東京・新宿区のマンションの地下駐車場で消火設備が誤作動し、作業員4人が死亡した事故から1年余りが経った。当時現場で作業にあたり、亡くなった上邨昌弘さん(当時58)の妻と娘が取材に応じ、胸の内を明かした。

地下駐車場で消火設備が誤作動4人死亡

事故が起きたのは去年4月15日、新宿区下落合のマンション地下駐車場。二酸化炭素の消火設備が誤作動し、天井板の張り替え作業をしていた上邨昌弘さんら男性作業員4人が死亡した。消火設備の煙感知器と熱感知器を誤って設置したことによって、設備が誤作動し、二酸化炭素が放出されたとみられている。昌弘さんは、作業の下請け会社の社長だったという。

事故発生当時の現場の様子(2021年4月 東京・新宿区)
事故発生当時の現場の様子(2021年4月 東京・新宿区)
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事故当日の朝、昌弘さんを玄関先で送り出した妻・チャリトさん。昌弘さんは、いつもと変わらず、冗談を口にしていたそうだ。

亡くなった上邨昌弘さん(享年58)
亡くなった上邨昌弘さん(享年58)
亡くなった上邨昌弘さんの妻・チャリトさん(右)と娘・マリアさん(左)が取材に応じてくれた
亡くなった上邨昌弘さんの妻・チャリトさん(右)と娘・マリアさん(左)が取材に応じてくれた

妻・チャリトさん:仕事に行くときはいつも頬にキスをするんです。(昌弘さんは)その時ギャグを言うから「行け行け」って私が言う。ただ夕方帰ってくると思っていたけど、帰ってこなくなっちゃって。

午後になって、チャリトさんのもとに、警察官から「昌弘さんが事故に巻き込まれた」と連絡があった。翌日、家族は、棺の中の昌弘さんと再会する。

妻・チャリトさん:約束守らなかった・・・。突然いなくなったからね。

上邨さん夫婦は事故から4日前の4月11日に結婚記念日を迎えたばかりだった。週末には記念日を祝うべく食事へ出かける予定だったという。

妻・チャリトさん:高いレストランじゃないけど、いつも記念日はどこかに食事に行きました。

「まだ生きていると思っています」

チャリトさんは、今も、突然の別れを信じることができず、昌弘さんの洋服や荷物は、当時のままにしているという。一時、洋服などを箱に入れて整理しようとしたこともあったが、夜になると、また元のところに戻してしまったそうだ。

チャリトさんは「まだ信じられない。まだ生きていると思っています」と語った。
チャリトさんは「まだ信じられない。まだ生きていると思っています」と語った。

妻・チャリトさん:まだ信じられない。まだ生きていると思っています。だからうちのパパの荷物はまだそのまま。なにもいじっていない。

一方、娘のマリアさんは、昌弘さんのことを、家族のムードメーカー的存在だったと振り返った。

娘・マリアさん:父は明るいです。類は友を呼ぶではないけど、母親も弟も私も明るいみたいな。けど、この事故で明るかった家族が、毎回、夜泣いている。

「突然、泣いたり」 息子は引きこもりがちに

家族にも確実に変化が起きていた。

娘・マリアさん:寝る時やシャワーの時に、ふと泣いてしまったり。さっきまで笑っていたのに突然、泣いたりとか。

マリアさんは、事故後、突然、泣いたりすることがあるという。
マリアさんは、事故後、突然、泣いたりすることがあるという。

高校生の長男は、父である昌弘さんに憧れを抱き、「おれも社長になる」と言って会社を継ぐのが夢だった。しかし、今は、自宅で引きこもりがちになっているという。

事故当時、消火設備が作動し、二酸化炭素を放出されたことによる死亡事故が相次いでいた。2020年12月には名古屋市のホテルの地下駐車場で1人、2021年1月には港区のビルの地下駐車場で2人、それぞれ作業員が亡くなっている。昌弘さんとチャリトさんは、報道を見て、「気を付けないと」と言葉を交わしていたという。

昌弘さんの遺影と遺骨の前には結婚指輪が
昌弘さんの遺影と遺骨の前には結婚指輪が

娘・マリアさん:1人の命は重いです。うちのパパはただの作業員じゃありません。私たちにとってはたった一人のパパだし、お母さんにとってはただ1人の愛している夫です。

1人のかけがえのない存在を失った家族は、なぜこのような事故が起きてしまったのか、明らかになることを望んでいる。

妻・チャリトさん:何でそうなったんだろうと思っている。誰が悪いか分からないし。うちのパパが戻ってくればそれでいいですけど。

警視庁は工事の元請け会社だった建設会社を家宅捜索するなどして、業務上過失致死の疑いで捜査している。

警視庁は、業務上過失致死の疑いで捜査を続けている。
警視庁は、業務上過失致死の疑いで捜査を続けている。

(フジテレビ社会部・警視庁担当 大久保裕)