フランス全土に発令された外出禁止令に抜け道

ゴーストタウン化したパリ
ゴーストタウン化したパリ
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次々と国境閉鎖や外出禁止令の措置を取る国が増える中、フランスもついに3月17日正午から4月15日までフランス全土の外出禁止令を発令した。フランスでは、27日現在、感染者が3万2964人、死者が1995人になっている。

生活必需品を売る店以外、レストランやバーなどは閉店し、全土の都市はゴーストタウン化した。外出時には許可証が必要となり、毎回所持することが義務付けられ、所持していない場合は約1万6千円の罰金が科される。

また、人との接触をできるだけ防ぐため、政府はテレワークも呼びかけた。しかし、この許可証には不可解な記述も見られた。それはこの非常事態の「散歩や適度な運動のための外出」は許可されていることだ。

27日パリ中心部の商店街、人が多い
27日パリ中心部の商店街、人が多い

パリ中心部から離れると、多くの住民が自由に子供を連れ散歩をし、狭い道で他人とすれ違うケースも多くみられる。警察と一部の国民の間で、事態の重みの受け止め方が違うことを痛感した。前代未聞の状況に突入した「自由の国フランス」では、このままだと感染拡大の恐れを招くと感じた。

我々報道陣も例外ではなく、出勤や撮影のため移動する際にはこの外出許可証が必要となった。この非常事態に、全国で警備に当っている警官は約10万人。ゴーストタウン化したパリ中心部では、予め、中継のための撮影が可能かを警察庁に確認を取ったにも関わらず、その確認とは異なる対応が待っていた。

報道陣も出勤や撮影のため移動する際にはこの外出許可証が必要
報道陣も出勤や撮影のため移動する際にはこの外出許可証が必要

「報道陣は一般市民と変わらず、一定の場所に居てはいけない」
とその場から追い払われたのだ。

現地メディアは連日様々な場所から中継を行っている中、やけに我々東洋人に対しての対応が厳いと言わざるを得ない。しかし非常事態であるため、感染者が増えている状況の中だと理解し、現場から速やかに離れた。

「戦争状態」下での医療関係者への負担

事態の深刻さを「戦争状態」だと訴えるフランスのマクロン大統領
事態の深刻さを「戦争状態」だと訴えるフランスのマクロン大統領

マクロン大統領が3月16日テレビ演説で「戦争状態」と連発し、事態の重みを国民に訴えた。国民への負担もさることながら、医療関係者への負担が最も大きい。イタリアでは、毎日数百人単位で感染者と死者が増えた。この背景は、ここ数年間で、財政難による医療機関の大幅な閉鎖で、医療体制が崩壊していることが理由のひとつと言われる。

OECDの調査によると、イタリアは1000人の国民に対して集中治療室のベッド数が2.6となっているので驚きだ。フランスも、同じような数字だ(3.1)。日本は、7.8で先進国の中で最も多い。

OECD2020、国別集中治療室のベッド数
OECD2020、国別集中治療室のベッド数

もはや集中治療室に空きがないイタリアでは、苦渋の選択が迫られている。どの患者の治療を止めるのか、続けるのか。このままだと、フランスはイタリアと同じ状況になるのは時間の問題だと思える。

そのため感染拡大を遅らせる、又は防ぐことが最優先事項だ。フランスでは、その対策の一つが「遠隔診療」の活用だ。

フランスで進む遠隔診療の実態

遠隔診療アプリQare
遠隔診療アプリQare

ネット診療を進めているフランスの事情を調べてみた。
フランスのマクロン大統領は2017)年の公約で、遠隔診療や新しい技術を医療界に導入することを掲げ、地方の医師不足問題の解消に取り組んできた。

その1年後には、アプリなど、ネットを使った診療でも保険が適用されるようになった。こうした動きは、医療界としては大きな進歩である一方、診察費などの面で問題も残る。例えば、フランスで診療を受けた際、その一部が社会保障制度によって払い戻しされるが、「家庭医」が診療を行ったのか、一般の医者が行ったのかによって診察料が異なる。

「家庭医」とは日本で言う、「かかりつけ医」に当たり、相談や専門医への紹介など患者の病状にあった適切な医療機関の紹介を行っている。この「家庭医制度」とは、事前にかかりつけとなる身近な医師を選んでおく制度だ。フランスでは、9割以上の国民が家庭医を選び登録している。

登録しておけば、患者は受けた健康診断の結果や、これまでの病気やケガなどの診断履歴を継続的に残すことができる。登録は義務ではないが、もし家庭医を登録していない場合は診察料の3割しか国から払い戻しがないのに対し、登録をした場合は7割も戻ってくる。

その上、家庭医による診療の結果、もし専門医による追加の診察が必要な場合、家庭医を通し「紹介」してもらった方が払い戻しの額が高いのだ。

パリ市内病院
パリ市内病院

一方、これほどまでにメリットが大きいのに、なぜ残りの1割の国民は家庭医を登録していないのだろうか?

