2022年4月から拡大された、不妊治療への公的保険の適用。これまで適用されていなかった人工授精や体外受精なども、新たに適用対象となった。

多くの専門病院がいまだ“試行錯誤”の段階にある保険適用を利用し、体外受精による治療を受けてみた。

その中で、患者によって不妊に関する状況は千差万別であり、自分の状況と照らし合わせて何を重視するのかを、よく見極める必要があること、そして、保険で“一律”と言えども、結局は医師の判断や腕に依るところが大きいことが分かった。

「制限に不自由を感じたことはない」

全国で不妊について悩む夫婦が5.5組に1組いると言われ(内閣府HPより)、体外受精で生まれた子供は14人に1人(2019)となる中、2022年4月から不妊治療への保険適用が拡大された。

これまで、不妊の原因となる排卵障害や精管閉塞などの検査やその治療などにに限られてきたが、人工授精・体外受精・顕微授精なども新たに適用対象になった。

ガラス針に1個の精子を入れて卵子に直接注入する顕微授精
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筆者は40歳で結婚。人それぞれに考え方はあると思うが、筆者の場合、年齢を考慮してすぐに体外受精に進み、これまで自費で治療を続けてきた。しかし、期待する結果になかなかたどり着かないため、鍼灸院に通い、治療と並行して体調を整える努力も始めた。

不妊治療の保険適用については、さまざまな指摘がある。

その一つが、保険適用の治療で使用できる薬剤の種類や量、検査などが決まっており、その範囲内で治療することになるため、それぞれの患者の状況に合わせた医療を提供できないとの指摘だ。

例えば、受精卵(胚)の遺伝子や染色体の数を調べる「着床前診断」は、保険の対象になっていない。年齢の上昇に従い、染色体数に異常を持つ卵子の割合が大きくなり、流産に結びつく可能性がある。

体外受精後、子宮内に戻された胚(受精卵)

2度の流産を経験した筆者としては、着床前診断を希望したいところだが、この検査は保険の対象になっていないため、受けられない。この検査を受けるには、費用はすべて自己負担となる。

また、体外受精で胚を培養するために重要な培養液についても、使用に制限がある。複数の種類がある中で、改良が重ねられ、着床率や妊娠率の向上が報告されているものについては、条件を満たした場合にのみ、使用できることになっているのだ。

筆者自身も、卵胞を育成するための薬剤や培養液などの「制限」に不安を感じ、通っているクリニックの医師に尋ねてみたところ、予想に反して、「制限に不自由は感じていない」との答えが返ってきた。

大事なのは医師の“腕”

「制限に不自由は感じていない」と、きっぱり言った医師。その意外な答えに驚いた。

このクリニックでは、保険適用が始まる前から、培養液には手間をかけて患者ひとりひとりに合わせたもの、しかも質の良いものしか使っていないと言う。「本当に手間がかかるものなんだ」。その言葉に、重みを感じた。そして、ここでは保険適用後も同じ培養液を使用している。

培養液の中で細胞分割する胚(受精卵)

薬液の種類にも不自由は感じておらず、「適用の中でいかに結果を出せるように組み合わせるかが医師の腕の見せどころだ」と言い切った。医師の言葉には、長年の経験とプロ意識がにじんでいた。

確かに、専門病院はあまたある。保険適用前は、価格設定も比較的自由で、治療費が高いところからそれほどでもないところまで、さまざまだった。もちろん、医師や胚を培養する培養士の腕もさまざまだ。

自己注射や仕事を休んでの通院、痛みをともなう恐怖の採卵。妊娠判定の日までは1日が1週間に感じるほど長く、気になる症状が出ると、ネット上で検索ばかりしてしまう。疲弊する場面が多いからこそ、自分の状況を客観的に見られなくなることがある。

バランスを考えて「何をとるか」

筆者の初めての保険治療で良い結果は出なかった。

確かに、少しでも良い治療を受けたいし、少しの違いによって結果がうまくいかないかもしれないことに不安を感じる。

治療で使われる薬

自分の年齢をさしおいて、「薬剤に制限があったからじゃないか」、「培養液のせいじゃないか」などと、何かのせいにしたくなる。しかし、年齢を考えれば、そう簡単に進まない可能性の方が高いのだ。

今後、保険適用になる項目も増えるかもしれない。しかし現状では、自分の状況と「何をとるのか」のバランスを考えて、治療に臨むのかを考える必要があることが分かった。

収入減でも丁寧な治療を

実は、前述の医師によると、保険適用によってこれまでより1割以上、収入が減っているという。採算が合わず、対応に苦慮しているクリニックもある。

保険適用では原則、患者が3割を負担することになっていて、それ以外の部分のどの程度が税金で賄われるかは、国が決めた診療報酬の点数によって異なる。

例えば、体外受精は4200点(令和4年度診療報酬改定より)などと定められていて、場合によっては、病院側の負担が増えることになる。

厚生労働省のホームページより

保険適用が始まった4月以降、明らかに患者数は増えている。費用面で、これまで高度な治療になかなか踏み出せなかった患者とっては、希望の光だ。

その反面、医師をはじめとする医療スタッフの負担は増える。医師が多忙になりすぎて、十分に説明を受けられないケースもあり、実際にそう感じたこともある。

「医師の判断です」

「安くなったから、いい加減に扱われた」という声も聞く。先に述べた通り、主観的な感情が入りやすい治療なので、保険適用との因果関係は分からない。

しかし、少なくとも病院を選ぶ際、信頼できる医師を慎重に見極める必要があり、実はその点が最も重要なのではないか。これは、保険適用であろうとなかろうと、同様に重要なことだが、「保険治療=“一律の治療”」と考えがちだからこそ、意識したい点だ。

治療の具体的な内容について、厚生労働省の担当者に取材すると、「医師の判断です」という返答が目立った。

まさに医師の判断。

定められた範囲内でいかに高い技術を提供し、結果に結びつけるか。そのために、患者側も自ら情報収集し、質問し、納得のいく方法を選ぶことが重要だと思う。

不妊治療は、先の見えない闘いだ。努力だけではどうにもならず、神のみぞ知る領域である。

自費診療では数百万円が“溶けて”いくような感覚を持ったし、幾度となく涙を流した。

結果が出ないことに慣れてくる。それでも毎日笑って治療を続けられるのは、治療に協力的な夫と家族、同僚の理解、そして鍼灸院の先生たちのおかげだ。

40歳以上43歳未満の患者には、最大3回まで認められる保険適用。

「3割負担で済む」という費用面に安心するのではなく、保険の適用内でいかに結果を出せるかを模索していきたい。

記事 18 石井梨奈恵

他者と違う動きをする。 他者と違う場所を狙う。 すべてにおいて、他者と違う様子でいること。 功を焦らない。信頼第一。 大勢におもねらない。 無駄な動きをしない。 今日の不義にへこたれず、明日の別の世界を信じる。
元パリ支局長。2021年より、FNNプライムオンライン担当。これまで、政治部記者、 経済部記者、番組ディレクターなどを経験