閑散とした仁川国際空港の到着ロビー

世界で新型コロナウイルスの感染拡大が長期化する中、人々の移動が極端に少なくなったあおりを受けて航空業界が大きな痛手を負っている。日本航空は4月22日、3月までの1年間の業績予想について最終利益を930億円から530億円に下方修正したと発表した。全日空も最終利益は940億円の予想から270億円にとどまると大幅に下方修正した。

日本の航空業界は苦境に陥っているが、それよりもはるかに深刻な打撃を受けているのは韓国の航空業界だ。日韓関係の悪化により、ドル箱だった日本路線を2019年に大幅縮小し、これを補う形で中国などアジア路線を拡大した。しかし、そこにコロナショックが降りかかった。韓国航空各社が保有する航空機は90%が稼働しておらず、空の道は途絶えたままだ。韓国政府が大規模な金融支援策を発表したものの、業界浮揚の道筋はいまだ全く見えない。大手から格安航空会社まで、その窮状ぶりを伝える。

最大手でさえ、4月に資金枯渇で不渡りか

まずは最大手の大韓航空。一枚岩で臨むべきコロナ禍においても「お家騒動」を引きずるなど、そもそもの経営体制が安定していない。大韓航空を中核とする財閥「韓進グループ」では先代会長の死去を受け、「ナッツ姫」として知られる姉と弟との間で経営権を巡り確執が表面化。結局、弟に軍配が上がることになるのだが、決着がついたのが3月下旬のこと。まさに世界で感染が拡大する最中だった。

韓国の航空業界は、国土の狭さや国民の海外旅行志向の強さなどから国際線を主力としているのが特徴だ。中でも大韓航空は旅客売り上げに占める国際線の割合が特に高く、実に94%に上る。感染拡大前、大韓航空は国際線を週900便ほど運航していたが、現在はアメリカの一部やパリ、ロンドンなど週50便程度にまで激減。売り上げの大部分が吹っ飛んだことになる。

到着便を示す電光掲示板

実入りが無くなった一方で、莫大な固定費はのしかかり続けている。韓国メディアによると大韓航空の場合、航空機リース料や人件費などで毎月約450億円を支払う必要がある。空の道がシャットダウンされても、この固定費は変わらないわけだ。さらに4月には約200億の社債が償還期限を迎えるという。

韓国航空業界の主な資金調達の手段に「航空運賃債権」というものがある。将来のチケット売上げを担保にするもので、すぐに運転資金に回せる資産流動化債権だ。韓国メディアによると、大韓航空が3月に発行した航空運賃債権は約550億円。一方で航空機リース料などの固定費と社債償還費、つまり4月に出ていく額は計約650億円。この差額の100億円については、手元の運転資金から捻出するしかないが、3月の運賃収入も激減しているため「大韓航空は4月中に資金が底をつく」という見方が出てきている。遊休資産の売却や役員報酬の返納など策を講じているものの、「もはや最大手でさえ不渡りを出しかねない」と報じられるほどだ。

八方塞がりのアシアナ「身売り」も頓挫?

業界2番手のアシアナ航空はさらなる苦境に立たされている。そもそもアシアナ航空はコロナショック前から経営難に陥っていた。LCC(格安航空会社)との競争激化などで資金繰りが悪化し、2019年末に大手財閥「現代」傘下の建設会社「HDC現代産業開発」を中心とする企業連合に売却されることが決まった。さらに日韓関係の悪化に伴う「NO JAPAN」運動の影響もあり、2019年の純損失は約700億円に上るなど、経営状況は極めて厳しい状況にあった。

アシアナ航空にとっても日本路線はドル箱で、大幅縮小の代わりに中国などアジア路線に活路を見出したが、そこをコロナショックが襲ったわけだ。大韓航空と同様に国際線の割合が非常に高いため、収入の大半が消え去った一方で、月に約250億円の固定費は払い続けなければならない。さらにアシアナ航空は最近、「航空運賃債権」の信用格付けが引き下げられたため、資金調達力も落ちている。もはや八方塞がりなのだ。こうなると揺らぐのが、会社の身売り話。売却先は決まったものの、いまだに契約締結には至っていないため「企業連合が買収から手を引くのではないか」という指摘も出てきている。

瀕死状態のLCC 国内線に活路探るも…

大手2社以上にひっ迫しているのがLCC(格安航空会社)だ。韓国では規制緩和によって国際線を運航するLCCが6社あり、厳しい価格競争を強いられている。元々、経営基盤の脆弱な韓国LCCは、日本路線と中国路線の開拓で短期間に急成長を遂げた面もあり、国際線が閉ざされると一気に経営が危うくなる。またウォン安の進行で燃料費や航空機リース料の負担も増え、収益を悪化させている。大手よりも規模が小さいLCCにとって、日韓関係の悪化にウォン安、さらにコロナショックというトリプルパンチは、会社存続の危機に直結するわけだ。

そこでLCC各社は、相次いで国内路線の増便に踏み切った。韓国では新型コロナウイルスの新規感染者数が1桁にとどまる日もあり、一定の封じ込めに成功している。このため国内旅行の需要も回復傾向だが、散発的な国内線の増便は、過剰供給による「共倒れ」の可能性もはらんでいる。いずれにせよ、LCCも抜本的な経営改善策は見出せていない。

3兆円超の支援策まとまるも、企業体力持つか

政府の「非常経済会議」に出席した文在寅大統領

早い段階で業績不振に陥ったLCC各社に対しては、韓国政府が2月に約250億円の緊急融資を行うと発表した。そして4月22日、政府は航空業界をはじめとした基幹7業種に向けて約3兆5000億円規模の支援策をまとめた。しかし、この支援策を業界がもろ手を挙げて歓迎しているわけではない。航空業界への具体的な分配額も明らかにされていない上に、中身は融資などが中心となる見込みで、効果は未知数だからだ。さらに支援を受けるには「半年間、90%以上の雇用を維持」などの厳しい条件が課される可能性もある。また、支援を受けた企業の利益を政府が共有するシステムも導入するため「事実上の国営化ではないか」との批判もある。そして最大の懸念は、実際の支援開始までタイムラグがあることだ。早くても5月国会での法改正を待たなければならず、支援は6月にずれ込む可能性もある。だが、待ったなしの韓国航空業界が6月まで耐えられる保証は、どこにもない。

【執筆:FNNソウル支局 川崎健太】