高齢者施設に死者集中 高まる「介護崩壊」への懸念

高齢者施設における新型コロナウイルスの感染拡大が社会問題化している。アメリカのトランプ大統領は22日、記者会見でワシントン州の高齢者施設で集団感染により35人が死亡したケースを取り上げ、「高齢者施設への対応を特別に強めている」と強調した。

「高齢者施設への対応を特別に強めている」と強調するトランプ大統領
「高齢者施設への対応を特別に強めている」と強調するトランプ大統領
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ワシントンポストは20日、国内の1割にあたる1300以上の高齢者施設で感染を確認したと伝えた。また、ニューヨークタイムズによると、全死者数の2割に上る少なくとも7000人が高齢者施設で死亡したという。これらの集計は氷山の一角で、実際の状況はさらに悪いとの指摘もある。

高齢者施設は、狭い空間に複数の人々が集まったり、介護スタッフが部屋から部屋へと移動するため、感染拡大のリスクが高い。基礎疾患のある高齢者は特に致命的で、病院と同水準の対策が求められるにもかかわらず、施設ではマスクや防護服などが不足している場合もある。

このような中、介護スタッフが感染、または感染を恐れて出勤できないなどの事情で人手不足となり「介護崩壊」に発展するケースも世界で相次いでいる。

AFP通信は21日、カナダ・モントリオール市の高齢者施設で、数週間で31人が死亡し、入居者が放置されていた実態が明らかになったと伝えた。職員らが相次いで離職したため、入居者が排泄物の処理も受けられず、食事も数日間与えられていない状態だったという。また、2人は死亡したことも気づかれずに放置されていた。残った2人の看護師だけで130人の入居者の介護に当たっていたことから、重過失の疑いで捜査が始まった。

入居者が認知症で面会謝絶だったら・・・入居者家族が語る実態

施設の中には、感染拡大を防ぐため、施設内への立ち入り禁止や入居者への面会謝絶の措置をとるところも多い。ただ、入居者が認知症を患っていた場合、最悪のケースも想定される。施設で「介護崩壊」が起きたとしても、家族に適切に助けを求めることができず、対処が遅れてしまうのだ。

認知症を患い高齢者施設に入所する84歳の祖母がいるフランシスカ・ビーンさんは、実際にこのような「最悪のケース」に直面している。

テレビ電話でインタビューに応じてくれたフランシスカ・ビーンさん
テレビ電話でインタビューに応じてくれたフランシスカ・ビーンさん

祖母が入居するのは、東部ニュージャージー州の高齢者施設。この施設では4月13日、4人用の小さな遺体安置所に17人の遺体が置かれているのが発見され、施設の対応が適切だったか、州当局が調査に乗り出している。

17人の遺体が積み重ねて置かれていたのが発見されたニュージャージ州の高齢者施設
17人の遺体が積み重ねて置かれていたのが発見されたニュージャージ州の高齢者施設

ニュージャージー州は新型コロナウイルスの感染者が全米で2番目に多く、死者も5千人(22日現在)に上っている。フランシスカさんは施設で感染が確認されて以降、祖母を心配し施設に何度も電話をしたが、本人につないでもらえない状況が続いたと怒りを露わにする。

フランシスカさん:
「祖母は私の親友だ。怖いし、怒りを感じる。一週間泣き続けた。こんなことを愛する家族にどうしてできるのか。言葉も見つからない」

祖母とようやく話すことができたのは、遺体積み上げが明るみに出てから、3日後の16日だった。

フランシスカさん:
「感染拡大以降、一度だけ、祖母と電話で話すことができたが、それまでは連絡をとることができなかった。何度連絡をしても施設側に『彼女は寝ている。話したくないと言っている』と言われ、つないでもらえなかった。私は祖母の声を直接聞き、大丈夫かどうか確認したいのに・・・」
「電話で、祖母は『トラブルはいやだ』と言っていた。祖母は認知症を患っていて、それ(トラブル)がどういう意味なのか確認しようとしても意味がわからなかった。すぐに施設に祖母がトラブルを抱えていると伝えたが、今も返事がない」

祖母とテレビ電話をした際のスクリーンショット 右上にはフランシスカさんの泣き顔が
祖母とテレビ電話をした際のスクリーンショット 右上にはフランシスカさんの泣き顔が

必要なのは「適切な情報提供」 報告義務化で透明性確保へ

フランシスカさんは、この施設では人手不足からか、家族に対する情報提供が極端に少ない状況が続いていると指摘する。施設側に強く求めるのは、家族側への「適切な情報提供」だ。

フランシスカさん:
「施設には700人がいるので、感染しないよう祈り続けるしかない。施設は感染拡大にどう対処していいのかわかっていない。現在施設で120人が感染していると聞いたが、時間の問題だ」
「多くの人から聞いたところ、施設では医療品が不足している。コロナウイルスの症状などがある入所者は近くの病院に移しているというが、家族には何の知らせもない。なぜ、施設は家族に何も知らせないのか。手紙も電話もメールもない。こんなことが許されるのか。全く理解できない」

そして、対応策が見つからない現状にフランシスカさんは怒りと不安を訴え続けている。

フランシスカさん:
「施設は完全に閉鎖されているため、祖母に会うことができない。だから、マスクをあげることもできない。しかし、今は施設から退所させることも許されない。事態が変わったら、できるだけ早く別の場所に移したい」

このような声を受けて、アメリカ政府は19日、高齢者施設での感染状況などについて、施設側が連邦政府と入居者本人、家族に報告することを義務づけ、透明性の向上をはかる新たな措置を発表した。高齢者施設での感染は日本でも相次いでいて、「介護崩壊」はもはや対岸の火事とは言えない。問題解決のためには、入居者への対応だけでなく感染防護に向けて有効な対策をとるなど、介護スタッフが安心して働ける環境作りも急務で、一刻も早い改善が求められる。

祖母と撮影した家族写真
祖母と撮影した家族写真

【執筆:FNNワシントン支局 瀬島隆太郎】

瀬島 隆太郎
瀬島 隆太郎

フジテレビ報道局政治部 元FNNワシントン支局