学校の「1人1台端末」今年度内に実現へ

新型コロナウイルスに対する緊急経済対策として、4月7日に補正予算案が閣議決定された。

肝いりの1つが、学校で子ども1人に1台の端末を整備する「GIGAスクール構想」の今年度中の実現だ。コロナで休校が長期化する中、オンライン授業の環境整備は教育現場の大きな課題である。

学びとインターネットがもはや切り離せないことに誰もが気がついた今こそ、「1人1台端末」の実現に向けた「ヒト・モノ・カネ」の集中的な資源投入が必要だ。

「ICTについては私の就任以来、『令和の時代のスタンダード』としてその実現を進めてきた。まさに社会総がかりで取り組みたい」

萩生田文科相は、7日の閣議後会見でGIGAスクール構想の加速に強い意欲を示した。

萩生田光一文科相
萩生田光一文科相
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今回の補正予算案に計上されたのは、2292億円。この構想には昨年度予算で、既に2318億円を計上しているので、ほぼ倍額となった計算だ。

低所得世帯にWi-Fi整備を支援

では、構想の実現性のカギを握る「モノ」=端末・Wi-Fi環境の整備状況はどうか?

全国の学校の端末数は現在、子ども5.5人に1台だ。今年度の補正予算案では「1人1台端末」を目指し、昨年度に対象とされた小5、小6、中1だけでなく、残りの中2、中3、小1から小4のすべての子どもを対象とした。

さらに、達成目標年度を2023年度から今年度に前倒しする。

現在、インターネットを利用している世帯は全世帯の8割を超え、携帯やスマホなど、モバイル端末の保有率は約95%、パソコンは7割を超えている(総務省調べ)。しかし、低所得世帯ではインターネット利用率が低い(年収200万円以下で5割強)。

すべての子どもがオンライン授業を受けられるよう、文科省ではモバイルルータを貸与するなど、低所得世帯のWi-Fi環境整備を支援する。

新型コロナで端末が学校に回らない恐れも

特に「1人1台端末」が待った無しなのは、休校が延期され、オンライン授業の需要が高まる緊急事態宣言の指定区域である7都府県だ。

文科省では、7都府県に対して学校のネットワーク環境の工事を急ぐことや、できる限り早めの端末購入を促しているが、新型コロナの影響で端末の安定生産・供給が難しい状況だ。さらに、在宅勤務による需要増もあって、端末が学校に回ってこない恐れもある。

これを受けて文科省では、家庭に端末のある子どもにはそれを使ってもらい、端末が家庭にない子どもには、学校にある端末を持ち帰ってもらうことも検討中だ。

BYOD(Bring Your Own Device=個人所有の端末を学校で使う)を可能な限り活用することで、端末をいま必要としている家庭に優先的に割り当てるのが狙いだ。

臨時休校中の学校
臨時休校中の学校

ICT人材不足はコンテンツでカバー

次は「ヒト」である。

筆者は以前、オンライン授業の立ち上げは、教育者にとって大きな負担になると書いた(「初めての子どものオンライン授業 保護者と教育者に求められるものは何か」)。

かといって、教育現場でICT人材を一から育成するには時間がかかる。そこで文科省では、まずは誰もが使える教育コンテンツで人材不足をカバーするべく、その拡充に力を入れている。

例えば、教員の授業を生配信するのではなく、「優秀な教員の授業を収録して、多くの子どもに向けて配信したり、NHKの教育番組や放送大学などを活用する」(関係者)案も検討中だ。

財政負担や人材不足から躊躇する自治体も

そして最後は「カネ」だ。

文科省が​昨年度、全国にある約1800の自治体にWi-Fi設置の要望を確認したところ、およそ半分が手を挙げたという。また、端末についても要望を確認中で、今後、補助金を決定し、各自治体は競争入札、発注という段取りを踏んでいく。

ここで課題となっているのが、財政の厳しい一部自治体が、国の予算措置が2023年度以降なくなることを懸念して、「1人1台端末」の実現に躊躇していることだ。

全国市長会が3日に公表した国に対する提言の中では、今回の取り組みを「遠隔授業の推進の観点からも評価する」としながらも、「財政負担の増加やICT人材不足に苦慮している」と財政措置などの支援策を強く求めた。

具体的には「教科書が全額国費負担なので、端末・デジタル教科書も全額国費負担にすること」や「ICT人材を国で確保し財政措置を拡充すること」を求めている。

また、構想の早期実現に対しても、「自治体は5年間で整備を計画している」ので、前倒しであればそれに必要な支援を、と国に対して訴えた。

タブレットを使った学習
タブレットを使った学習

今こそ求められる教育への資源の集中投下

全国市長会の相談役で滋賀県湖南市市長である谷畑英吾氏は、この提言について次のように語る。

「GIGAスクール構想の早急な整備が必要であるという国の想いに、新型コロナウイルス対応で学校閉鎖を余儀なくされた教育現場の肌感覚がシンクロしてきたのだと思います。ですが、その際の財源は教科書無償と同様、義務教育世代については国の責任で対応されたいというところでしょう」

さらに谷畑氏は、「国と地方の財政負担の攻防は、今に始まったことではない」と言う。

「今回は政権の政治判断で導入されるものであるばかりか、社会全体の変革につなげるトリガーとしての整備ですので、単なる教育予算というよりは、人づくり、国づくりの視点で全額国が戦略的に負担しても、将来お釣りが来るのではないでしょうか」

「1人1台端末」の年度内実現には、「ヒト・モノ・カネ」の高いハードルがあるが、「新型コロナウイルスが現代の日本社会のOSを根底から変えてしまう」(谷畑氏)以上、今こそ国を挙げて教育への資源の集中投下が求められるのだ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。