金正恩氏が重体?心血管疾患で手術?情報錯綜

アメリカのCNNが、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長がアメリカ政府関係者の話として、何らかの手術を受けた後に「重大な危険に陥っている」と報じ、波紋が広がっている。
 

金委員長は4月10日に迫撃砲兵区分隊の視察が報じられ(視察日不明)、4月11日には朝鮮労働党の政治局会議を主宰したことがわかっている。

また、12日には西部地区の航空師団管下の追撃・襲撃機連隊を視察(視察日不明)したと報じられたが、それ以降は現在まで公式の場に姿を現していない。

12日の最高人民会議にも参加しなかったが、代議員ではないことや、事前に重要会議を主催していたため、参加しなくても不自然とは見られていなかった。

14日には北朝鮮が巡航ミサイルを数発発射したと韓国軍が発表。しかし、北朝鮮メディアは巡航ミサイル発射については一切伝えず、金委員長がこの模様を視察したかどうかもわかっていなかった。

異変はさらに続いた。

4月15日の故金日成主席の誕生日。北朝鮮では太陽節と呼ばれ、「民族最大の祝日」とされている。例年、金委員長は幹部らを率いて、祖父・金日成主席と父・金正日総書記の遺体が安置されている錦繍山太陽宮殿に参拝するのが恒例となっていた。しかし、今回は崔竜海最高人民会議常任委員長始め、政治局員、政治局候補委員ら幹部が参列した模様が伝えられたのみだった。金委員長が最高指導者の地位に就いてから太陽節を迎えるのは9回目となるが、参加しなかったのは、今回が初めてだ。

今年の錦繍山太陽宮殿参拝の様子 金正恩委員長と妹の金与正氏だけがいない
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金委員長はこれまでも、祖父・金日成主席の政治スタイルをまね、人民を愛するリーダーというイメージを作ることで政権基盤を強化してきた。祖父、父への忠誠と北朝鮮の最高指導者としての正統性を示す「白頭山」血統であることを示す意味でも、この行事に参加しないことは余程の事情があると言わざるを得ない。

北朝鮮の高位幹部だった脱北者は金委員長に「何らかのアクシデントがあったことは100%間違いない」と断言する。北朝鮮内部の見方からすれば、太陽節に金委員長が錦繍山宮殿に参拝しないことは「絶対にあり得ない」ことだという。また、北朝鮮の幹部が勢揃いしているにもかかわらず、金委員長と妹の金与正氏だけがいない点にも注目。与正氏が身内として金委員長の病床に付き添っているのではないかとの見方を示した。

足の手術か、心臓血管手術か

北朝鮮はこれまで公式に新型コロナウイルスの感染者はいないと発表してきた。金委員長も軍視察や党の会議などの場でマスクを着用した姿を見せていない。北朝鮮では最高指導者の健康管理には極度に神経を使い、金委員長に近づく人物には徹底した消毒を施すとされる。

マスク着用の姿をみせたことがない金委員長

このため、金委員長が新型コロナウイルスに感染した可能性は低いと見られている。金委員長が過去に錦繍山太陽宮殿に参拝をしなかったのは、2014年10月10日の党創建記念日の一度だけだという。

韓国の情報当局は、当時金委員長のくるぶし部分に水疱が生じ、このために腫れ、痛みがひどく、海外の専門家を招いて、9月初めから10月初めの間に膿疱を除去する手術を受けたと明らかにした。金委員長は、術後に杖をついて登場し、北朝鮮メディアは体調不良の中でも北朝鮮住民を気遣う指導者と報じていた。この膿疱は再発の可能性があると言われ、韓国の専門家は今回も同様の手術を受けたのではないかと指摘していた。

一方、北朝鮮情報を扱うデイリーNKは20日、金正恩が心臓血管手術を受け、別荘で療養していると報じた。デイリーNKは北朝鮮内部の消息筋による情報として、金正恩氏が12日、平安北道の妙香山地区にある金氏一家の専用病院・香山診療所で心臓疾患の手術を受け、その後は近くの香山特閣に滞在中だと伝えた。

正恩氏が手術を受けたと見られる12日、平壌市内ではヘリコプターが離陸する様子や、1号車両(金正恩氏の専用車)の移動が目撃されたという。術後の経過は良好で、医療陣は一部を残して平壌に復帰し、別荘の周囲には金委員長の親衛隊と護衛局の要員が厳戒態勢で警戒中だとしている。また、この消息筋は「元帥様(金委員長)は昨年8月から(心臓疾患に)苦しんでいたが、最近、頻繁に白頭山に登ったせいでさらにひどくなった」と指摘した。

白頭山は朝鮮半島の最高峰で、金日成主席が抗日運動をした北朝鮮にとっての聖地だ。金委員長は、米朝協議が決裂して以降、度々白頭山に登り、自力更生による結束を訴えていた。

北朝鮮の聖地「白頭山」で笑顔で記念撮影する金正恩委員長と文在寅大統領(2018年)

妹の金与正氏が権力継承か

一方、韓国政府はこうした情報に慎重な見方を示している。韓国大統領府は報道官名義で「確認できる内容がない、北朝鮮内部に特異な動向もない」との公式声明を発表した。

こうした中、韓国国会の外交統一委員会ユン・サンヒョン委員長が、「平壌が完全封鎖されている」「北朝鮮に精通した人の話では、確かに心臓血管手術を受けたようで、何らかの異常な兆候がある」と明らかにした。

情報が錯綜する状況が続いている。

金委員長の健康状態については、肥満による糖尿病や高血圧などの疾患を抱えているとの指摘がなされてきた。健康不安に加えて、長期にわたる国連の制裁や、新型コロナウイルスによる経済状況のさらなる悪化などストレスも重なり、急激に健康状態が悪化する事態に陥ってもおかしくはない状況だったといえる。

もし、金委員長に不測の事態があった場合、北朝鮮はどうなるのか。

一義的には妹の金与正氏が金正恩委員長の代行として、権力を掌握する可能性があると見られる。与正氏は最近、南北関係や米朝関係で自らの名前で談話を発表し、金委員長の「代弁者」としての役割を果たすようになった。また、先の政治局会議で再び政治局員候補に指名されており、権力基盤を固めている。一部報道では、北朝鮮内部で金正恩委員長に健康不安があった場合、金与正氏が権力を継承するという秘密決定がなされたとも報じられていた。

一義的には金正恩委員長の代行は金与正氏か?

金正恩氏の身辺に何が起きているのか。

北朝鮮の閉鎖性から、確たる情報をつかむのは非常に難しい。北朝鮮メディアが金正恩氏の動静を次にいつ伝えるのか、もしくは重大放送などの何らかの公式発表があるのか。にわかに緊迫の度が高まっている。

【執筆:フジテレビ 国際取材部長兼解説委員 鴨下ひろみ】