新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るう中、一部の国では「経済活動再開」の動きも出てきた。

アメリカのトランプ大統領は4月15日の会見で「感染拡大のピークは過ぎた」と強調し、経済活動再開に向けたプランを公表。依然、感染者、死者数は増え続けるアメリカだが、州によっては増加率が収まってきたところもある。誰しもが早い経済活動再開を望む中、その課題自体が政治の道具に利用されているのだ。

連日会見するニューヨーク州・クオモ知事
連日会見するニューヨーク州・クオモ知事
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「政治問題化するものではない」と強調するが・・・

連日、現地時間のお昼の時間帯に会見を開くニューヨーク州クオモ知事。ある時は政府の対応を持ち上げ、トランプ大統領に感謝。一方でトランプ大統領にけんかを売られれば、「この国には王様はいらない」などと皮肉たっぷりに応戦することもしばしばだ。

クオモ知事は、民主党。
トランプ大統領は、共和党。
アメリカでは今回の新型コロナウイルスの対応をめぐっても、共和党VS民主党の構図でバトルが繰り広げられている。

二人はそれぞれの会見で新型コロナウイルスへの対応を「政治問題化するべきではない」と何度も強調している。しかし、実際には会見の場を利用して、自らの取組をアピールすることで、新型コロナウイルス問題を「政治的」に利用している面がある。

主要課題の「経済再開」を巡っても主導権争い

ニューヨーク州は、入院する患者数が減少に転じつつあることなどから、クオモ知事も13日、「最悪の事態は脱した」とピークを迎えつつあると指摘した。一方で一気に経済活動を再開すれば、一部の国や地域でも見られるように再び感染者の増加を招きかねないため、再開方法についてはデータなどを元に慎重に判断する考えだ。

「最悪の事態」は脱しても外出自粛は続くNYの街
「最悪の事態」は脱しても外出自粛は続くNYの街

クオモ知事は、この「経済活動再開」を巡っても、トランプ大統領と衝突した。

トランプ大統領が再開の指示は大統領が出すと発言したのに対して、クオモ知事は、判断はそれぞれの州がするものだと反論したのだ。

結果的にトランプ大統領は3段階の経済活動再開プランを公表したものの、最終的な判断は地元が責任を持って行うべきと、トーンダウンした。

「経済活動再開の指示は大統領が出す」と主張するトランプ大統領
「経済活動再開の指示は大統領が出す」と主張するトランプ大統領

しかし、トランプ大統領もこのままで引き下がるはずがない。早速、17日には、中西部のミシガン州やミネソタ州、バージニア州を名指しして、外出禁止措置などを解除し、経済活動が早期に再開できるように、「解放」するようツイッターに投稿。この3州の知事はいずれも民主党出身だ。そしてこの3州は大統領選の際にポイントとなる「スイング・ステート」と呼ばれる共和・民主両党で常に揺れている州なのだ。

トランプ大統領は、経済活動再開の遅れの責任を民主党側に押しつけ、イメージダウンを狙いたいのだろう。

さらにトランプ大統領の対応に呼応する動きも出てきている。

経済活動再開を表明する共和党の知事たち

テキサス州やバーモント州では20日から一部で経済活動を再開しているほか、ジョージア州やテネシー州は今月末から、オハイオ州やアイダホ州も5月1日からの段階的な経済活動再開を表明した。これらの州の知事も全員共和党だ。

このように、経済活動再開を巡っても、共和VS民主の構図がはっきりと見て取れる。

トランプ大統領は、記録的な高値となっていた株価や雇用の増加を自らの成果として誇り、アメリカの経済は世界で最強だと豪語してきた。しかし、新型コロナウイルスの影響で株式市場は一気に冷え込み、様々な経済指標も悪化の一途を辿っている。

再選に向けて「強いアメリカ」を繰り返し有権者にアピールしてきたトランプ大統領や共和党にとって、いち早く経済活動を再開し、再び軌道に乗せることは、11月の大統領選で勝利するために欠かせない重要なポイントだ。

しかし、新型コロナウイルスに収束のめどが見えない中、急いで経済活動を再開して、一部の国などで見られるように、再び感染拡大が起これば、経済への打撃はさらに大きく、選挙戦へのダメージも計り知れない。

専門家の意見に耳を傾けないトランプ流の対応は、一種の賭けとも言える。果たして思惑通りに経済へのダメージと感染拡大を同時に抑え込むことができるのか。

それとも失敗して、再び国民に「外出禁止」を強い、「経済停滞」という負の連鎖に陥るのか。まさに、新型コロナウイルスへの対応が再選へのカギを握る状況になってきた。今後の推移をしっかりと見ていきたい。

【執筆:FNNニューヨーク支局長 上野浩之】

上野 浩之
上野 浩之