置も重要ですね。また、上野だけではなく、谷根千、本郷、秋葉原、神保町など領域を拡大して、エリア間の行き来をしやすくできたらと思っています。

谷中はギャラリーや古民家などの町文化、本郷は東京大学があり、秋葉原はポップカルチャー、神保町は世界最大規模の古本の町です。そういった地域の個性を生かして、それぞれの町を散策してもらえたらと思います。

北郷悟
1953年福島県生まれ。1977年東京造形大学彫刻科卒業。1979年東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。1991年新潟大学助教授。1996年文化庁在外研修。2008年より東京藝術大学教授。新制作協会会員。

旧博物館動物園駅「アナウサギを追いかけて」
2019年2月24日まで、金土日のみ開館中(11:00〜16:00/無料、年末を除く)

「上野文化の杜」
http://ueno-bunka.jp/

「UENOYES」
https://uenoyes.ueno-bunka.jp/

「フェルメール展」
上野の森美術館にて2019年2月3日まで開催中(2019年2月16日~2019年5月12日まで大阪市立美術館にて開催 ※大阪展は、一部内容が異なります)
https://www.vermeer.jp/

「ムンク展―共鳴する魂の叫び」

2019年1月20日(日)まで、東京都美術館にて開催中

「ルーベンス展―バロックの誕生」

2019年1月20日(日)まで、国立西洋美術館にて開催中

(文・浦本真梨子)