感染拡大続くインド

人口13億人を超えるインド。保健省の発表では、全土封鎖を始めた3月25日時点で、感染者は600人あまりだったが、1ヵ月近く経った4月20日現在、感染者は1万7265人と30倍近くに膨れ上がり、死者も543人にのぼっている。全土封鎖によって、工場の稼働は停止。食料品店や薬局などをのぞき、ほとんどの店が閉鎖されている。外出は食料品や薬品などの買い出しに限って許され、散歩なども厳しく制限されている。警察が罰として違反者を棒でたたいたり、スクワットをさせたりする光景も見られた。このような厳しい全土封鎖措置の中で、なぜ感染が広がったのだろうか。

出稼ぎ労働者などへの食料の提供
出稼ぎ労働者などへの食料の提供
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宗教行事で感染拡大

地元メディアなどによると、3月中旬、数日間にわたり、大都市ニューデリーのニサマディン地区で、イスラム教の集会が開かれ、国内外からおよそ9000人の信者が集まった。この集会で、集団感染が発生したのだ。インドの感染者1万7265人のうち、4000人以上がこの集団感染に関係があるとみられている。全土封鎖の前に開かれた集会だが、感染拡大の大きな要因の1つとなった。集会を開いたのは、イスラム教の団体「ジャマアト・タブリーグ」。この団体はマレーシアでも、2月27日から3日間集会を開き、集団感染を引き起こしている。

失業者が地方に移動

ムンバイの駅前に集まった出稼ぎ労働者  ツイッターより
ムンバイの駅前に集まった出稼ぎ労働者  ツイッターより

全土封鎖によって、経済活動が停滞した結果、多くの人が仕事を失うことになった。失業した地方からの大勢の出稼ぎ労働者が、故郷に帰ろうとしてバスターミナルや駅に殺到した。しかし、移動制限でバスや列車は運行しておらず、故郷までの数百キロの道のりを歩く労働者もいたという。運行再開を求める労働者が警察と衝突するなど混乱も生じ、モディ首相が謝罪する事態となった。運行された臨時のバスの車内は、大勢の人が密集したいわゆる「3密」の状況となっていて、こうした出稼ぎ労働者の帰省が感染拡大に拍車をかけた可能性もある。

スラム街での感染拡大

国内で最も感染者が多いインドの最大都市ムンバイ。ムンバイには、およそ100万人が暮らすアジア最大とも言われるスラム街「ダラビ」がある。このスラム街でも感染が広がりつつある。地元メディアによると、4月19日現在で、スラム街での感染者は138人にのぼっている。地元当局は、感染者の隔離を進め、検査体制を強化しているが、小さな部屋に大勢の人が暮らすスラムで、ソーシャルディスタンシング(社会的な距離)を確保することは困難だ。ましてや、きれいな水が確保できないほど衛生状態は極めて悪く、さらなる感染拡大が懸念されている。

農業などの一部の経済活動再開も

インド・モディ首相
インド・モディ首相

インド政府は全土封鎖を5月3日まで延長した一方、4月20日から感染拡大が抑制されている地域で、農業や酪農、漁業などを再開することを認めた。モディ首相にとって、全土封鎖にともなう貧困層の生活苦を緩和させたいという苦渋の決断だったと言える。州ごとによって制限は異なるが、地元メディアによると、南部・ケララ州の一部地域では、理髪店やレストランが営業を再開している。しかし、こうした経済活動の再開が感染拡大を招くおそれもあり、十分な警戒が求められる。

全土封鎖の効果と緩和への不安

インドは3月3日に日本人のビザを無効にするなどいち早く入国制限措置を行い、さらに感染者が600人あまりという3月25日の段階で、全土封鎖に踏み切った。インドの医療体制が不十分という背景もあって迅速に決断したとみられるが、全土封鎖を躊躇していれば、感染者はもっと増えていたはずだ。一方で、貧困層への対策が遅れ、スラム街で感染が広がる中で決まった一部の経済活動再開が、感染拡大が続くインド全体の状況にどのような影響が出るのか注目される。

【執筆:FNNバンコク支局 武田絢哉】