南シナ海問題も、追加関税問題も、米トランプ政権にとっては、自国の安全保障に直結する問題だが、これらの問題で米中関係が、悪化する中、北朝鮮の立場が興味深い状況になっている。
7月6日~7日、ポンぺオ国務長官が、C-32A型機で訪朝したのだ。6月12日のシンガポールでの米朝首脳会談後、初めての米朝高官の協議。ポンぺオ長官は3回目の訪朝だが、泊りがけの北朝鮮訪問は初めてだ。

北朝鮮に到着したポンペオ国務長官
この記事の画像(7枚)

日本を攻撃できる弾道ミサイル発射機の生産継続か

ポンぺオ長官の訪朝を控えた6月末、米国のメディアや研究機関は、立て続けに、北朝鮮の核やミサイルについての疑惑を伝え始めた。

6月30日、アメリカの国際問題専門サイト『The Diplomat』は、米空軍の航空宇宙情報分析センター(NASIC)が、北朝鮮は2018年前半に、射程1000㎞以上、つまり、日本攻撃に使用できる北極星2型=KN-15型準中距離弾道ミサイルは生産していないが、北極星2型用移動式発射機の生産は継続され、約10両を北朝鮮はすでに保有していると伝えた。
移動式発射機の数量は、そのまま、弾道ミサイルを連射できる数に直結する。

北極星2型用移動式発射機

日本を射程とする弾道ミサイルの連射能力に関わることでもあり、日本としては無視できないことだろう。同日(6月30日)、アメリカのNBC放送は、アメリカ情報機関筋が北朝鮮の複数の秘密施設で、核兵器の材料となる高濃縮ウランの製造が強化されていると分析したと報じた。

7月1日付のワシントンポストは、アメリカの当局者が「北朝鮮は、核計画の重要な部分を隠蔽するために努力しており、その備蓄を完全に放棄するつもりはない」と分析しているとの見方を伝えた。
翌7月2日、ウォールストリートジャーナルは、衛星画像の分析から、北朝鮮が咸興市にある主要ミサイル製造拠点の大幅な拡張工事を完了させつつあることが判明、と報じた。

そして、ポンぺオ長官の訪朝前日の7月6日には、北朝鮮専門の研究機関、38NORTHが、衛星画像の分析の結果、寧辺の5メガワット原子炉の二次冷却システムの工事が完成したようだと報じていたのである。

トランプ政権も北朝鮮の疑惑について言及

また、韓国では野党議員が、7月5日、韓国国防部から得た情報として、北朝鮮は「米朝首脳会談後も、寧辺の核施設を稼働させ、東倉里のミサイルエンジン試験施設も稼働、さらに、弾道ミサイル搭載用潜水艦の建造も継続されていることが確認された」という。

個々のメディアや研究機関からもたらされた情報の内容も興味深いものだが、前CIA長官であり、現国務省長官であるポンぺオ氏の訪朝直前、立て続けに北朝鮮の“疑惑”が、集中して報じられたこと自体も興味深い。

CBSテレビに出演したボルトン補佐官

さらにトランプ政権の内部からも、安全保障担当のボルトン補佐官が7月1日、CBSテレビに出演し、北朝鮮の生物・化学・核・弾道ミサイルのサイトを指して「一年以内に北朝鮮の計画の大部分を物理的に解体できる」との見解を示した。

また、CNNなど、複数の米メディアによると、トランプ大統領自身も7月5日、米国内移動中、金正恩委員長について記者団に「私は、北朝鮮にとって異なる未来を彼(金委員長)は見ていると信じている。私は、それが真実であることを願っている。もし、真実でないなら、我々は他の道に戻るだろう。それが必要だとは考えていないが」と述べたという。
「他の道に戻る」というのは、「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」状態に戻るということだろうか。

こうして並べてみると、米政府は、北朝鮮や北朝鮮を支援している諸国に対し、米政府が知っていることの一部をリークし、他にもカードを握っていることを匂わせながら「一年以内」という目標を示したのかもしれない。

トランプ氏がポンペオ氏にCDを託す?

ポンぺオ国務長官(左)金英哲統一戦線部長(右)

結局、ポンぺオ長官は、北朝鮮の金英哲統一戦線部長らとの交渉で、米国の目標は「北朝鮮の完全な非核化だ」と述べたのに対し、金統一戦線部長は非核化については直接言及せず、「はっきりさせなければならないことがある」と述べ、米朝で作業部会を立ち上げることで合意したという。ポンぺオ長官自身は、今回の協議で「進展があった」という評価だ。

この作業部会が、いつ、どんな形で動き出すのか(または、動き出さないのか)は7月7日現在、不明だが、韓国の朝鮮日報(7月6日)によると、トランプ大統領はポンぺオ長官に、金正恩委員長にあてた親書の他に、英国の歌手、エルトン・ジョンが歌う「ロケット・マン」が入ったCDを託したという。

記事によれば、6月12日の米朝首脳会談の際、金委員長がトランプ大統領に「昨年、米朝関係の雰囲気が最悪になった際、大統領は私をロケットマンと呼んだ」と発言したのに対し、トランプ大統領は金委員長に「ロケット・マンという歌を聞いたことがあるか」と切り返した。金委員長が「聞いたことがない」という趣旨を答えたので、今回、CDを託すことになったというのである。

金委員長は、トランプ大統領に「リトル・ロケットマン」と揶揄されたことを指していたのかもしれないが、この記事が正しければ、トランプ大統領にエルトン・ジョンの歌に話題をすり替えられた感もある。
「ロケット・マン」の歌詞を見ると、あるフレーズが繰り返されることに気付く。

日本語に要約すれば「私は長い長い時間だと思う、着地するまで」という意味のことを4回、繰り返しているのだ。さらに、歌の最後では「長い長い時間」というフレーズが、繰り返されている。

金正恩委員長率いる北朝鮮が、トランプ政権が繰り出す、対北朝鮮政策をどのように判断しているかは分からない。ボルトン補佐官のいう核・生物・化学・弾道ミサイル施設の解体は「一年以内」ということこそ「長い、長い時間」なのか。それとも「一年以内」には拘らず、非核化には、それより「長い長い時間」を掛けてもいいと示唆された、と判断するのか。
しかし、結局、今回の訪朝でポンぺオ長官は、金正恩委員長に会えなかったという。

ラプターは米本土へ帰還か

F-22Aラプター@横田基地(提供:SPAR55さん)

ポンぺオ長官が北朝鮮を離れた7月7日。嘉手納では、5月30日から約1ヵ月の期間で暫定展開していた、F-22Aラプター・ステルス戦闘機の一部が離陸、横田に着陸した。
作戦のための飛行時には、ステルス性を犠牲にするため、吊下げないはずの大きな燃料タンクを下げていたため、嘉手納展開の任務を終え、米本土への帰還の可能性もある。

金正恩委員長が、米政府側が投げかけた言葉や行動を、どう解釈し、判断し、行動するのかは重要だ。その結果、トランプ大統領が「全ての選択肢がテーブルの上にある」状態に、万が一にも「戻る」ような兆候でも見せれば、日本にとっても他人事ではないだろうからだ。