米朝首脳会談後、北朝鮮に“核兵器用燃料増産”疑惑が

やはりそうか」と思った人もいるかもしれない。
6月30日、米NBC放送は「北朝鮮は、複数の秘密施設で核を増産、米当局者語る」というタイトルの記事を流した。6月12日に行われた米朝首脳会談で、不完全さを指摘されながらも、米朝両国は、朝鮮半島の完全な非核化に向かうことをうたった文書に署名したばかりである。

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「アメリカの複数の情報機関は、北朝鮮がここ数ヵ月で、複数の秘密の場所で、核兵器の燃料の生産を増やし、金正恩は、トランプ政権との核交渉でより多くの譲歩を求めて、これらの施設を隠そうとしているとみている」というのである。

そんなことは、可能なのだろうか。
そもそも、北朝鮮には、世界有数のウラン鉱脈がある。そして、天然ウランを濃縮する遠心分離機のような原子炉の燃料を作る設備も技術者も自前で持っている。原子炉を運転すれば、その使用済み核燃料を再処理することでプルトニウムが採取できる。

プルトニウムは、原爆の材料となる核物質だが、原子炉を運転すれば、熱・蒸気・温排水が出る。そして、使用済み核燃料の再処理の過程では、クリプトン85という希ガスが出る。従って、米韓の監視をかいくぐって、原子炉の運転を行ったり、使用済み核燃料の再処理を行うのは、とても難しい。

ウラン生産はプルトニウムより隠しやすい?

だが、ウランの濃縮作業を遠心分離機で、原子炉の燃料に求められる以上に、さらに繰り返せば、高濃縮ウランとなる。これも、原爆の材料となる核物質だ。高濃縮ウランを生産するのには、「熱」が出る原子炉を運転する必要もない。従って、プルトニウムの生産と比べれば、高濃縮ウランの生産は、隠しやすいということになるだろう。

NBCの記事では、プルトニウム生産には触れず、高濃縮ウランの生産のみに言及している。高濃縮ウランの生産場所について、NBCの記事は、北朝鮮の主要各施設である寧辺以外にも、濃縮施設が複数あることを北朝鮮が隠してきたこと。

だが、米国の情報機関が、それを掌握していることを示唆している。NBCは、これ以前、28日付の記事で衛星画像の分析の結果、寧辺の核研究センターが拡大しているとの記事も流していた。



北朝鮮がウラン濃縮をすすめているというNBCの記事は、大手のロイター通信やブルームバーグでも引用された。トランプ大統領は、米朝首脳会談の翌日の13日、「北朝鮮からの核の脅威はもはやない」とツイートして、評判を呼んだが、ホワイトハウス、そして北朝鮮が今後、この記事にどう対応するのか、しないのかが、大変興味深い。

“完全な非核化”か、再び“すべての選択肢がテーブルの上”か

この記事が正しいとすれば、北朝鮮はなぜ米情報機関が、寧辺以外でのウラン濃縮を掌握できたのかを北朝鮮なりに突き止めたうえで、今後、米情報機関に高濃縮ウランの生産と在庫を掌握されないための対応に追われることになるだろう。

北朝鮮が、この記事は誤報と主張することになったとしても、それを世界中が納得できるように“証拠”を示して説明できるのか。名にし負う情報統制国家であるが故に、北朝鮮以外では、むしろ疑念がくすぶり続けることになりかねない。

だが、北朝鮮が何らかの対応策のために、“動く”と、偵察衛星や大型無人偵察機を駆使する米情報機関にとっては、却って、濃縮施設や高濃縮ウランの貯蔵についての新たな情報や証拠を掴む端緒となるかもしれない。

6月12日に、金正恩委員長は、“完全な非核化”という言葉の入った共同声明にトランプ大統領とともに署名した。

共同声明には非核化への具体的な道筋がなかったことが問題として指摘されてきたが、高濃縮ウラン生産という決定的な証拠を米側が掴めば、再び、トランプ政権の都合の良いタイミングで証拠を明かすとともに、「大統領は騙された」として、再び、“すべての選択肢がテーブルの上に載る”ということになるのかもしれない。

もちろん北朝鮮が、この報道を機に、本当に非核化に動けば、もっとも望ましいことにはなるが。