今日の東京株式市場では、安倍首相が緊急事態宣言を出す方針を固めたことが伝わると、前週末に比べて約800円上昇した。緊急事態宣言は株価にとって吉と出るか凶と出るか。さらに今後の株価を左右するものは何か?マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆氏に今後の株価動向の予想を聞いた。(聞き手:解説委員鈴木款)

緊急事態宣言で市場には安心感広がる

ーー今日の株価は大幅続伸しましたが、緊急事態宣言が出ることで、マーケットに安心感が広がったのですか?

広木氏:
そういうことですね。相場って本当にいい加減なもので、ほんの10日程前には東京都知事が週末の外出自粛を要請しただけで、ガタっと下がるということがありました。その頃は相場の動きがまだ不安定だったので、もし緊急事態宣言が出ていたら千円安くらいになっていたのではないでしょうか。その理由は、当時緊急事態宣言は2つのネガティブなインパクトがありました。1つめは「緊急事態宣言を出すほど、酷い状況なんだ」というショック。2つめが「行動制限が行われれば、経済がさらに落ち込む」という観測です。

ーーしかしいまでは、緊急事態宣言に対する市場の受け止め方が180度変わったと。

マネックス証券チーフ・ストラテジスト 広木隆氏
マネックス証券チーフ・ストラテジスト 広木隆氏
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広木氏:
まず、緊急事態宣言が出ても何も変わらないだろうという認識が、広まってきたことがあります。今回法的根拠のある要請になりますが、強制力や罰則はありませんし、普通に公共交通機関やスーパーや銀行は動くわけですから、何も変わらないだろうと。ただ一方で、宣言によって若者が出歩かずに行動制限されれば、収束に向けて良いことだろうと。そういう受け止めに変わったのですね。

行動制限はプラス材料に

ーーコロナウイルス感染拡大の収束に、行動制限がプラスになるとの認識がマーケットにも広がったと。

広木氏:
海外では武漢が8日に封鎖を解除したり、イタリアもピークアウトして新たな感染者が少なくなっていたり、韓国も感染者増が抑えられています。行動制限に効果があるのがだんだんわかってきたので、日本も緊急事態宣言を早く出して一段と自粛を求めれば、結果的に収束への近道になるという捉え方が広がってきたんですね。

緊急経済対策の受け止めは?

ーーそれでは、緊急経済対策についてのマーケットの受け止めはどうなんですか?

広木氏:
これは正直に言って、マーケットへの影響はそれほど大きくないですね。対策の柱は30万円の現金給付ですが、所得が減少した世帯への「生活保障」ですよね。そうすると言い方は悪いですが、マーケットは大企業の株価なのであまり関係無いと言えます。広い意味では日本全体の不安心理を改善することにつながりますが、大型の経済対策として需要喚起をするとか経済を盛り上げるという話ではないので、マーケットにはあまり影響ないのかなという感じです。

ーーテクニカル的に言いますと、日経平均株価は1万6千円で底を打った感じですか?一方で2万円の上値も重い感じがしますが。

広木氏:
いったん底値が入ったと思います。一回底を付けた後急反発して1万9千円台の半ばまでいきましたが、下押しされて。緊急事態宣言で「あく抜け感」が出ているので、次に再度上値をトライできるかどうかです。

注目は原油価格とコロナ感染者数

ーーあとは材料次第ですか?

広木氏:
大きい材料は2つあります。1つは原油ですね。コロナ騒ぎの途中で、原油価格の急落がさらに株価を下押ししました。今日予定されていたOPECとロシアの対話が9日に延期されましたが、もし原油安に歯止めをかけるような協調がうまくいけば、マーケットが「リスクオン」になるのではないかと。

ーーもう1つは、コロナウイルスの感染状況ですね。

広木氏:
はい。完全収束はまだ遠いですが、一番酷かった中国、韓国、イタリアが落ち着き始めたので、あとは本丸のアメリカがスローダウンするとアメリカ株は戻るのではないでしょうか。きょうの日経平均株価の上げ幅が拡大したのは、緊急事態宣言もありますが、ニューヨーク州で前日に比べて感染者数が減ったこともあります。ピークアウトかどうかは分かりませんが、ずっと増え続けていたものが減ったのは事実ですし、これを好感して時間外のアメリカ株の先物が買われ、日経平均もつられて上がりました。

カギを握るアメリカの感染者数

ーー今後のカギを握るのはアメリカの感染状況ですか?

広木氏:
感染者数の減少がもし続けば、これは凄く明るい兆しとなり、マーケットはどんどん戻るのではないかと思います。一時期ニューヨーク市場は大きく乱高下しましたが、先週は4週間ぶりに、1週間を通して千ドル単位の上げ下げがなかったんですね。恐怖指数も一時リーマンショックを超える80台まで急騰しましたが、いまは50を割り込んで、マーケットは落ち着き始めています。そういうところに感染者数が前日比で減ったとなると、ダウ平均株価も底を打ったということになるんじゃないですかね。

ーーアメリカのトランプ大統領は、大規模な経済対策を矢継ぎ早に発表しています。この動きもマーケットは好感していますか?

広木氏:
ポジティブですね。最初はなかなか対策が決まらないとネガティブに受け止められていましたが、2兆ドルの現金給付を決めてこれはいいと。さらに2兆ドルを上積みして、インフラ投資をやると。まだ決まっていませんが、矢継ぎ早にどんどん出てくることと、FRBがさらに金融緩和をするという観測も出ていますし、財政と金融を全部やるぞというアメリカの迫力は凄いですね。やっぱりアメリカ経済にまずは立ち直ってもらう、そこが一番大きいですね、日本は他力本願ですけど。

経済統計はもはや「異常値」

ーー最後に今週以降の経済統計で注目点はありますか?

広木氏:
先週の雇用統計は70万人の減少でした。それに先立って新規雇用保険請求件数は300万人増え、さらに翌週は600万人増えているから、合わせて1千万人増となります。ということは、次の雇用統計は1千万人の失業となりますね。これまで見たことも無いような、異常値と言ってもいい数字で、もはやマーケットは反応しないですよ。GDPなど他の経済統計に対してもマーケットは、「異常値だからしょうがないよね」と反応しない可能性がありますね。

ーーマーケットの注目指標は、感染者数につきるということですね。ありがとうございました。

【聞き手:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。