熱狂、そして試練の年

今年は、仮想通貨にとって試練の年だった。その一言に尽きる。

多くの問題が表面化し、真価を問われている。しかし正確に言うならば、そのすべての問題は、このテクノロジーが誕生したときから存在したものであり、今に至るまで多くの技術者や起業家によって解決が試みられているものばかりだ。

2018年を振り返ると、実に多くの出来事があった。

年初にはビットコインが最高値を記録し、その他多くの仮想通貨もまた、上昇を続けていた。ビットコインの注目度は上昇し、加えて前年からの ICO の急増という背景により、Ethereum やそのエコシステムの上に成り立つあらゆるトークンの需要が高まっていた。

同時に、日本では仮想通貨に関連する規制も進んできた。取引所も、テレビ CM まで実施して、ビットコインの認知度向上やユーザーの獲得に力を入れたため、まさに日本が中心となる形で、大規模な仮想通貨のムーブメントが起きた。

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そんな熱狂の中、日本国内の仮想通貨取引所において、公表されているだけでも2件の大規模な仮想通貨盗難事件が起こった。これらの事件により、人々の仮想通貨に対する信頼感が大きく揺らぎ、取引所運営の難しさや急成長の反動など、負の側面が明るみに出ることとなった。加えて、事件への対応や犯人捜査の過程で、この産業そのものの未熟さがあらわになった。ICO に関しても、それに対する法律や規制の整備が間に合っていなかったため、多くの混乱が生まれた。

結果として様々な要因が重なり、2018年末の段階では、仮想通貨の市場価格は年初から大幅な下落をしている。

このように仮想通貨というものの存在自体は、その未熟な側面も含めて、多くの人に知れ渡ることになった1年だった。

未解決課題の難しさ

まだまだ多く存在している未解決の課題の中でも、特にこの1年で注目されたものを振り返る。

まず挙げられるのは、監視の難しさだ。
マネーロンダリングや犯罪の防止という観点から、仮想通貨取引所には一定水準の顧客把握・資産監視能力が求められる。しかし、この監視という行為自体が、仮想通貨誕生の思想に反しており、結果として既存経済圏との結びつきを複雑にしているのだ。国家という枠組みやその上に成り立つ金融市場の現状に合わせて仮想通貨の流れを監視する場合、技術的な難しさと共に、運用面での膨大な労力が発生する。それがすべて、誕生したばかりの仮想通貨取引所に押し付けられてしまったのだ。

そして、仮想通貨のセキュリティー面での課題も見過ごすことはできない。
仮想通貨業界の経験が長い会社ですら、まだ誕生してからわずか数年という未熟な市場だ。その上、仮想通貨に関連する各種技術は、日々大きな前進をしており、わずか数ヶ月で常識となる前提が何歩も前進している。この、誕生してから僅かな時間で急成長している技術の反動として、人材や経験の不足が深刻な事態にまで発展しているのだ。

さらに、スケーリングの問題もある。

ブロックチェーンを安定的に稼働させ続け、分散型の設計による非中央集権であることの価値を維持したまま、処理速度の向上と運用コストの低下を目指すという難題だ。繰り返し言われていることだが、仮想通貨というものは、現状では高速処理には向いておらず、まだまだ多くのユースケースにおいて実用に耐えられるものではない。また、ブロックチェーンの運用や利用に関するコストが高い事も、それに付随して問題視されている。

これまでも、利用者が増える度にこの問題が表面化しており、その度に多くの技術者の努力と善意により乗り越えてきたが、まだまだ根本的な解決はできていない。様々な解決策が提唱されているが、この分散化技術が非中央集権型の設計で成り立っている事の特徴として、独裁的に誰かが方針を決めて進めるのではなく、コミュニティー内の議論や様々な実証実験を通じて、新しい改善策が試されている。そのため、現時点において、結果的に皆が賛成できる解決策は見つかっておらず、様々なアプローチを様々な分野の人々が試みているのが現状だ。これもまた、良くも悪くも、分散化の強みと弱みがはっきりわかる事態となっている。

このまま仮想通貨は終わるのか

年初の仮想通貨価格の上昇から、様々な問題により、価格は下がる一方という印象だ。しかし、価格上昇の一つの要因と言われている利用者の急増について言えば、それはまだほんの一部の人が仮想通貨の存在を知ったに過ぎない。規制や解決策に関しても、まだまだ始まったばかりだ。今まで始まってもいない状態だった仮想通貨が、ようやく動き始めた1年だったのだ。

規制や監視の難しさについては、日本においては業界団体が金融当局との難しい対話を継続している。セキュリティー面での課題に関しては、業界再編を通じて、金融系大企業との融合や協業も世界中で発表されており、新興技術と金融分野での経験が融合する市場がこれから開かれている。スケーリング問題に関しては、数え切れないほどのスタートアップやオープンソースプロジェクトやそれを支える技術者が、日夜改善に取り組んでいるのだ。

個人的には、緩く長く成長していくべき技術だったものが、不完全な状態で急激に多くの注目を浴びた1年だったと考えている。これから先、この市場環境に耐え、変わらずにこの技術の未来を信じている技術者やビジネスパーソンやユーザーが、この先の明るい未来を築いてくれると私は確信している。

今年噴出した様々な問題点に対して、規制当局、ビジネスサイド、技術サイド、そしてユーザーと様々な人たちが多くの知識と経験を得ることができた。来年度以降、これを糧として、仮想通貨をより良いものにするために、この価値を信じる人たちが、これからさらに協調し合いながらこの市場を形成していけると思っている。それが分散化社会というものであり、特定の企業や国家が方針を決定して進めるものとは違い、全ては参加するユーザーの意志に委ねられているという点が、仮想通貨の面白く、また魅力的な点だと考える。

この記事を読んでいただいた方にも、来年は何らかの形でこのテクノロジーの発展に参加してもらえることを願っている。

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執筆:篠原 ヒロ
SIVIRA Inc. Co-Founder & COO
Hulor Inc. Founder & CEO

篠原 ヒロ
篠原 ヒロ

6歳の時、自宅にあった Macintosh に出会い、コンピュターでものを作る喜びを経験する。11歳の時、テレビで見た Netscape と、Marc Andreessen が起こした革命に強い衝撃を受ける。そして、中学生時代。アメリカ西海岸を訪れ、後にドットコムバブルと呼ばれる現象を目の当たりにする。その時、テクノロジー業界での起業という生き方を決意する。
2013年にはビットコイン関連ニュースサイト BitBiteCoin.com を立ち上げ、2015年には IoT 市場をターゲットとして「自律分散データ経済圏」の実現を目指すブロックチェーン研究開発企業 SIVIRA を共同創業。また、2016年にアメリカで創業した仮想通貨資産管理会社を発展させる形で、2017年にブロックチェーン技術に特化したスタートアップスタジオ Hulor Inc. を創業。