「中国が志村を殺した」のか?

志村けんさんの死に衝撃が走った

大きな衝撃とともに私たちに新型コロナウイルスの恐ろしさをより身近に感じさせた、志村けんさんの死。日本のバラエティー番組になじみのある人が多い香港や台湾でも悲しみの声は広がり、台湾の蔡英文総統はツイッターで哀悼の意を表明した。一方、中国本土での志村さんの知名度はさほど高くないのだが、日本の外交関係者は、中国の外交当局がこのニュースにひときわ強い関心を示したと明かす。

「中国に志村を殺された、という空気になるのを恐れたのではないか」。
‟震源地”武漢でのウイルス封じ込め失敗が、世界への感染拡大を招いたとの疑念の声は日本でもくすぶる。国民的スターの死がさらなる中国への反感につながらないか、世論の動向をしきりに気にする様子だったという。

社説で異例の「読売新聞バッシング」

一方4月12日、中国共産党系の環球時報(電子版)には「読売新聞は成長しろ」と題した社説が掲載された。タカ派の過激な論調で知られる環球時報だが、日本メディアがやり玉に挙げられることはまれだ。

環球時報は社説で読売新聞を激しく攻撃した

異例の取り上げ方をされたのは、当日の読売朝刊に載ったコラム。北京駐在の中国総局長の署名入りで、習近平政権について、新型コロナ対応の過ちを認めようとしないなどと指摘した内容だ。環球時報社説はこの総局長を何度も名指しし「アメリカの顔色を窺って原稿を書いている」「彼の中国滞在は無駄だった」などと強烈に批判した。

翌日には中国外務省も「記事は中国への無知、偏見と傲慢に満ちている」などとして、読売新聞側に申し入れをしたことを明らかにした。ただ欧米メディアを中心に、中国の姿勢を厳しく批判する報道は決して珍しくない。やや唐突感のある「読売バッシング」には、北京にいる特派員の間でも困惑が広がった。

コロナ‟いち抜け“ゆえに国際世論が気になる?

買い物客が増え始めた北京の繁華街

ついに武漢の封鎖を解除し、全国で着実に経済活動を再開させている中国。世界各国がウイルスとの終わりの見えない戦いに苦しむなか、一足先にウイルスとの戦いに勝利を収めつつあるのに、これほどまでに日本の世論を気にする理由は何か。

ほんの半年前には熾烈な貿易戦争を繰り広げていたライバル・アメリカは、日本時間20日現在ですでに4万人を大きく上回る死者を出している。トランプ大統領は感染拡大をめぐる「中国責任論」をあおり、中国と激しく対立している。また、アメリカだけでなく中国の情報公開の不透明さを批判する声が、国際社会に広がりつつある。習近平指導部が避けたいのは、コロナ収束後に世界で「反中国」の包囲網が形成されるというシナリオだろう。日本を含む127か国に医療物資を提供するなど、「マスク外交」にも熱心だ。

早くも「アフター・コロナ」の世界秩序をにらむ中国にとって、日本との関係はさらに重要さを増す。「桜が咲くころ」に習近平国家主席の国賓訪日が決まってから、中国は友好ムードの醸成に力を注いできた。しかし日本側の対中感情は改善が進まないどころか、新型コロナの感染拡大を機にかえって悪化しかねない状況だ。中国側が「志村けんさんの死」に神経を尖らせたのもそのためだ。

習主席の訪日は延期となり、現時点で実現のめどは立たないが、その障害になりうる反中世論のタネはできる限りつぶしておきたいとの思惑がありそうだ。