「間違いござません」全面的に罪を認める姿勢

2020年5月下旬、医療ベンチャー「テラ」の新型コロナ治療薬に関する未公開情報を入手し、インサイダー取引をした金融商品取引法違反の罪に問われている、不動産会社内田建設とその社長・久保田俊明被告(53)の初公判が、30日、東京地裁で行われた。紺のスーツ、紺のネクタイに身を包み、うつむき加減で法廷に現れた久保田被告は、裁判官から「起訴内容と異なりますか?」の問いかけに「間違いございません」と罪を認めた。

インサイダー取引の罪に問われた久保田俊明被告(53)
インサイダー取引の罪に問われた久保田俊明被告(53)
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竹森被告との出会い

法廷では、久保田被告に未公開情報を伝達し、別の事件で逮捕・起訴されているセネジェニックス・ジャパン元役員の竹森郁(かおる)被告(51)との関係が明らかとなった。久保田被告は2019年10月ごろ、竹森被告と知り合い、医療クリニック購入の話を持ちかけられたという。

このころ、久保田被告の会社は不動産業が順調で潤沢な資金があったため、周りには金を無心してくる人が絶えず、竹森被告もその1人だったという。大学卒業後から不動産畑を主な生業としてきたが、父を膵臓がんで亡くした経験から、医療ビジネスに興味を抱いていたという久保田被告。クリニックの購入を決め1500万円を支払い、それと同時に運営法人を設立、自らその理事に就任した。

その後、竹森被告からは別のクリニックの買い取りや運営資金の出資などを求められ、2020年2月下旬までに、合計約1億2000万円を医療ビジネスに拠出した。またそれと時を同じくして、竹森被告は久保田被告に「テラ」社への出資を提案。久保田被告の会社の資金で「テラ」社の第三者割当増資を引き受けさせ、株主にさせたという。

久保田被告は、竹森郁被告(51)から、未公開情報を入手したという。
久保田被告は、竹森郁被告(51)から、未公開情報を入手したという。

久保田被告が次々と投資を進めるにあたり、久保田被告の会社の役員は、運営がはっきりと把握できていないし、竹森被告から資料を出すと約束していたにもかかわらず、いっこうに提出されないことから投資を止めた方がいいと進言している。

しかし、「いい話だ」と聞かされ信じ切っている久保田被告は、欲に目がくらみ投資を進めたというのだ。久保田被告がこのテラ株の買い付けまでに医療ビジネス名目で竹森被告に提供した金額は合計約3億7300万円という膨大な額にまで膨らんでいた。まさに、のめり込んでいたのだ。

好調だった久保田被告がなぜインサイダー取引に手を染めたのか

「少しでも担保になるならばと考え、148万株を受け取った」裁判で久保田被告は、このように発言した。多額の投資をする中で竹森被告を不審に思い、出資金を返すよう伝えていたようだが、話がまとまらず焦っていたという。そこで少しでも出資金を回収したいという思いで、今回のインサイダー取引に手を染めたと説明した。

久保田被告は、竹森被告から、メキシコでの新薬の臨床試験で患者の症状に改善が見られたという情報を事前に得て、2020年5月27日夕方に証券会社に電話し購入金を準備、「テラ」株合計2万株を約1750万で買い付けた。

テラ社に対する家宅捜索(今年2月)
テラ社に対する家宅捜索(今年2月)

翌日28日の適時開示で高騰した株を順次売却し、約900万円の利益を得た。久保田被告は証券会社から「テラ」株の購入に当たり、インサイダー取引ではないか確認を受けたが、「知らないよ」と嘘をついたという。また、既に保有していた148万株の売却については竹森被告から、まだ上がる可能性があると止められていたというのだ。

「詐欺師にハコを使われただけ」逮捕前の取材で

私は、2022年2月4日の逮捕前に横浜市の内田建設本店にて久保田被告を直撃していた。その際、会社の前には複数の外国製の高級車が止まっており、その羽振りの良さを伺うことができた。久保田被告に「インサイダー取引をした認識はあるか」と尋ねると、「不正なんかするわけない。詐欺師にハコを使われただけ」ときっぱりと否定した。

さらに、「資金を提供しただけで、本当に被害者だから」と自分は竹森被告に“騙された”被害者だと主張した。その当時は、久保田被告の発言の意図が私には理解できなかったが、初公判でこれほどまでに医療ビジネスにのめり込んでいたこと、竹森被告を信じ切りこれほどまでの大金を使っていたことを知ると、事件の背景とともに発言の真意を理解することができた。

内田建設に対する家宅捜索(今年2月)
内田建設に対する家宅捜索(今年2月)

求刑は懲役1年6カ月、罰金100万円

「証券市場の公平さを害し、信頼を損なった」検察側は厳しく指摘し、久保田被告に懲役1年6カ月、罰金100万円、「内田建設」に罰金100万円を求刑した。久保田被告の会社は不動産売買が主な業務であるが、現状主要銀行からの新規の融資は全て止められており、資金繰りに窮し、本店ビルなどの固定資産の売却を進めているという。

また、久保田被告はこの裁判後に社長のポジションを辞任する考えを示しており、今後について、「ひたすら罪を反省しながら真面目に生きていきたい」と小さな声で呟いた。

最後に、検察側から「竹森被告の裁判で、証人として話すことはできますか」との問いに、弁護士の方をチラっと見てから、間を置いて「はい」と答えた。竹森被告に出資した約3億7300万円もの金はどこに消えたのか。竹森被告の裁判を取材し確認したい。久保田被告の裁判の判決は7月4日に言い渡される予定だ。

検察側は、久保田被告に対して、懲役1年6カ月を求刑した。
検察側は、久保田被告に対して、懲役1年6カ月を求刑した。

(フジテレビ社会部・司法クラブ 森将貴)