その原因の一つが、フランスが直面している大きな問題となっている医師不足だ。高齢化、地方から医者の移住など、さまざまな理由が挙げられる。多忙なスケジュールで新たな患者を担当する時間すらない、という医師が続出しているのだ。その結果、医師は、患者から新たに家庭医として登録されることを拒否するケースも出てきている。

2018年保健省が発表した調査では、診察を受けるために平均で6日間待ちというデータもあり、こうした医師不足が、画面を通しての遠隔診療がフランスで広がりつつある大きな要因となっている。

しかし、遠隔診療の発展を妨げる要因が一つあった。それは社会保障からの払い戻しを受けるには、遠隔で診療してくれる医師に一度直接会わなければならないことだ。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は事実上の非常事態宣言と共にその条件を解除した。目的は緊急病棟に駆け込む患者を減らすことだ。医療機関と患者の間に一線を引いて、遠隔診療で病状の軽い患者と重い患者を分け、軽い病状なら自宅待機を命じる形となっている。重い場合、患者は医療機関に運ばれウイルス検査も行われる。

新型コロナウイルスは遠隔で診療

遠隔診療アプリQare
遠隔診療アプリQare

今回フランスで開発された遠隔診療プラットフォームアプリの一つ「QARE」に連絡してみた。
「1月からすでに診療数が毎週1割のアップを記録していたが、今回の新型コロナウイルスで毎週25%上がっている」
広報担当者によると、診療内容のおよそ半分が新型コロナウイルスによるものだ。

フランス国内では医療界への感謝と団結を示すために様々な活動が行われている。毎日20時から医療関係者にエールを送るため全国各地では拍手が起こる。レストランの中には閉鎖を余儀なくされる中、医療機関に無料でお弁当を配るところも出てきている。

また、アプリの経営者は医師の負担を考慮し、通常必要な医師の登録費を無くし、不慣れな医師に対しては、技術サポートを無料で提供している。その結果、登録された医師の数は10倍に跳ねあがった。現在、診察を1時間以内に受けられるようにし、高齢者や身体障碍者の移動を出来るだけ避けることが可能になっている。また、待合室で人が密集することを避けられることから、院内感染の拡大防止にも貢献している。

ダイヤモンド・プリンセス号で活用された「スマホ診療」

LINE CSMO提供、2月14日ダイヤモンドプリンセスの乗客に遠隔診療を受けらるようiPhoneを提供
LINE CSMO提供、2月14日ダイヤモンドプリンセスの乗客に遠隔診療を受けらるようiPhoneを提供

実はこの遠隔診療は日本でも活用されたのだ。

日本で、感染拡大の温床となった場所の一つであるクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」からは3月1日、すべての乗客の下船が終了した。ここでは停泊期間中、日本ではまだあまり浸透していない、「スマホを通した遠隔診療」が行われた。

厚生労働省は、LINEアプリが事前にインストールされた約2000台のiPhoneを乗客に配布し、この中に登録されたアカウント「厚労省コロナウイルス対応支援窓口」を通して、乗客からの質問を受け付けたほか、心理カウンセラーの団体への相談や、医薬品に関する要望ができるようにしたのだ。

新しい技術で将来は自宅が診療所の可能性

しかし遠隔診療は、まだ不完全なサービスでもある。現在、サービスは主に簡単な診察、処方せんや診断書を提供するもので、精神科から内科と幅広く扱えるようになっているが、リウマチやアレルギーなどの専門科を導入するには至っていない。

こうしたことから、遠隔診療をより正確に行えるように、改善する動きも始まっている。正確な診断結果を出すには、データが多い方がよいという観点から、薬局に「接続オブジェクト」という器具を置くというものだ。「接続オブジェクト」とは、体温計、耳鏡、聴診器、咽頭鏡などのことで、パソコンやスマートフォンにつないで、診療情報を画面の向こうにいる医師に提供し、診察に役立てる。

遠隔で診療している医師が、これらを通して体温や患部をリアルタイムで観察して診断の精度を上げる。そのための設備の充実に向けた努力が行われている。

接続オブジェクト医療器材写真
接続オブジェクト医療器材写真

こうした方法への期待は、医師が不足している地域でも高まっている。今後、アプリの開発者側は、オブジェクトが設置されている薬局と医師をオンラインでつなぎ「遠隔診療所」化を進める方針だ。

フランスでは、アプリ上で診療を行う医者の数をさらに増やし、家庭医も遠隔診療が行えるようにする見通しだ。設備が充実した場合、新たなウイルスの感染症が発生した時にも、このサービスが感染の拡大を防ぐ手立てになるかもしれない。そして、医師不足も補えるだろう。

このように利便性が高まっている遠隔診療は、私生活も多忙になっているこの時代に合ったものである一方、直接医師に会って診断を受けることへの安心感を覚えるのは、私だけだろうか?
医師が不足しているのは事実であり、診療の素早い予約が困難な時代である。

しかし、人命がかかわってくる医療分野では、できるだけ症状や傷の状態を直接見てもらい、判断してもらうという人と人とのつながりを重視する必要があると感じる。 医師が「医療資源」として有限なものとみなされる現在、フランスでは確実に遠隔診療は加速していくだろう。しかし、インターネットに慣れない高齢者は不安を抱えるだろうし、実際に見ないで症状や原因の見落としはないのかという疑問もある。

日本でも同じような動きが近い将来進むかもしれない。その場合、こうした懸念がどう解消されていくのか、期待と不安を持ちながら見守っていきたい。

【執筆:FNNパリ支局 小林善】

小林善
小林善

FNNパリ支局