発令2週間 ピークアウトは可能か

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う7都府県への緊急事態宣言が4月7日に発令されてから21日で2週間を迎えた。潜伏期間などを踏まえると、今後いよいよ緊急事態宣言下での政府・自治体の対策や、国民一人一人の行動の変化が、感染抑止という結果に結びついたかどうかが数字となって表れてくることになる。

7都府県に緊急事態宣言を発令の安倍首相・7日
7都府県に緊急事態宣言を発令の安倍首相・7日
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安倍首相は7日の会見で、「2週間後」について次のように語っていた。

「東京都では感染者の累計が1000人を超えました。足元では5日で2倍になるペースで感染者が増加を続けており、このペースで感染拡大が続けば、2週間後には1万人、1ヶ月後には8万人を超えることとなります。しかし、専門家の試算では私たち全員が努力を重ね、人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます。そうすれば、爆発的な感染者の増加を回避できるだけでなく、クラスター対策による封じ込めの可能性も出てくると考えます。その効果を見極める期間も含め、ゴールデンウィークが終わる5月6日までの1カ月に限定して、7割から8割削減を目指し外出自粛をお願い致します」

この会見が行われた7日時点の感染確認者の累計は全国で4431人、東京都内では1195人だったが、19日時点では全国で1万779人、東京では3082人となった。全国でも都内でも2週間で感染確認者数は2倍を大きく超えた一方、安倍首相が例示した「2週間後に東京で1万人」とうような感染爆発には至っていない。(感染確認者数はFNNまとめ)

そしてこの間、安倍首相は「人と人との接触の最低7割、極力8割削減」に加え、11日に「接客を伴う飲食店の利用自粛要請の全国拡大」と「7都府県の全事業者に対する出勤者の最低7割減要請」、さらに16日に「緊急事態宣言の発令地域の全国拡大」を行ってきた。これらの取り組みが、「感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせる」という狙い通りの効果となって出てくるかが注目される。

長期戦覚悟のシナリオ検討!?

一方で、期待通り感染者数が減少に転じたとしても、直ちに感染の終息につながるかというと、それは容易ではなさそうだ。安倍首相は全国に緊急事態宣言を発令した翌17日の会見で、次のように“長期戦”に言及している。

「感染症の影響が長引き、すべての国民の皆様が厳しい状況に置かれています。長期戦も予想される中で、ウイルスとの闘いを乗り切るためには、なによりも国民の皆様との一体感が大切です」

安倍首相・17日
安倍首相・17日

いわゆる“3密“を避けることや外出自粛と言ったさらなる行動変容の要請とともに長期戦に言及した安倍首相だが、政府関係者によると政府内では今、流行の第二波、第三波を見据えた対応を連日協議しているという。その参考の一つとして挙げられているのが100年前、国内でも多くの感染者を出した「スペイン風邪」だ。

それを象徴するように安倍首相は17日の会見で「スペイン風邪」について、次のように言及している。

「例えば過去にですね、スペイン風邪の大流行があった。あの時もですね、いったん収まった後ですね、再び感染が拡大して大きな被害が出た。こういう教訓にも学ばなければならないと思いますが、今回の新型コロナウイルスについてはですね、まさに未知のウイルスであり、十分に確信を持って予見することは、これはできないということは申し上げなければならないと思います」

(当時の予防啓発ポスター平凡社:『流行性感冒――「スペイン風邪」大流行の記録』より)
(当時の予防啓発ポスター平凡社:『流行性感冒――「スペイン風邪」大流行の記録』より)

いつまで自粛!?“長期戦“に言及の総理 政府「緊急事態宣言」延長も検討か

では、この安倍首相が言及したスペイン風邪の流行とはどういうものだったのか。1922年(大正11年)に内務省衛生局が刊行した書籍「流行性感冒」によると、スペイン風邪の国内での流行は3年間で3回あったという。

第1回の流行期間(1918年8月―1919年7月)では感染者は2116万8398人で、死者は25万7363人。致死率は1.22%。

第2回の流行期間(1919年10月―1920年7月)では感染者が241万2097人、死者は12万7666人で致死率は5.29%。

第3回の流行期間(1920年8月―1921年7月)では感染者が22万4178人、死者は3698人で致死率は1.65%だった。

3回にわたる流行で特筆すべきは致死率だ。この数字を見た政府関係者が「スペイン風邪は第二波、第三波の致死率が高い。新型コロナウイルスでも第二波、第三波は必ず来る」と語るように、1回目の流行よりも2回目の流行時の方が、致死率が4倍以上に上っている。2回目の流行での致死率の高さについて、「流行性感冒」では次のように分析されている。

「本流行は前回に於ける病毒の残存せるものが、気候の変化により呼吸器を侵さるる者多きに及びて再び擡頭(台頭)せるものの如く其感染者の多数は前流行に罹患を免れたるものにして病性比較的重症なりき、前回に罹患し尚ほ今回再感したる者なきにあらざるも此等は大体に軽症なりしが如し」

つまり2回目の流行では、1回目の流行で罹患を免れた人が感染することが多く、その場合は重症化する人が多数であり、また一度感染した人が再感染する例もあったがこのケースでは概ね軽症だと分析されている。

(当時の予防啓発ポスター平凡社:『流行性感冒――「スペイン風邪」大流行の記録』より)
(当時の予防啓発ポスター平凡社:『流行性感冒――「スペイン風邪」大流行の記録』より)

医療も予防も発達していない時代とはいえ、3年で3度の大流行となったスペイン風邪のように致死率の高い2回目以降の流行を警戒するなら、新型コロナウイルスとの闘いも長期戦となることは免れない。

その場合には、緊急事態宣言の期間も長期化するか、それとも一定の効果が出たらいったん緩めてさらなる長期戦に備えるのかという選択を迫られることになる。そして、今回長期戦になった場合には、1年延期された東京オリンピック・パラリンピックの開催も迫ってくることになる。

7都府県への緊急事態宣言から2週間、そして宣言の期限となる5月6日までも2週間。外出自粛や営業自粛要請で自由を奪われた国民・事業者のフラストレーションも高まり続ける中、宣言の延長をどうするか、治療薬やワクチン開発はどこまで進むのか。国民一人一人の行動に加え、100年前の教訓も含めた、あらゆる知見を生かした分析と対策が私たちの未来を左右する。

(フジテレビ政治部 千田淳一)

千田淳一
千田淳一

FNNワシントン支局長。
1974年岩手県生まれ。福島テレビ・報道番組キャスター、県政キャップ、編集長を務めた。東日本大震災の発災後には、福島第一原発事故の現地取材・報道を指揮する。
フジテレビ入社後には熊本地震を現地取材したほか、報道局政治部への配属以降は、菅官房長官担当を始め、首相官邸、自民党担当、野党キャップなどを担当する。
記者歴は25年。2022年からワシントン支局長。現在は2024年米国大統領選挙に向けた取材や、中国の影響力が強まる国際社会情勢の分析や、安全保障政策などをフィールドワークにしている。