「人工呼吸器不足」が深刻化

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、病院の収容能力だけでなく、重症化した患者の治療に使われる「人工呼吸器の不足」が世界中で深刻化している。

トランプ大統領は「国防生産法」に基づき、大手自動車メーカー「ゼネラル・モーターズ」に対して、人工呼吸器を生産するよう命じるなど対策に頭を悩ませている。

日本でも西村康稔経済再生担当相が3月29日、「人工呼吸器は増産に向けて調整をしています。国としてしっかりと支援をしていく方向です」と話し、重症患者の急増に備え、メーカーに人工呼吸器の増産の要請をしている。

こうした中、全世界での救命活動の支援を行うため、日本の医師が3Dプリンターで製造できる人工呼吸器モデルのデータを無償提供するプロジェクトを立ち上げたのだ。

プロジェクトの代表を務めるのが、3Dプリンターで製造できる人工呼吸器モデル(データ)を発明した国立病院機構新潟病院の石北直之内科医長と、広島大学トランスレーショナルリサーチセンター准教授の木阪智彦医師だ。

まずは、石北医師が発明した3Dプリンターで製造できる人工呼吸器モデルを見てほしい。

石北医師が発明 3Dプリンターで製造できる人工呼吸器モデル

石北医師は自身のSNSで、実験動画も公開している。

人工呼吸器モデルは世界からも注目され、石北医師のもとには世界の医療関係者から問い合わせが殺到しているという。石北医師はSNSでこのように話している。

「“Mars Academy USAの共同研究者であるフランス人医師より、地球規模での感染症騒動で、人工呼吸器が足りない窮状を知らされ、3Dプリント人工呼吸器(嗅ぎ注射器/電子メール人工呼吸器)が使えないかと相談を受けたことがきっかけで、facebookに無償で協力したい旨を投稿したところ、世界中から問い合わせが殺到していますすぐにでも助けたくて気持ちばかり焦りますが、3Dプリントで製造した人工呼吸器の臨床利用は過去に例が無く、医療機器なので、これほどの緊急事態でも薬事承認のハードルが立ちはだかります」

 

現在この人工呼吸器モデルは、日本を含む世界で医療機器認証が得られておらず、石北医師や木阪医師らは、人工呼吸器が必要な国や地域での認証化を目指している。

人工呼吸器不足はすぐにでも解消したい問題だが、世界中から注目されるこの3D​プリント人工呼吸器は、いつ世界に届けることができるのか? 現状はどこまで進んでいるのか?

プロジェクトの代表者の1人である木阪医師に詳しく話を聞いた。
 

イタリアの人工呼吸器を装着できない事例を知り決断

――なぜ今回、データを無償提供することになった?

新型コロナウィルスに対してワクチンや根本的治療がない中、北イタリアで一定年齢をこえる患者さんに人工呼吸器を装着できない事例を知りました。機器がないために生命維持ができず、患者さんを失う医療者の痛みを思い、事態を打開する希望になればと発明者の石北直之医師とプロジェクトの共同代表として決断しました。
 

――データは本来なら価格はどれくらいするもの?

データの価格は医療機器として平時の発売価格がつく前提で見積もること(患者数×単価とコストの差額)ができます。具体的な計算は今の事態ですから私どもではしておらず、無償提供の原則で活動しています。
 

製作はある程度慣れていれば可能

――3Dプリンターさえあれば、誰でも簡単に作れる?

一定の3Dプリント技術と正確に私どものガイドに準拠して下さればできます。ある程度慣れておられる必要があります。
 

――どのくらいの数を量産できる?

改良も続き最終的に製造時間が3.5時間(機能により8時間とした報告もあるなか)となる見通しが立ってきましたので、3D​プリンターの1日稼働時間÷3.5時間×関わる台数で一日の生産数を概算できます。量産についてはさらに複数の検討をして、もっとも効率よく量産できる方法を確立しつつあります。
 

イタリア、アメリカなど世界中から依頼

――データを使用したいという声はどこの国からある?

イタリア人医師からわれわれのプロジェクトを手伝えるか、米国医師から現場で使いたいとの声、イギリスの高次研究機関から協力の打診、政府機関ではインド・東欧のIT立国を目指す国などからの問い合わせです。許可なく国名を挙げられない国も複数ございます。
 

――作りたいという企業や病院は現れている?

ものづくり企業として実績のあるところが手を上げてくれています。大手もございますが、公開できる企業では株式会社Newtonが先駆けであり、プロジェクトが生まれる前から石北先生を支援しています。

――データが欲しい医療機関はどうすればいい?

今は、3Dプリント技術と製品品質の要件を満たす協力者を募っており、形状模型データを配布しています。このデータ通りに製作していただき、私どもへフィードバックをくださった品質が十分であれば、配布可能になった時点でお送りできます。
 

許認可は安全性、耐久性、有効性についてプロセスを経る必要

――早ければいつから使えるようになる?

時期について言及しますと独り歩きしますので、「使える」ことを、試験的にでも臨床現場に「届ける」と置き換えてご回答します。夏にはと考え活動を始め、時期を早める手続きを踏んできております。
 

――実用化に向けて立ちはだかる壁は?

障壁と言う意味ではなく、許認可は患者さんに届けるために満たすべき安全性と耐久性ならびに有効性についてプロセスを経る必要があります。この点で、医療機器開発の経験と医療者としてのユーザー目線から、国の認証制度とそれにかかわる人たちの献身的で専門性が高い仕事ぶりを信頼しております。乗り越えることで、将来の患者さんに有害事象を起こさず済むということがありえますので、壁と呼ばず建設的な提言者だと思っています。
 

――ちなみに動物用のものを人間用に転用という話もあるが、これについてはどう思う?

呼吸の維持という生命の根幹にかかわる方法なので、有事の対応としてはあり得ると考えます。医療者の視点では、やはり患者さんの安全第一ですから、有害事象が生じたとき情報を共有してフィードバックする体制が肝要だと考えます。
 

――医療関係者に向けて伝えたいことは?

協力をお申し出くださっている製造業界の方に誤解ないようにお願いしたうえで、「3Dプリンターが患者を救うのではありません。いついかなる時も人が人を助けるので、私たちを助けてください」。始動できる専門家チームがコアメンバーにそろいましたので資金を募っております。

 

現在、このプロジェクトはクラウドファウンディングの準備を進めていて、実用化研究のための寄付も受け付けている。まだ実用化にはプロセスを経る必要があるということだが、新型コロナウイルスの感染を防ぎ、一人でも多くの命を救うためにこうした知恵が必要とされている。
 

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