3億円分の切手詐取

2022年1月、日本郵便は緊急会見を開いた。東京・立川郵便局の元総括課長(50代)が約2億9000万円分の切手を不正入手した可能性があり、懲戒解雇したと発表。

東京支社長は頭を下げ「関係者の皆さまに多大なるご迷惑をおかえし、深くおわび申し上げます」と謝罪した。

謝罪する日本郵便・東京支社長と東京支社経営管理部長
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この元課長の驚くべき手口とは、大口の顧客である印刷会社から不要になった書き損じの年賀はがきから切手への交換を依頼されたとき、はがきの枚数を水増しして社内で切手を請求していたという。余分に手にした切手を近くの換金ショップに持ち込み、そのほとんどを株式投資に使っていた。社内でも「最近やたら羽振りがいい」などと言われていたそうだ。

3月、この元課長は警視庁に詐欺罪で逮捕された。2億9000万円分の切手のうち、容疑の証拠として固められたのは1300万円分だけだった。

送検される元総括課長

「郵便局員が労を惜しんだ」…守られなかったチェック体制

日本郵便によると、この元課長は、少なくとも2016年から2021年の間、この行為を繰り返していたとみられる。さらに、それ以前には交換手数料として受け入れた郵便切手6000万円相当を横領したことも認めている。

ここに、組織の問題点が浮かび上がる。

本来はこの交換業務、持ち込まれたはがきの枚数確認など二人の郵便局員で行うことがマニュアルで定められているが、この元課長は一人で行っていた。一度に数千枚、数万枚単位で持ち込まれるはがきを数えるには膨大な時間がかかるため「郵便局員が労を惜しんだ」と担当者は会見で説明した。業務に精通し、顧客との関係も築いていた元課長にすべて任せっきりになっていて、チェック体制が全く働いていなかったのだ。

あとを絶たない郵便局員の不正

相次ぐ郵便局員による不祥事に、「なぜ…」が止まらない。

実は冒頭の緊急会見。この切手詐取の事案と、もう一つ、東京・京王堀之内駅前郵便局の元社員(30代)が顧客から預かった通帳から約3260万円を不正に引き出すなどした事案と“二本立て”だった。

狙われやすい切手

郵便局員による不正の中でも、切手の横領・換金は多い。料金別納の支払いで使われた切手を横領したり、切手そのものを盗んだりと手口はさまざまだ。

2018年には日本郵便では切手の管理体制を強化。2019年には収納済みの切手を、その郵便局内で処理するのはなく、「回収センター」に送って処分することも定めたが、それでもなお、切手の不正入手は続いている。

・2019年:東京・サンシャイン60内郵便局の元課長代理が500万円分
・2020年:大阪・堺中郵便局の元部長が1億3000万円分
・2021年:東京・芝郵便局の元課長が1億8000万円分
・2021年:東京・神田郵便局の元課長代理が6億7000万円分か
・2021年:奈良・橿原郵便局の元主任が5万円分
(年は日本郵便発表時)

中でも今回の立川郵便局の事案は、「はがきと切手の交換」という業務をはじめて悪用し、さらに大口顧客の印刷会社が近くにあったという地域性もあり「極めて特殊」と関係者は話す。

なぜ切手が狙われるのかー

ひとつは、小さくて軽く、持ち運びがしやすいこと。そして証拠が残りにくいという点があげられる。換金ショップで換金してしまえば何も残らない。よって立証が難しい。驚くことに、2019年の神田郵便局の事案(6億円分の横領とみられている)について、日本郵便は刑事告訴を断念せざるを得なかった。

「たたけば他にも出てくる」

「たたけば他にも、郵便局員の不正は出てくるでしょうね」ある日本郵政幹部は話した。「これだけ全国津々浦々、人数のいる会社ですから」「マニュアルの徹底がなかなか難しい」

また、別の日本郵政幹部は「どうしてもこういう手作業の中での不正行為は分かりづらい」とチェック機能の限界に頭を抱える。「(立川の事案については)もはや、はがきを切手に交換するというユニバーサルサービスを廃止しないと不正はなくならないかもしれない」と嘆く。

2021年12月には全国の郵便局に対し、切手の扱いの徹底を改めて指導。2022年1月以降は、大量のはがきの交換処理については支社の社員や管理者が立ち会うことを定めている。今回の立川郵便局の事案を受け、日本郵便は「さらに見直しを行い、再発防止に努める」とコメントしている。

(郵政担当 井出光)

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井出 光
井出 光

フジテレビ 報道局 経済部(財務省担当)。野村證券から記者を目指し転身。社会部(警視庁)、経済部で内閣府、経済産業省、民間企業担当などを経て現職。

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