前・米太平洋軍司令官も、主要な米韓演習一時中止を支持

ハリス前・米太平洋軍(現・インド太平洋軍)司令官
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トランプ米大統領が、6月12日の米朝首脳会談後の記者会見で米韓の主要な演習を“War Game”と呼び、交渉が続く限り、“War Game”を中断する意向を示したことについて、次期駐韓米大使に指名されたハリス前・米太平洋軍(現・インド太平洋軍)司令官は14日、米上院外交委員会の公聴会で、北朝鮮が非核化に「真剣か、をみるため、主要な演習を一時中止すべき」との考えを示した。

北東アジアの安定に重要とも言われる米韓演習に対し、War Gameはコストがかかることを口にしたトランプ大統領に、何か、含みや思慮があるのかどうか。それを類推することは、常人にはとても無理、窺い知れないことかもしれないが、つい先日まで、プロの軍人として、半島情勢を見ていたハリス氏の見解は、ただ単に、自分を指名した大統領の意を体したものなのかどうか、考えてみたほうがよいかもしれない。

ハリス氏は、今年3月の米上院軍事委員会公聴会では、米太平洋軍司令官として、金正恩委員長は「在韓米軍が撤収すれば、勝利のダンスをするだろう」と述べていた。そんな人物が、立場が変わるとはいえ、米韓同盟の弱体化につながりかねないとも言われる「主要な演習の一時中止」を口にしたわけだ。

マックス・サンダー演習時、ハリス氏は現役の太平洋軍司令官

ハリス氏は、今年5月30日まで、米太平洋軍司令官だった。5月11日から25日までの予定で実施されていた、米韓の航空戦力による「マックス・サンダー演習」の期間、ハリス氏は、現役の米太平洋軍司令官として、この演習を見ていたことになる。

異変は、5月16日に起きた。北朝鮮の朝鮮中央通信が当日、予定されていたいわゆる「南北高位級会談を中止する措置を講じざるを得なくなった」と報じたのである。南北首脳会談に続き、米朝首脳会談への地ならしとなるとみられていた重要な会合の「中止」発表である。いったいなぜか。

資料:マックス・サンダー2017

理由として朝鮮中央通信は、11日から行われている米韓の航空戦力の合同演習「マックス・サンダー」をあげた。

「11日から南朝鮮当局は米国と共に南朝鮮全域で、われわれに対する空中先制攻撃と制空権掌握を目的にして大規模な“2018マックス・サンダー”連合空中戦闘訓練を行っている」
「今回の訓練は…米軍のB-52戦略核爆撃機とF-22ラプターステルス戦闘機を含む100余機の各種の戦闘機が動員されて…行われる」と書いてあったのだ。

米韓演習でB-52Hが韓国に展開しないよう、韓国政府が要請と韓国メディア

韓国のその折の対応が興味深い。韓国の聯合ニュースによると「韓国の宋永武(ソン・ヨンム)国防部長官と在韓米軍のブルックス司令官(韓米連合軍司令官兼務)が行った緊急会談で、宋氏がブルックス氏に対し、17日にB-52を朝鮮半島に展開しないよう求めたと伝えた」というのである。

だが、「B-52爆撃機は17日午前、朝鮮半島南端の上空を飛行する訓練を行ったが『マックス・サンダー』とは無関係な訓練飛行だった」と聯合ニュースは伝えた。この記事が正しければ米軍は、米韓合同であるが故に、韓国の国防担当閣僚から、北朝鮮が嫌っている『B-52H爆撃機を韓国に飛ばさないで』と頼まれたことになるだろう。

だが、米韓演習と関係ない形で飛ばした。その時の米太平洋軍司令官がハリス氏だったのだ。

AGM-86巡航ミサイルとB-52H爆撃機

北朝鮮の意向を汲んで、米韓合同演習での米軍の動きを韓国が止めようとした。特に、B-52H爆撃機は、射程2000km台のAGM-86Bまたは、射程1000km台のAGM-86C巡航ミサイルを積んで飛び、日本や韓国等に米軍が提供する拡大抑止の柱の一本にあたるにも関わらず、その韓国から飛ばさないよう要請されたのだ。

「主要な」米韓合同演習と言えば、春の野外機動演習「フォールイーグル」と指揮所演習「キーリゾルブ」 。それに、秋の指揮所演習「乙支(ウルチ)フリーダム・ガーディアン」がある。「マックス・サンダー」のような演習も含まれるかもしれない。

こうした演習の期間中、北朝鮮の意を汲むか、忖度した韓国の要請で、米軍は、北朝鮮が指定する特定の米軍装備が使えなくなるのであれば、米軍は日本や韓国等、北東アジアへの拡大抑止ができるのだろうか。

北朝鮮の朝鮮中央通信(6月13日)は、米朝首脳会談で金正恩委員長が「差し当たり、相手を刺激して敵視する軍事行動を中止する勇断から下すべきだと語った。アメリカ合衆国の大統領はこれに理解を表し、朝米間に善意の対話が行われる間、朝鮮側が挑発と見なす米国・南朝鮮合同軍事演習を中止する」と述べたという。

米韓演習がなければ、米軍は韓国に縛られずに動ける?

トランプ大統領は、金委員長の要請を受けて「合同軍事演習中止」の意向を打ち出したかのように書かれているが、米側に、想定問答は無かったのだろうか。北朝鮮が合同演習を非難し続けていたことは米側は以前から百も承知だっただろう。

トランプ大統領の発言が事前に用意された想定問答の通りであったとしても、なかったとしても、結果として、米政府は、今後、米韓演習の日程が設定されないので、韓国側の要請に縛られることなく、米軍を動かせることになるのではないか。

韓国側との協議も必要になるはずなので、米韓合同演習中止が実質、どういう形になるかは分からない。

B-52H爆撃機の飛行ルート(12日) 提供:Aircraft Spots

虚実は不明だが、軍用機や民間機の動きを航空機愛好家向けのインターネット・サイトの一つが、6月13日、沖縄本島の北側をB-52H爆撃機2機が12日に飛んだとの情報を流した。その位置は、もし、B-52H爆撃機にAGM-86B巡航ミサイルが搭載されていたなら、北朝鮮は十分、射程内の位置だった。