政府も「3密」を避けるためにあの手この手…

新型コロナウイルスの感染拡大を受け安倍首相が発令した緊急事態宣言。これを境に「永田町」の景色は大きく様変わりしている。そもそも、安倍首相の緊急事態宣言の記者会見も、普段の会見室より大きなホールで行われ、記者が椅子の間隔を開けて座るという異例の形で実施された。さらに翌日行われた安倍首相の立ちどまってのインタビュー、いわゆるぶら下がり取材も驚きだった。以前のスタイルと比べると一目瞭然だ。

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安倍首相と記者の間に広く距離が取られ、普段は近くで首相にマイクを向ける記者も離れた場所から質問した。

さらに、国の重要事項を決定する「閣議」も全閣僚が集まるという感染危険性を考慮し、書類の持ち回りで行われることが決まった。

また、普段多くの人が訪ねて来る首相官邸の人の出入りにも変化が生じている。ある日、自民党議員が政府高官との面会のため官邸にやって来たが、誰も連れず1人だった。その理由を尋ねると、面会予定の政府高官から直接電話があり、「官邸に集団で来るのはやめてほしい」と言われたという。この議員は帰り際に「きょうは1人で寂しいですね」と思わず本音を漏らし去っていった。

このように政府も密閉・密集・密接の「3密」を避けるため、あの手この手の策を施している。そしてそれは我々「記者」も例外ではない。テレワークの導入など、感染拡大の防止を意識した取材・勤務を心がけている。

それと同時に、テレビ・新聞などのメディアは政府の基本的対処方針の中で、「国民の安定的な生活の確保」の一環として「自宅等で過ごす国民が、必要最低限の生活を送るために不可欠なサービスを提供する関係事業者」に位置づけられ、事業継続を要請されている。まして報道機関としては、非常時だからこそ、正確な情報を収集し、政府の動きや社会で起きていることを、視聴者にわかりやすく伝えるという基本を変えるわけにはいかない。では永田町での取材に関する光景は一体、どう変わったか…。

「3密」を避けよ 官房長官会見の座席数は4分の1に

最もわかりやすく変わったのは菅官房長官の記者会見だ。午前と午後の2回行われる会見にはこれまで、記者席が114席置かれていた。しかし、緊急事態宣言を受け、「3密」を少しでも避けるため、席数を29席と約4分の1まで減らし、、その後さらに23席へと約5分の1まで減らし席の間隔を開けた。さらに会見に出席する記者も1社1人とすることになった。

また、内閣府からは大臣の定例記者会見の回数を減らせないか要請があった。新型コロナウイルス特措法を担当する西村康稔大臣の会見は、今まで通り火曜日と金曜日の2回行うが、竹本IT相、衛藤一億総活躍相、北村地方創生相、武田防災相の4人については、週2回の定例会見を1回にしたいという内容だった。結果として2回の記者会見の継続で折り合いがついたが、関係者によると、霞ヶ関の官僚もテレワークが推奨される中で、必要な措置として検討したのだという。

「夜討ち朝駆け」は距離を確保 マスク絶対、車の同乗も避けるべし

「記者会見」については、このように変化したものと変化しないもの、変化を模索しているものに分かれた。しかし記者の仕事はこれだけに及ばない。「夜討ち朝駆け」ともいう、政治家や官僚の自宅前などで、実名で直接記事にしないことを前提に記者会見で話せない本音などを聞き出す、いわゆる「オフレコ取材」である。

ニュース番組や新聞記事で「政府関係者」とか「自民党関係者」といったクレジットで引用される発言などがそれにあたり、様々な意見はあるが、正確な情報を伝え、起きていることの背景や裏側を報道するのに大変有効な取材方法だ。

政府関係者の対応はそれぞれだ。政府高官の一人は今まで通り取材に応じる一方、記者との間隔をより拡げることで「密集・密接」を防ぎ、記者全員にマスク着用を義務づけている。

また別の政府高官は、総勢15人以上の記者による一斉取材を避け、代表の記者数人による取材を受けるという手法で、感染リスクを減らしつつ取材対応を継続している。さらに別の政府関係者はこれまで行っていた、通勤の車に記者を同乗させて車内で取材を受ける、通称「箱乗り」取材を受けるのをとりやめた。

「Zoom」取材は浸透するか?背に腹は代えられない取材機会の確保

一方で驚きの取材手法を用いることで、「夜討ち朝駆け取材続行」となった政府関係者もいる。それが、いまオンラインの会議ツールとして注目を集めるアプリ「Zoom」を使った取材である。

Zoomとはインターネットを介して、複数人でのビデオ会議が可能となるアプリで、今回の自粛要請によって注目されているツールだ。このアプリを通じて、「3密」を回避した形での「オンラインランチ」や「オンライン飲み会」などが行われている。

この政府関係者は今回、記者との取材にこのZoomを活用しようと提案した。外出自粛要請の趣旨に沿いながら、お互いの感染防止を図るため、緊急事態宣言期間中の自宅前での対面取材を中止する代わりに、定期的にZoomで各社の取材に応じるというのだ。

この提案に対し、複数の記者から「取材機会の制限につながる」「セキュリティー上の懸念がある」などの声があがったが、緊急事態の状況を勘案して了承され、早速、Zoomを使った異例の取材が実施された。

そこでは、パソコン上にこの政府関係者はもちろん、テレビや新聞社の番記者の分割画面が、さながらG7やG20首脳のテレビ電話会議のように並び、記者が質問をぶつけていったという。リアルに1カ所に集まって取材をする今までのスタイルに比べ、職場や自宅、パソコンやスマホなど、それぞれの場所やツールから時間を決めてオンライン上で集まるという新たな取材方法には若干の戸惑いがあったようだが、緊急事態宣言の期間中は当面、このオンライン取材が続けられることになるという。

内閣広報室提供

「足で稼ぐ」と言われる取材も今回は自粛も…取材継続のための工夫

取材は足で稼ぐことが基本。質問の仕方を工夫し、細かな表情の変化を読み取って取材相手の気持ちを推し測るのも重要な記者の務めだと先輩記者から教わったことがある。その根幹である「直接対面」での取材に変化が起きているのが今回の事態だ。

私たち記者としては、緊急事態宣言が出ている今だからこそ、国民への正確な情報の伝達が一層必要であり、関係者への取材機会の確保は極めて重要だと認識している。一方で、感染拡大防止に国民の一員として協力する必要も当然ある。今回の様々な対応は、記者としてこのバランスの中で、取材機会を確保するために背に腹はかえられない対応だといえるかもしれない。だからこそ様々な“工夫”で取材し、正しく、わかりやすく、感染拡大の防止に資するような報道につなげていきたい。

(フジテレビ政治部 杉山和希)