世界が新型コロナウイルスとの戦いに全力を尽くす中、中国は着々と影響力を拡大しようとし、アメリカとの対立も激化している。
南シナ海で新たな行政区設置・ベトナム漁船沈没~中国に強まる警戒感
「中国国務院はこのほど西沙区と南沙区の設置を承認した」
これは中国政府が18日に発表したもので、南シナ海の西沙諸島(英語名:パラセル諸島)と南沙諸島(英語名:スプラトリー諸島)にそれぞれ新たな行政区を設置したとしている。
領有権を巡り各国と争いが続く南シナ海の島々について、中国政府はこれまで海南省三亜市が管轄すると主張し、海域一帯で人工島を作って軍事拠点化している。今回の“決定”は、国際社会の批判にも関わらず実効支配を更に強化する狙いがあるとみられる。
この記事の画像(8枚)中国共産党系の環球時報(英語版)は、国家戦略分野の専門家の談話として「2地区の設立は、アメリカの軍艦や航空機が頻繁に侵入し、中国の主権に挑戦し、中国の海洋の安全保障を危険にさらしている南シナ海における中国の支配権を再確認することを目的としている」と伝えた。これに対し南シナ海で領有権を中国と争うベトナムは猛反発。外務省報道官が「主権を侵害する行為に強く抗議する。中国は誤った決定を撤廃し、同様の行為を繰り返さないように求める」と強く批判した
この海域では4月、パラセル諸島周辺で中国海警局の船舶と衝突したベトナムの漁船が沈没し、当事国のベトナムだけでなく、同じ海域で中国と領有権を争うフィリピンも反発したほか、アメリカ政府は深刻な懸念を表明した。アメリカ国務省報道官は「中国はパンデミック後も軍事基地に研究機関を設置するなどしている。南シナ海での不法な主張の拡大のために、他国が注意を払えない弱みにつけ込むことをやめるよう求める」との声明を出し、痛烈に批判した。この声明に対し中国国防部は「中国は主権の範囲内で公務を遂行している。情勢を悪化させないため、アメリカは中国への言いがかりや南シナ海への干渉をやめるべき」と反論した。各国が感染対策に追われる中、隙をつくような形で自国の権益を拡大し主張する中国の動きに各国の批判と警戒が強まる。
「中国はパンデミックを隠れ蓑にしている」香港民主派逮捕にアメリカが反発
香港でも大きな動きがあった。香港当局は18日、民主派の有力者ら15人を、去年8月から10月に反政府抗議デモを呼びかけて参加した疑いなどで一斉に逮捕した。逮捕者には親民主派のメディア「リンゴ日報」の創業者・黎智英氏や香港民主派の父とも呼ばれる元民主党主席の李柱銘氏ら重鎮のほか、中国本土の人権問題にも取り組む民主派団体のリーダーなど著名な活動家が軒並み逮捕された。李氏は釈放後「デモ参加に後悔はない。素晴らしい若者たちが起訴された後、自分もその一人になったことは誇りだ。ともに民主を求めてゆく」と話した。
香港も感染者が1000人を超え、公共の場で4人を超える集まりを禁止するなど厳しい感染防止対策が続いており、去年毎週のように行われた大規模な抗議デモは行えない状況だ。しかし、6月9日に100万人以上が参加した大規模抗議デモから1年の節目を迎えるほか、9月には立法会(議会)の議員選挙が予定されており、感染が収束すればこうしたタイミングで再びデモが行われる可能性はある。香港メディアは「逮捕は9月の選挙で民主派への立候補や投票をしないようするための政治的動機によるものだ」とする民主派の声を伝え、デモ再開やその先を見据えた当局による牽制と指摘している。香港の警察は「逮捕する理由がある者は合法的に逮捕する」と強調しているが民主派団体は「中国政府が本土で毎日多くの人を逮捕するのを真似しているだけだ」と批判している。国際社会が新型コロナウイルスの対策に追われる中での香港当局による民主派への圧力強化の背景には、中国政府の判断があるとみられる。
こうした動きについて、アメリカのポンペオ国務長官は強い懸念を示し「中国政府は、透明性、法の支配、香港の高度な自治の継続を保証した中英共同宣言と一致しない行動をとり続けている」と批判。また、共和党上院のマコネル院内総務はツイッターで「中国共産党は隠蔽と不作為で感染を拡大させ、パンデミックを平和的な民主主義指導者逮捕の隠れ蓑に使うべきではない。恥を顧みないこの逮捕は、中国が香港市民の自由と自治を締め付けようとするもうひとつの例だ」と厳しく批判した。
これに対し中国外務省の報道官は「欧米の政治家がとやかく言って不当に非難して逮捕の撤回を求めるのは香港の法の支配と司法の独立への重大な干渉であり断固反対する。反中暴徒を後押しして騒ぎ立て、中国の内政に干渉することはやめるよう求める」と強く反発した。
日本も例外ではない~感染対策での協力の裏で相次ぐ中国船の領海侵入
日本も例外ではない。感染拡大後、日中間ではマスクなど医療物資を送りあい官民問わず友好協力関係が続いている。しかし一方で、沖縄県の尖閣諸島周辺では、中国公船の領海侵入が今年は4月までに7回起きているほか、4月11日には中国軍の空母が沖縄本島と宮古島の間を通過。中国軍機に対する自衛隊機の緊急発進も相次ぐ。感染対策に追われる中での活発な軍事活動に河野防衛相は「極めてけしからんと思っている」と不快感を表明した。
習近平政権は、感染拡大をある程度抑え込んだとして国内で経済活動の再開を進めている。また、国外に向けては習近平国家主席が掲げる“人類運命共同体”を強調し、医療物資や医療チームの支援を世界各国に送る「マスク外交」を展開。国際貢献を強くアピールし、したたかにそして着々と影響力を拡大しょうとしている。その一方で新型コロナウイルスとの戦いが続く国際社会を尻目に南シナ海では実効支配を強化し、香港では民主派摘発を進めている。国益の追求として「それはそれ、これはこれ」なのかもしれないが、ウイルスに打ち勝ったとする自信と高揚感から、国際社会での存在感を更に高めようとの狙いも透けて見える。
【執筆:FNN上海支局 城戸隆宏】