「アメリカ当局筋は今回の新型コロナウイルスの感染爆発は武漢の研究所から始まったと信じている」“Sources believe coronavirus outbreak originated in Wuhan lab”

アメリカのネットワーク、フォックス・ニュースの15日のウェブ報道の見出しである。日本でも数多くのメディアが転電したので、この報道内容をご存知の方も多いと思う。

実際には、同様の憶測はかなり早い段階から中国のネットでも取りざたされていたし、日本にもそれは伝わっていた。だが、今回、トランプ政権寄りで知られるフォックス・ニュースだけでなく、反トランプで鳴るワシントン・ポスト等でも似たような見方がほぼ一斉に報じられた。

これは、アメリカ政府が相当程度の関連情報をまとめ上げ、リークしたからではないか…筆者はそう考え、ダメ元で、旧知のアメリカ政府関係者に尋ねてみた。この筆者の問い合わせに対する回答を以下、紹介したい。

新型コロナウイルスについてアメリカ政府関係者の見解

「このウイルスの存在に我々はかなり前から気付き、その起源やその後の動きを注視していた」

中国がWHOに原因不明の肺炎患者の発生を報告したとされるのが去年の12月31日、今では英雄と称される武漢の医師がSNS上で“告発”をしたのがその少し前なのだが、アメリカ当局はそれよりも数週間前から問題を把握し、モニターをしていたらしい。

12月末に警鐘を鳴らしていた中国人医師(ウェイボより)

「そして、何よりも先に断言しておくが、このウイルスは間違いなく動物由来である。研究室で人為的に作製されたものではない」

アメリカ・メディアも遺伝子工学の技術を使って作られた形跡は無いという専門家の見立てを報じているが、この関係者は「コロナウイルスやインフルエンザウイルスのようなRNAウイルスを使って生物兵器を作ろうとする国家は地球上に存在しない。これらのウイルスは変異があまりに早くコントロール不可能だからだ」と付け加えている。

しかし、「人為的ではないと言った。が、最初、研究室で発見され分離されたウイルスである可能性は極めて高い」と言う。

武漢にウイルス・細菌取り扱い施設は2カ所

武漢にはウイルスや細菌を取り扱うBSL(バイオセーフティーレベル)施設が二つあるという。一つは武漢ウイルス研究所。ここは最高レベルのBSL4の施設で、エボラやSARS・MERSなどの極めて危険なウイルスを扱うことができる。

武漢ウイルス研究所

もう一つがCCDC・中国疾病予防センターの施設で、こちらにはBSL2の研究室がある。そして、このBSL2の研究室でコロナウイルス類の研究が継続していて、最近では雲南省で見つかったコウモリの保有するコロナウイルスの探索と分離作業が行われていたらしい。武漢の海鮮市場から数ブロックしか離れていないのはこちらのCCDC・中国疾病予防センターの施設だという。

そして、「この研究所の技術者がウイルスに感染して第1号患者となり、たぶん無症状だったため、全く自覚なしに、外に持ち出す結果になったと強く疑われる」という。

BSL2の研究所は今回の新型コロナのような伝染力の強い危険なウイルスを取り扱うには不適格で、研究員や技術者を適切に保護することはできないというのだが、そうとは知らずに、或いは、そこまで考えが及ばずに、新型ウイルスを拡めてしまったということになる。

研究の目的は、SARSやMERSに続く危険なウイルスの被害を防ぐ為に、という正当なものだったようだが、皮肉なことに、その防止の為の研究がこの極めて厄介なウイルスを“発掘“してしまったということになる。
(ちなみに、日本の国立感染症研究所は、新型コロナウイルスについてはより厳密な基準のBSL3の施設で取り扱うことを推奨しているという。)

新型コロナウイルス

一方、やはり旧知のアメリカの国務省元当局者は「一連の報道に確たる証拠は無い。インテリジェンスの世界の話を鵜呑みにしてはいけない。イラクの大量破壊兵器問題を思い起こしてみるべきだ。あれと同じ構図が透けて見えるではないか」と言う。こちらの可能性も確かに否定できない。

「中国政府がこの事実を認め、封じ込めに失敗した経緯等を世界に向けて公表する可能性はゼロ」と先にご登場頂いた関係者も断じる。他方、法廷に提出できるような証拠もない。となると、最初の関係者も言うように「真相は未来永劫闇の中に留まる」ことになる。当事者の一人が名乗り出て来て証拠を示すといった行動に出ない限り。

同じような大惨事を起こさないために

だが、真相は不明でも、同じような大惨事を起こさないよう対策を講じることなら多少はできる。例えば、BSL施設の運用をより厳格化して、危険性の高いコロナウイルスの研究は公的資格を持った研究者以外の関与を禁止する、感染の有無の検査や規則を順守しているかどうかチェックする第三者による抜き打ち査察を頻繁に行う、他の危険なウイルスやヒトに対する病原性が不明のウイルスの研究も同様にする、などである。

そこまで気にする必要は無いと断言できる人はもはや居ないはずである。いつか必ず出現するであろう次のウイルスは感染力や致死率がもっと高いかもしれないからである。

また、中国が対応ミスをどのように重ねていったのか、もしくは、隠ぺいしようとしたのか、詳細な検証結果を我々が直接知ることは不可能でも、中国政府自身はこれを検証し、その反省を今後の対策、例えば次のパンデミックやエピデミックに備えたタイムラインなどに反映させるはずである。同じ過ちを繰り返さないためにもそうしなければおかしい。そして、彼らが作成するであろうその新たな対応策案なら他国の参考になる。ただし、当然ながら、隠ぺい工作は反面教師として。

WHOのテドロス事務局長(左)と習近平国家主席(ウェイボより)

関連して、旧知のイギリス外務省の中国専門家は「武漢の研究所起源説の真偽は分からないが、危機を脱したら、あらゆる面からこのパンデミックと各国の対応の検証が必要になる。それには中国の参加が不可欠で、今、対中関係を波立たせるようなレトリックは望ましくない」と述べている。これもその通りと思う。

不幸なことに犠牲者はさらに増え続けるだろう。だが、人類はいずれこの危機を克服する。そして、パンデミック後の世界の姿がどうなるか?それは神のみぞ知るかもしれないが、一つだけ言えるとすれば、パンデミック以前の元通りの世界に簡単に戻ることはないだろうというのは誰でも容易に想像できると思う。

その時、この新型コロナウイルス出現の根本原因が闇に葬り去られていたとしても、この大惨事が中国発だという紛れもない事実を我々は忘れてはいけないし、中国の巨大マーケットや彼らのマネーに惑わされて、発源地は中国という事実を風化させるような愚はあってはならないと思う。

そうでなければ、現時点で既に十万単位に達するこれまでの犠牲者とこの先の犠牲者に我々は顔向けができなくなる、と筆者は思うのである。そして、将来の犠牲者に自分自身や家族がなる可能性があるという恐るべき現実に戦慄を覚えるのである。

(フジテレビ報道局解説委員 二関吉郎)