新型コロナウイルスへの不安が広まるなか、「急に帰省して出産することは避けて」など妊婦に向けて専門家からの呼びかけや情報をまとめた文書が7日に公開された。

「妊娠中の皆さまへ」と題したこの文書は、日本産科婦人科学会と日本産婦人科感染症学会によるもので、次の6つの項目について書かれている。

・妊娠中に新型コロナウイルス感染症にかかる率は一般の方と同じです
・妊娠中の重症化率も一般の方と同じかむしろ低い値が報告されています
・急な帰省分娩の検討はぜひ避けてください
・感染予防のために付加的な医療サービス(立会分娩、面会など)が制限されます
・妊婦健診は重要であなたとあなたの赤ちゃんのいのちと健康を守ることが証明されています。しかし、妊婦健診の間隔を延ばしたり、超音波検査の回数を減らす、パートナーの立会いをお断りすることがあります。不安な症状がその間にあれば、どうぞ電話などでご相談ください。
・感染予防のために現在新型コロナウイルスに感染中の方や強く疑われる方の分娩方法や授乳方法を変えざるを得ないことがあります

文書ファイルを掲載した日本産科婦人科学会 公式サイト
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出産や子育てで実家に帰る人は多いと思うが、なぜ急に帰省して出産することに注意を呼び掛けているのか?

また、14日、埼玉県の病院で、母親と新生児が新型コロナウイルスに感染していたことが判明し、生まれたあとの感染なのか、もしくは母体を通して感染したのかわかっておらず、感染経緯を調査中だが、妊婦が新型コロナウイルスに感染した場合、子供に影響はないのだろうか?

日本産科婦人科学会の担当者に聞いてみた。
 

「急な」里帰り出産は、分娩場所のキャパシティーを超えることになる

――妊婦が“新型コロナ”にかかる率は?

まだきちんと科学的に確定したものではありませんが、日本よりはるかに感染者数の多い国(米国、英国)からの情報では、妊婦が新型コロナに感染する率は一般の人と同程度、重症化する率も一般の人と同程度、とされています。

しかし、新型コロナウイルス感染症に限らず、いかなる場合でも妊娠中の女性は社会の宝です
各々の職場、社会などで与えられた条件の中で可能な限りリスクの低い場所に居てもらうように工夫するのは当然のことだと思います。これは、社会全体の共通認識として当然だと思っています。
 

――妊娠中に“新型コロナ”で重症化する率は低い?

今のところ「高い」という証拠はありません。明らかに「低い」という証拠と呼べるほどの根拠もありません。あくまで、一部の数字ですが低めの数字が中国や英国から出ていましたのでこのような“報告がありました”という事実を述べるだけにしました。繰り返しますが「低い」ということは、まだ科学的根拠と呼べる質のものではありません。
 

――なぜ「急な里帰り出産」は避けたほうがいいのか?

出産は、予定がほぼ決まっていますが、常に緊急(いかなる時間にでも)で発生します。従って医療者の配置は、その施設にあらかじめ予約された妊婦さんの数で決まります。逆に医療者が安全に対応できない数は、締め切ってもう受け付けない、という事になります。

今、緊急事態宣言が出されている地域は日本の中では比較的医療者の多い地域です。そこから、医療者の少ない地域に締め切り後に出産場所を移す、ということは当然その移る先の施設の医療者の数や設備を超えることになります。

つまり安全ではなくなることになるのです。従って、「急な」里帰り出産は、分娩場所のキャパシティーを超えることとなりお勧めできません

また、今は人の移動は極力避けるようにすべての国民に要請されているわけですから妊婦の皆さんも例外ではありません。
移動自体もリスクと考えていただく時期だと思います。
 

――妊婦が“新型コロナ”に感染した場合、子どもにはどんな影響がある?

以前話題になったジカウイルスのような報告は全くありません。なので、胎児に直接影響することは今のところ、なさそうです。
 

感染拡大リスクを下げるため健診間隔を延ばすことも

また、文書では、立会分娩や面会が制限されること、妊婦健診の間隔が延ばされることなどについて、それぞれ「施設の方針」や「施設全体の感染防御策や担当医の指示」に従うよう勧めている。このようなことは、今全ての病院で一般的に行われているのだろうか?
 

――「立会分娩や面会」は全ての病院で制限している?

これは各施設の方針で、学会で決める問題ではありません。ただ、現在多くの病院が感染拡大リスクを下げるために面会やお見舞いで患者さん以外の方が病室に入ることを禁止していると思います。立ち合いや面会も同じことだと思います。
 

――「妊婦健診の間隔を延ばす」「超音波検査の回数を減らす」「パートナーの立会いを断る」のはなぜ?

病院自体がどうしても多くの人が集まる空間になりますので、「パートナーの立会いを断る」など、お越しになる方の人数を減らすことは感染拡大リスクを下げるための一つの工夫です。

妊婦健診も、状態が良好な方については延ばすことも考えてよい医療です。ただし、基礎疾患があって状態が変わりやすい人、検査などをせねばならない人は通常の間隔が必要です。

超音波は、多くの場合、医師や検査技師と妊婦さんが狭い部屋で行っていますので、すべて施設の人口密度を減らして感染拡大リスクを下げるための工夫です。全員一律にするのではなく、その施設における状況を考え、医学的に提案できる方に提案させていただく、という意味とお考えください。
 

――感染が疑われる妊婦に対し「分娩法」や「授乳法」を変えるとは、どういうこと?

これは、その施設の人員や、感染症用の分娩室があるか、周囲の人に感染を広げないための防護用具が十分あるか、などを総合的に考え、今までの産科的な適応に加えて施設全体の感染リスクを下げるため、経腟分娩がいいのか帝王切開の方がいいのかを考えなければならない、という意味とお考えください。

授乳も同じです。母親が肺炎で高い熱が出ていたら、新型コロナウイルス感染症でなくても、体を休めるため赤ちゃんに人工栄養を与えることがあります。

逆に、新型コロナウイルス感染症の症状がない場合でも、赤ちゃんに病気をうつさないための十分な装備と、医療スタッフによる母親への観察や助言ができる体制がとれるなら搾乳のうえ授乳(お乳を搾って赤ちゃんに飲んでもらう)もいいでしょうし、観察できない場合などは赤ちゃんへの感染拡大リスクを下げるために人工栄養にしていただくこともあり得る、という意味です。
 

厚労省も妊婦向けリーフレットを公開

また厚生労働省でも新型コロナウイルスを不安に思う妊婦向けの情報をまとめている。
こちらでも「胎児のウイルス感染症例が海外で報告されていますが、胎児の異常や死産、流産を起こしやすいという報告はありません」としており、新型コロナにかからないため手洗いの奨励や、密閉・密集・密接の「3密」を避けることを勧めている。

そして、もし妊娠中に風邪の症状や、37.5度以上の発熱が2日程度続いた場合は、早めに帰国者・接触者相談センターに相談するようにとしている。
 

出典:厚生労働省

今回、質問に答えていただいた日本産科婦人科学会の担当者からは「いかなる場合でも妊娠中の女性は社会の宝です」と力強い言葉をいただいた。また厚労省のリーフレットには「省をあげて、妊婦の方々の安心・安全の確保に全力を尽くしてまいります」というメッセージが書かれている。

新たな感染症が蔓延するという未曽有の事態に、妊娠している人はもちろん家族や親族も、大きな不安を感じているだろう。このような確かな情報を入手して少しでも不安を解消し、出産に臨んでいただきたい。
 

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