このスピーカーとけん玉にはある“共通点”が…

日本には誇るべき伝統工芸品がたくさんある。こちらにある、タブレットやスマートフォンを置くだけで音を増幅させてくれる木製スピーカー、重厚なつくりのけん玉もその一つだ。

この二つの工芸品、一見すると何の関係性もないように見えるが、実はある共通点が。

実はどちらも三味線がモチーフ。打宝音は天板を叩くと楽器にもなる
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実はどちらも三味線の胴や天神(糸を巻く部分)をモチーフとしていて、ベテランの三味線職人が製造を手掛けているのだ。名称はスピーカーが「打宝音」(だほーん)、けん玉が「SHAMIDAMA」(しゃみだま)で、打宝音は打楽器としても楽しめるという。

ユニークな工芸品を取り扱う店舗はあるが、ここまで遊び心があるものも珍しい。
なぜ三味線職人がこのような商品を製作しているのだろうか? 実は、そこには業界の衰退を防ぎたい職人の思いと、その活動を支援する東京都のプロジェクトがあった。

職人×デザイナーで新商品を開発

打宝音とSHAMIDAMAはどちらも、公益財団法人・東京都中小企業振興公社が手掛ける「東京手仕事」というプロジェクトで開発されたもの。新たな工芸商品の開発と生産者の販路開拓の推進などを目的として、2015年度から行われている事業だ。

それでは、なぜここでユニークな工芸品が生まれるのか。秘密は東京手仕事のシステムにある。

東京手仕事ではまず、新商品を開発したい職人とそれに携わりたいデザイナーをウェブサイトで募り、そこに集まった人々がアイデアなどを意見交換できる「マッチング会」を開く。

マッチング会の様子(提供:東京都中小企業振興公社)

ここでマッチングすると「開発チーム」を結成して企画デザイン案に応募できるのだが、商品開発に進めるのは毎年度、コンセプトなどが評価された約20チームと決まっている。そのため、どのチームも審査を通過しようと、創意工夫を凝らしたアイデアを考案するのだ。

審査を通過するのは簡単ではないというが、その一方で大きな見返りもある。企画デザイン案が採択されたチームは、商品開発における専門家のアドバイスを受けつつ、試作品を製作することができ、その費用は東京都中小企業振興公社が補助してくれるという。

開発品の知的財産権についても、東京都中小企業振興公社がデザイナーから買い上げた上で職人に譲渡するため、職人は完成品を自社商品として販売することができることとなる。

さらに、評価の高い「支援商品」として選ばれると、百貨店の展示会などに出展することもできるなど、普及促進に向けた環境も整っているのも特徴だ。新商品開発の流れを職人に知ってもらうことで、新たな販路開拓につなげてほしい狙いがあるという。

東京手仕事の大まかな流れ。※内容は2018年度のもの(提供:東京都中小企業振興公社)

それでは、実際の職人は東京手仕事をどのように活用しているのだろうか。
打宝音やSHAMIDAMAを手掛けた、東京・葛飾区の三味線専門工房「三絃司きくおか」の店主・河野公昭さん(61)に聞くと、業界が厳しい現状を迎えていることが分かった。

三味線を日本の楽器だと知らない人も

――打宝音やSHAMIDAMAは一風変わっているが、なぜこの2商品を開発した?

今の時代は三味線に興味を持つ人が激減していて、その需要はピーク時の20分の1程度にまで低迷しています。若い人だと日本の楽器だと知らない人もいるくらいです。そこで、演奏できなくてもまずは興味を持っていただけるよう、三味線をモチーフにした別の商品を作ろうと考えました

スピーカーやけん玉を選んだのは、三味線の職人であるからには音に関連した物を作りたいと考えていたからで、思い描いていたアイデアをデザイナーと練り合わせて開発しました。
 

河野公昭さん

――どのように製作している?こだわりや苦労したところは?

