去る2022年6月1日から3日間に渡って開催された、スタートアップ企業と投資家によるカンファレンス「B Dash Camp2022 Summer in 札幌」。スタートアップ業界のトレンドはWeb3やメタバースが盛況となり、脱炭素のような環境領域を志す起業家は正直なところかなり少数である。

しかし実際に創業し上場を果たした起業家は、590兆円規模とも試算される脱炭素テクノロジーこそ、ユニコーン(時価総額1000億円以上の会社)を創出する市場で、勝ち筋も存在するという。

本稿では「徹底討論!日本が投資すべき気候テクノロジーは何か」と題されたセッションの一部をレポートしたい。

投資すべき気候テクノロジーを見極めるには?

まず、セッションのモデレーターを務めるB Dash Venturesの山崎良平ディレクターが、グローバルおよび国内におけるClimate Tech(気候テック)上場企業の時価総額を紹介。

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一位のOrstedはデンマークを拠点とする洋上風力発電の企業。現時点ではグローバルにおける日本の存在感が希薄である事を再確認しながら、本セッションの論点として「投資すべき気候テクノロジーは何か?」「スタートアップが中心となりえるのか?」という2点を提示した。

山崎良平氏(B Dash Ventures ディレクター)

続いて、東京大学大学院・工学系研究科准教授の田中謙司氏がIPCC(気候変動に関する政府間パネル)での検討状況を紹介。

田中氏:
「IPCCと言っても馴染みが薄いかもしれませんが、各国政府が政策に反映する事を前提としてレポートを作成する国連の関連組織となっており、現在はテクノロジーを使った緩和策について議論しています。このレポートが政策に反映されると、政府のお金も大きく動き、ベンチャーのビジネスチャンスになります。」

対策の全体像については、現時点での費用対効果が良い順に青・オレンジ・赤で色分けされたグラフを元に説明。

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田中氏:
「青色の部分は既に経済合理性が確認されている施策で、再生エネルギーの導入がメインとなります。オレンジ色は、まだコスト的に厳しいけれど、期待されている対策。今後はモビリティや家庭、産業での需要を取り込んでいく、その為のテクノロジーが求められています。

田中謙司氏(東京大学大学院・工学系研究科准教授)

次に有限責任監査法人トーマツ パートナーの片桐豪志氏は、カーボンニュートラルを取り巻くビジネス情報が混沌としており、専門用語が多く難解な上に、経済性などの情報が少なく、勝ち筋を見出すことが困難であることを指摘。

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解決策の一つとしてデロイト トーマツ グループは、コスパやCO2削減ポテンシャルなどの項目でランキング形式にした「2050年カーボンニュートラル実現に向けた技術リスト」を公開。デロイト トーマツのWebサイトからダウンロードできる。

片桐豪志氏(有限責任監査法人トーマツ パートナー)

ウクライナ危機で脱炭素は歴史的な転換点に

セッションの後半では、実際に日本のスタートアップはどのような勝ち筋を見出せばよいかをテーマに議論を展開。

脱炭素テックのスタートアップ企業として2015年に創業し、2020年東証マザーズに上場したENECHANGE代表取締役の城口洋平氏。イギリス在住でもある城口氏はウクライナ危機がエネルギー業界にとって歴史的な転換点であることを指摘し、脱炭素ビジネスの市場規模とその可能性について語る。

城口洋平氏(ENECHANGE代表取締役)

城口氏:
「今回のB Dash Campではメタバースの話題も多いですが、我々はリアルな世界に住んでいて、そこでは炭素の排出を減らさなければならない。

私はイギリスに住んでいますが、ウクライナ危機でいま何が起きているかというと、まるで産業革命のラッダイト運動のようだと見ています。すべてが機械化されていく中で、労働者たちはふざけるなと機械を壊し始めた。今ヨーロッパは脱炭素へ進むからロシアの石油やガスはいらないと言い、プーチン氏はふざけるな止めてやる、となっています。

私の家の電気代は3倍になりました。3倍ですよ? それでも西側諸国は再エネ、脱炭素をさらに加速させていく。クリーンエネルギーの価値が高まったうえに、安全保障の観点も加わりました。直近の2~3年は落ち込むと思いますが、100年後に振り返ると、脱炭素が加速した歴史の転換点として認識されているでしょう。」

