肺の「白い影」、見た目は新型コロナ肺炎とほぼ同一だが…

最近、中国河南省鄭州の病院に女性2人がめまいや脱力感などを訴え入院した。新型コロナウイルスへの警戒が続く中、病院はCTスキャンによる検査を行ったところ、患者の肺からすりガラス状の白い影が見つかった。それはまさに新型コロナ肺炎の特徴と一致するものだった。2人は発熱や、せき、呼吸困難などの症状がなかったため、診察を受けたのは発熱外来ではなく、一般の外来。医師らは驚き、病院内に緊張が走った。

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女性2人のCTスキャン映像
女性2人のCTスキャン映像

しかし、患者は武漢に行ったこともなく、近所に感染確認患者もいないという。CT写真の白い影は新型コロナ肺炎のそれとよく似ているものの、過去の接触歴、症状、血液検査いずれも新型コロナ肺炎のものとは合致せず、医師らを悩ませた。

原因はまさかの「過剰コロナ対策」

医師がさらに詳しく事情を聞いたところ、実は患者は新型コロナウイルスを恐れ、毎日「84消毒液」という消毒剤を使って家じゅうを消毒していたことが判明した。「84消毒液」とは次亜塩素酸ナトリウムを主要成分とする、中国ではスーパーなどで売られている一般的な商品だ。日本でも、ウイルス対策として、厚生労働省や自治体などのHPに、ハイターやブリーチなど塩素系漂白剤を水で希釈して次亜塩素酸ナトリウム消毒液を作る方法が紹介されている。中国当局は「84消毒液」について「説明書では100倍に希釈するよう求めている。つまり、消毒液1に対し、水99の割合だ。原液のまま直接使ってはならない」と注意を呼びかけている。

         84消毒液
         84消毒液

医師が患者に希釈の割合を聞いたところ、よく知らず、少し水を入れて高濃度のまま使用を続けていたことがわかった。「消毒の後、窓を開けて換気することも知らなかった」と医師はあきれ顔で話した。このため医師らは、2人の女性に対し、新型コロナウイルスではなく、長時間にわたり高濃度の「84消毒液」を吸い込んだことによる“アレルギー性肺胞炎”との診断を下した。

女性は高濃度のまま使用を続けていたという
女性は高濃度のまま使用を続けていたという

アレルギー性肺胞炎とは

アレルギー性肺胞炎とは日本呼吸器学会の解説によると以下のようなものである。

肺にある小さな空気の袋(肺胞)や最も細い気道(細気管支)の内部や周囲に発生する炎症で、細菌やウィルスなどの病原体が原因でなく、有機物の粉塵や化学物質(これらを抗原と呼びます)を繰り返し吸い込んだことによるアレルギー反応が原因となります。
息切れ、せき、発熱といった症状が見られ、抗原を避けることにより、改善しますが、長期間抗原に曝露されていると炎症が慢性化し、肺がどんどん固くなります。
                      <日本呼吸器学会HPより>

つまり、高濃度の化学物質を繰り返し吸い込んでいるとアレルギー反応によって肺胞に炎症が起きるのである。その後、医師らが患者に家の消毒液をアルコールに変えさせ、アレルギーの治療を行ったところ、すぐに“治療効果”が出たという。2~3日後、改めて検査したところ、肺の影は基本的に消えていた。

治療に当たった医師は「もし新型コロナ肺炎の治療基準に従って治療していたら、さらに病状が悪化していた可能性がある。」と振り返る。さらに別の医師は「家の中に患者がおらず、通常の家庭の環境であれば、過剰な消毒は不要で、ドアノブなどを消毒し、よく手洗いをすればよい」と呼びかけた。

日本でも感染予防のため、次亜塩素酸ナトリウム消毒液を使った消毒が一般的に行われている。しかし消毒液は「濃いほど良い」というものではなく、正しい使い方を心がけることが大事だ。

【執筆:FNN北京支局長 高橋宏朋】

高橋宏朋
高橋宏朋

フジテレビ政治部デスク。大学卒業後、山一証券に入社。米国債ディーラーになるも入社1年目で経営破綻。フジテレビ入社後は、社会部記者、政治部記者、ニュースJAPANプログラムディレクター、FNN北京支局長などを経て現職。