どちらも天然素材の板材を削り出し、それを組み合わせて製作しています。こだわりは全て手作業なことと音の響きで、打宝音なら増幅される音や天板を叩いたときの音、SHAMIDAMAなら剣先と玉がぶつかるときの音が心地よく聞こえるよう、削り出しなどを微調整しています。

苦労は手間がかかることでしょうか。5個製作するのにも、打宝音だと2週間、SHAMIDAMAだと20日くらいの期間が必要です。そしていつ売れるかは分かりません。そこは後継者問題にも直結していますよね。サラリーマンの方が収入的には安定していますし。


――三味線づくりの技術が生かされている部分はどこ?

打宝音とSHAMIDAMAの形状は三味線がモチーフなので、もともとの製作技術がなければ形にすることが難しいですね。目測や感覚で進める作業がほとんどなので、経験がないと板材をうまく削り出せなかったりします。例えば、SHAMIDAMAの剣先などもそうですね。
 

打宝音の下にあるのが削り出された板材。三味線づくりの技術が加工に生かされている

私たち職人は情報発信やアピールは得意ではありません

――そもそも、なぜ東京手仕事に参加した?

三味線や琴などの楽器を「邦楽」と呼ぶのですが、邦楽業界はここ数十年で低迷が続き、再起が見込めないところまで来ています。この現状を何とか変えたいと考えていました。

そんな折、東京都が職人とデザイナーで新しいものを作る試みを始めると聞き、三味線が広まるきっかけになればと飛びついたんです。プロジェクトで最初に開発したミニサイズの三味線「shamisen.」の評判もよかったので、業界の衰退を防ぐことにもつながると思いました。


――実際に参加してみた感想はどう?

デザイナーと出会えるシステムは革新的だと思います。職人は物は作れますが、デザインを考え出すことはできません。ですが、彼らはアイデアやイメージを形にしてくれるんです。

私は東京手仕事を通じて3人のデザイナーと知り合いましたが、彼らとはその後も別の商品開発で協力するなど、“持ちつ持たれつ”の関係を築けています。専門家の意見を聞いたり、相談しながら商品開発できる環境を得られたことには、本当に感謝していますね。


――自身が感じる変化などはある?

人々に興味を持ってもらえるきっかけになったと思います。例えば、shamisen.の派生品としてより安価な「小じゃみチントン」も取り扱っているのですが、小さなお子さんが試しに弾いてみて気に入り、通常サイズの三味線を欲しがることもありました。

正直に話すと、私たち職人は情報発信やアピールは得意ではありません。商品を見て、買っていただけるかだけ。その商品を知っていただくきっかけになっていると思います。

小じゃみチントンの大きさは通常の三味線の3分の1程度。ウクレレに影響を受けたという

新型コロナで邦楽業界は「本当に踏ん張りどころ」

――邦楽業界の現状はどう?職人は減っているの?

激減してますね。私は「東京邦楽器商工業協同組合」という職人集団に所属していて、ここも1970年代は180店舗以上が加盟していましたが、2020年は約45店舗にまで減りました。お客も売り上げも落ちているので、こんな仕事を継がせても...と廃業してしまうのです。

ですが、廃業が多かった故にここ1~2年でやっと需要と供給のバランスが取れて、生き残った店舗では後継者を育てるところも出てきました。ただ、その矢先にコロナ(新型コロナウイルス)が起きて、もうどうしようと。業界は本当に踏ん張りどころだと思います。


――業界を存続させるため、これからの職人には何が求められている?

興味を持ち、知っていただくための努力をすることでしょうか。既存商品ばかりに需要を期待するのではなく、新商品開発や情報発信にも積極的に取り組まなければならないでしょう。このままだと近い将来、「三味線という楽器があったね」という状況になりかねないんです。

そこを考えると、既存商品の新しい魅力を探れる東京手仕事のような企画は、職人にとって非常にありがたい試みだと思います。コロナで厳しい状況が続きますが、私個人としても、自宅で演奏を楽しめるという三味線の魅力を情報発信していければと思います。

 

ユニークな作品の背景には、業界が苦境を迎えつつあるからこそ、三味線の魅力を知ってもらいたいという思いが隠れていた。日本の伝統技術を絶やさないために、これからの職人には、東京手仕事のようなプロジェクトを活用しつつ、新たなジャンルの開拓に挑戦することが求められるのかもしれない。
 

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