「はやぶさ2」は太陽をはさんで地球と真反対側に
2014年12月に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」は、3年半宇宙を旅して2018年6月、無事に小惑星「りゅうぐう」に到着した。
12月の頭時点で、はやぶさ2とりゅうぐうは太陽をはさんで地球と真反対にいる。火星の軌道とほぼ同じ場所だ。
この位置関係だと、太陽が強い電波を発しているためノイズが生じ、地球からの通信を確保することができない。そのため、12月下旬まで事実上いったんお休み中。一時、りゅうぐうの上空10m近くまで接近したが、本格運用までは100kmほど離れた場所でスタンバイ中だ。道中撮影禁止の極秘管制室を取材した際、はやぶさ2の現在位置は常に大型スクリーンに映し出されていて、たしかに100kmほど離れた場所にいた。

はやぶさ2の使命は、この小惑星の土や岩などを持ち帰ること。
大成功をおさめた先輩「はやぶさ」の経験をフルに活かされているのは言うまでもないのだが、この成功体験が、逆にいま、関係者らに最大の試練をもたらしている。
「こんな場所だとは思わなかった」行ってみて初めて知る衝撃
プロジェクトマネージャーの津田雄一氏と主に着陸を担当する大野剛研究開発員は、初めてりゅうぐうの映像をみたとき、あまりの想定外の事態に衝撃を受けた。
砂地だと思っていた小惑星の地表が、大小さまざまな岩石に覆いつくされていたのだ。
2人は「こんな場所だとは思わなかった。想定外だった」と口をそろえる。

はやぶさ2は左右に広がるソーラーパネルをふくめると、その幅は6m×4m。中心の本体は軽自動車くらいのサイズでそこから着陸・サンプル採取のための70㎝の一本足がのびる。すなわち、周辺に70㎝以上の高さの岩があると、本体やソーラーパネルにぶつかってしまう可能性が生まれてしまったのだ。
着陸地点は15mほどずれる可能性
いま研究員らは送られて来た地表の写真から着陸候補地を選定する作業に追われている。範囲をおおまかに決めたうえで、周辺の岩石の大きさを調べているのだ。岩の縦横のスケールや、影の長さからおおまかな高さなどを推測。本体にぶつからないで済む場所を探している。
しかし、ほぼ平地を見つけたとしても、次に着陸精度の問題が覆いかぶさる。
いま、はやぶさ2を着陸させようとするとポイントから15mほどずれる可能性があるのだ。

これは、地球とはやぶさ2との距離の問題が大きい。地球から指令をだしても、はやぶさ2に伝わるまでかかる時間が19分ほど。光の速さなのに。すなわち、絶えず動いているはやぶさ2から送られてくる「生中継映像」は19分前の映像。そこから、さらに指示を出して伝わるのは19分後。このタイムラグを計算し、はやぶさの位置を予測しながら指示を出すのだから、ずれないわけがない。
さらに、いびつな形のりゅうぐうは、重力がすべて中心に向いているわけではない。周辺の大きな岩などの微小重力の影響も受けるのだ。
ちなみに、打ち上げ時は砂地を想定していたため、当初、着陸精度の誤差は50mの設計だったのだが、「衝撃の地表」をみて、プログラムを設計しなおし15mまで誤差を少なくした。この精度を数mまであげることができないかという議論も続いている。
着陸チャレンジはできて5-6回 早くて来年1月末
津田氏は「早くて来年あたまにも着陸地点を選出したい」と考えている。そこからすべて順調にいって着陸は1月末か2月頭になる想定だ。
はやぶさ2に残されている燃料では、あと11回着陸チャレンジができるのだが、これはいまの燃料をフルに使った場合。着陸以外にも姿勢維持のためなどに燃料を消費しているので、事実上5-6回が限界だという。

果たして無事着陸できるのか。
改めて、いまの心境を聞くと大野氏は「初めて行く場所なので想定を覆された。しかしその分、燃えている」と目を輝かせた。
津田氏も、私が地表の写真をみながら「このあたりはどうですか?」などと無邪気に提案してみても、「たしかにそこも考えているんですよね。やはりそこですか」と、ミッションの最重要課題に対する素人思い付きプランに真剣に答えてくれた。口では「悩んでいる」と言いながらもその表情は「ワクワク感」に満ち溢れていた。
彼らの前向きなチャレンジ精神が、無事結実することを切に願う。
きっと成し遂げてくれるだろう。
(執筆:フジテレビ プライムオンラインデスク 森下知哉)