「AIの発展によって、仕事が奪われる時代が来る」と、不安視されるようになって久しいが、職業が変化していくことは、今に始まったことではないだろう。街を見渡せば、「昔は駅の改札に駅員さんが立ってたのに」「豆腐を売り歩く人を見かけなくなったな」などと、気づくことがあるはずだ。

“平成”の間に移り変わっていった職業は、どのようなものがあるのだろうか。地域マーケティングを研究する中で、職業の変化を捉えていったという大正大学地域構想研究所主任研究員・中島ゆきさんに、消えた職業と生まれた職業について聞いた。

平成時代、職業の変化に大きく影響した“インターネットの普及”

中島さんは、どのように職業の変化を追っていったのだろうか。

「調べるために最適なものが、5年に一度行われる国勢調査で使用されている『日本標準職業分類』です。平成最初の国勢調査が平成2年(1990年)、最後が平成27年(2015年)だったので、平成の時代変化をウォッチするにはちょうどいいと考えたんです」

「日本標準職業分類」は、平成9年(1997年)と平成21年(2009年)に大幅に改定されているため、平成2年に存在していて平成27年になくなっている職業を「消えた職業」、平成27年から見られるようになった職業を「生まれた職業」と捉えられるとのこと。

「『日本標準職業分類』は『大分類-中分類-小分類-例示』 に分けられていて、『医師』『飲食店主・店長』『電車運転士』など、職業としてイメージするものが小分類や例示に示されてます。その職業の人が一定数いなくなると小分類が廃止、または例示に移動するのです。今回は、小分類が廃止、文言自体が削除されたものを『消えた職業』としています」

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職業の変化は、「AIの出現」のようなIT技術の進化が影響しているのだろうか。

「世の中の3つの変化が関係していると考えられます。1つ目は法整備、2つ目は生活者の困りごと、3つ目は技術革新です。法整備の観点でいくと、国家資格制度の改正によって『カウンセラー』という職業が分割されたことで、『心理カウンセラー』が誕生しました。昭和60年代に、消費者保護基本法(現・消費者基本法)において苦情処理が整備強化されたことで、『苦情受付事務員』も登場しています」

生活者の困りごとを解消するため、平成に新たに生まれた職業の代表例は「テクニカルライター」や「ハウスクリーニング」が挙げられる。対して、消えた職業としては「電話売買仲介人」が挙げられるだろう。かつて固定電話を利用するには電話加入権が必要だったが、現在はそのニーズが減少し、専門職が消滅していった。

技術革新による変化は顕著。ワープロ関係の職業はほとんどなくなり、一方でIT系の職業は多数生まれている。また、インターネットの普及によってネットトレーディングやネット決済が主流となったため、証券取引所で取引を行っていた「場立人」や「預貯金集金人」「保険料集金人」が小分類から削除された。

令和における職業変化のポイントは「ネット犯罪」「高齢化」「動画」

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ここまで“平成”の変化を見てきたが、AIの活用がさらに進むであろう“令和”には、どのような変化が予測されるのだろう。

「法整備の部分でいうと、2020年はサイバーセキュリティ・個人情報保護に関する整備が急速に進みます。個人情報保護法の改正が予定されていますし、コロナ禍によるリモートワークの促進において、サイバーセキュリティ関連の法整備は必須です。そのため、ネット犯罪防止のためにパトロールする仕事や、企業対象だけでなく個人に対する誹謗中傷を管理するサービスが増えていくと、予測できます」

これから増加する困りごとは、社会問題にもなっている少子高齢化に起因すると考えられるそう。

「保険の手続きやガス料金の変更など、生活に必要な手続きは数多くありますが、高齢になり、外出できない人やインターネット手続きができない人が増えてきます。その際に、代理で書類申請するサービスが出てくるでしょう。今も弁理士や行政書士はいますが、企業案件や法規上の書類を扱う方がほとんど。対して、日常的な簡易な手続きに関する困りごとに対応してほしいというニーズは増えると考えられます。そこで、パーソナル対応を行う新たな職業が生まれる可能性は高いです」

手続きを代理で行う場合、個人情報の扱い方が問題になるが、その心配を解消する仕組みは生まれつつあるそう。その流れもあり、生活手続き面でのニーズは高まるといえそうだ。技術革新での変化においては、AI以上に職業に影響を与えるものがあるという。

「令和はAIの時代といわれていますが、文化としては“動画”の時代だと思います。新型コロナウイルスによる自粛要請の影響で、ネット会議も普及し、ますます動画の意味合いが変わることから、動画関連の職業は増えるでしょう。副業として動画を活用するケースは、この数カ月で加速しています。平成にインターネット関連の職業が細分化されたように、動画関連での細分化が起こると予測します」

「アートとしての継承」「ITを活用して生産」伝統技術を残す道はいくつもある

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伝統を継承していく「職人」という職業は、時代の流れとともに消えてしまうものなのか。中島さんに聞くと、「残し方を考えていく必要がある」とのこと。

「職業を社会学で捉えた場合ですが、『伝統』と『イノベーション(技術革新)』、『アート』と『生活品』という2つの軸で考えていく必要があるでしょう。例えば、漆職人は『伝統』×『アート』で生き残る道に進んでいるように感じます。町工場は、『イノベーション』×『生活品』という道が考えられるでしょうか」

人から人の手へと伝承していく「伝統」とITを活用して裾野を広げていく「イノベーション」、どちらに進むにせよ、最新技術の活用は大きなヒントになるようだ。

「モノを残すだけでなく、AIの技術を使えば、伝統技術の暗黙知を形式知に変えて、残していくことが可能になってきています。工芸品の製作過程をAIで計測し、加わった力や温度を解析することで、これまで“感覚”とされてきた技術を見える化できるのです。多大な予算はかかると思いますが、伝統を残す道の1つといえるでしょう」

時代の変化とともに移ろっていく職業。過去を振り返りつつ未来を予測すれば、どの職業が消え、どんな職業が生まれるか、見えてくるだろう。そして、残していくためのヒントも見えてくるかもしれない。

中島ゆき
大正大学 地域構想研究所 主任研究員、地域創生学部 講師。法政大学修士課程修了後、広告業界に長く在籍し、多くの企業のプロモーション戦略やマーケティング分析に携わる。現在は、これまでの経験を生かし、自治体のまちづくりコンサルタントとして各地の地域活性化プロジェクトに関わる。

大正大学 地域構想研究所
https://chikouken.org/

取材・文=有竹亮介(verb)
イラスト=さいとうひさし

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プライムオンライン編集部
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