590兆円の市場規模

脱炭素テクノロジーの市場規模について城口氏は、アメリカの著名なベンチャー投資家ジョン・ドーアの著書『Speed & Scale』を引用して説明する。

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城口氏:
「カーボンニュートラル実現の為には590億トンのCO2削減が必要です。CO2の金額を炭素税の議論に合わせて仮に1トン1万円で計算しますと、590兆円になります。計算間違いではないか10回くらい確認しましたが(笑)590兆円です。つまりCO2削減を実現し、仮にその行為が1トン1万円の価値だとすると、590兆円の市場が生まれる訳です。

メタバースではなく地球上で仕事をする人にとっては、この領域で起業し何かを一生懸命やっていれば、時価総額1000億円くらいの会社を作る事は十分可能なのです。」

脱炭素ベンチャーは「ハード8割デジタル2割」

セッションの最後では、日本の強みを生かした具体的な戦略についての議論に。ENECHANGEの城口氏はデジタルだけでは脱炭素ベンチャーは成立せず、ハードが重要であると解説する。また、ヤフーの宮澤弦 取締役は中国のEVを紹介し、需要を喚起する政策の必要性を強調した。

城口氏:
「日本はハードが分かる人がベンチャー業界に少なくてデジタルが中心ですが、残念ながらデジタルだけでは脱炭素ベンチャーは作れません。

たとえば「CO2を吸収する」「街中を流れる小川で発電する水力発電」「EVのワイヤレス給電」など、事例はいくらでも出てくるのですが、いずれも製品としての見た目は「ハード8割デジタル2割」となり、もちろんデジタルも超重要な要素になります。

(EVワイヤレス給電「WiTricity」)

どちらも一社でできる会社は日本からは生まれにくいので、ベンチャーがデジタルを担当しハードは大企業など、日本型のハイブリットモデルを作らねばなりません。

宮澤氏:
「私は地方に住んでいますが、皆さん移動はほぼ軽自動車です。一方で中国では今50万円くらいのEVがすごく売れています。たとえば日本でも50万円で購入できるEV軽自動車を生活の一部として需要側に取り込んでいければ、状況が変わって行くのだと思います。

宮澤弦氏(ヤフー取締役 専務執行役員)

先ほどもありましたが、このウクライナ危機で皆が目を覚まし、一気に再生エネルギーへの投資が加速しています。逆にこの機会に日本が悠長に構えていると、ただでさえ10年遅れていたものが、20年遅れる事にもなりかねません。

日本の状況を変えていくには、政策による需要の喚起が重要です。先日も東京都が新築の住宅に太陽光パネル設置の義務化を検討していると報じられました。自国が強く他国に依存すべきではない部分を国が決め、政策によってその業界を太くすることで、挑戦するスタートアップも増えていくのだと思います。

需要を喚起する方法は、ポイント還元やコンビニで何かを交換するなど、日本独自のアイデアが考えられますよね。ガラパゴス的な進化と言われるかもしれませんが、目的を早期に達成する事につながるのではと。」

城口氏:
「ウクライナ危機で日本はガソリンに1兆円の補助金を出し、一方EVの補助金は数百億円です。最近ロンドンでランボルギーニを目にする機会が増えました。中東のお金持ちが好きな車ですから。日本の補助金がランボルギーニになっても良いのですか? EVであれば、そのお金で日本の企業が製品を開発し資産となっていく訳です。

やっぱりロビーイングのパワーがまだまだ足りないですよね。まずは政策によって正しい競争環境を整える事で、初めてベンチャーが生まれてきます。皆で声を上げて変えていきましょう。」

寺 記夫
寺 記夫


ITベンチャーを経てフジテレビ入社。各種ネット系サービスの立ち上げや番組連動企画を担当。フジ・スタートアップ・ベンチャーズ、Fuji&gumi Games兼務などを経て、2016年4月よりデジタルニュース事業を担当。FNNプライムオンライン プロダクトマネジャー。岐阜県出身。

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